中国語・日本語・韓国語・ベトナム語の共通語彙ー東洋共通語になった日本語の語彙たちー
東洋各国の漢字語彙をその出自によって大雑把に分類すると、以下の3つに分類できる。
①古代~中世の中国発で日本語・韓国語・ベトナム語に入った語彙
(一般的に各国の漢字語彙において多数を占めるのはこれ)
②近代以降の日本発で中国語・韓国語・ベトナム語に入った語彙
(近代的な概念は大多数がこれ)
③各国独自の漢字語彙
(例えば、ベトナム語にはあって中国語・日本語・韓国語には存在しない漢字語彙)
韓国語発→中国語・日本語・ベトナム語と、ベトナム語発→中国語・日本語・韓国語というパターンは残念ながら存在しない。もしかしたら、探せばそういう単語もあるかもしれないが、筆者は把握していないし、あったとしても少数であろう。
②にあたる明治維新以降の日本発の漢字語彙は、金光林(2005)『近現代の中国語、韓国・朝鮮語における日本語の影響ー日本の漢字語の移入を中心にー』という論文によるとさらに3つの区分に分けることができる。
A、純日本語、もしくは日本固有の漢字語だが、漢字で書かれるために他の東洋語に流入した語彙
B、東洋の古典に登場する語彙に、欧米由来の近代的な概念を表現するため日本人が新しい意味を付与し、いわば「再生」した語彙
C、近代的な概念を日本人が独自に意訳した語彙
福沢諭吉など日本の知識人が他の東洋各国に先んじて西洋の新しい概念を漢字訳し、それらの語彙が他の東洋諸国に移入したことは中国語か韓国語かベトナム語を学習しておられる方ならご存じだと思うし、それらの言語を学んでおられない方も聞いたことがあると思う。しかし、欧米の先端概念に由来するわけではなく、元々日本語にあった語彙が移入したケース(上述のA)や、西洋文明に由来するが日本人が一から訳したわけではなく、中国の古典に登場する語彙の意味を改造することで生まれたケース(上述のB)もある。以下では具体例を交えつつ、上述のAとBにあたる語彙について紹介しよう。
A、日本在来の漢字語彙
何はともあれ、まずは例をみてみよう。中国語・日本語・韓国語・ベトナム語から同時に検索できる辞書、「CJKV辞典」からのスクリーンショットを使って紹介する。






このカテゴリーの特徴を分かりやすく伝えるべく、あえて日本語では訓読みされる(純日本的な造語法に基づいた)語彙のみを紹介した。だが、日本で造られたのに日本で音読みで読まれる語彙とか、日中越にあって韓国語にない語彙(「場合」など)、日中韓にあってベトナム語にない語彙(「但書」など)、日韓にあって中越にない語彙(「覚書」など)、日中にあって韓越にない語彙(「読物」など)なんかも含めればもっとたくさんある。
B、東洋の古典に由来するが近代に改造された語彙
これは表を用いて提示しようと思う。ただ数が多いので紹介するのは全体からすればわずかである。

これらは日本人が一から訳した語彙ではなく、中国の古典を参照することでできた訳語である。ただ、Insuranceなど福沢諭吉は「災難請合」や「危難請負」と訳しており、「保険」と訳されたのは中国が先かもしれない。必ずしも日本人が先に再定義したものばかりではない可能性もある。
ただ、「どちらが先か」ということを重視するのは本記事の趣旨ではない。かつて東アジアの知識人が西洋文明にキャッチアップするべく西洋の先端概念の翻訳に努力した歴史があるということ、かつての東洋人はこれらの古典に明るく、こうした語の意味を理解するのが容易だったために東洋各国語に広まり定着したということが筆者の伝えたいことである。
なお、上述のCにあたる語彙、つまり元から日本語にあったわけではなく、中国の古典を参照して訳したわけでもない、日本人が自力で訳した語彙ももちろん豊富に存在する。具体例は金(2005)を参照していただきたい。
Cのカテゴリーの語彙やその影響として特徴的なのは、「~化」、「反~」、「~員」といった接辞成分の利用である。「~化」は英語の接辞-zation、「反~」はanti-, counter-, contra-に、「~員」は-er /-or, -ist, -eeにそれぞれ対応する。
おわりに
東洋各国語はそれぞれ語族が異なるため、互いの言語を学習するのが容易ではない(日本語ー韓国語間、中国語ーベトナム語間は比較的容易)。また、東洋には概して英語を話す人も少ないため、それゆえに交流が起きにくいのは残念なことである。
しかし、漢和韓越各国語間には漢字を使用する(していた)という共通項があり、そのおかげで多大な量の共通漢字語彙を持つ。この事実は重要であるにもかかわらず、認知は十分にされていないと筆者は考えている。そうした認知さえあれば、例え東洋の同胞と交流はできなくとも、過去の交流の歴史は想像できるようになるのではないだろうか。
参考文献
金光林『近現代の中国語、韓国・朝鮮語における日本語の影響ー日本の漢字語の移入を中心にー』、『新潟産業大学人文学部紀要』第17号、2005年
このシリーズをまとめているマガジン
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