マンモグラフィと超音波、乳がん検診はどちらを受けるべき? ― J-START研究が示したもの
こんにちは。乳腺外科医のDr.アポロンです。
前回は「乳がん検診の大切さ」についてお話ししました。今日はその続きとして、診察室で本当によく聞かれる質問にお答えしたいと思います。
「マンモグラフィと超音波、結局どっちを受ければいいんですか?」
これは単純なようでいて、実は専門家の間でも長年議論されてきたテーマです。今日は、この問いに大きなヒントを与えてくれた日本発の大規模臨床研究「J-START」の結果をもとに、できるだけわかりやすく解説します。
マンモグラフィと超音波、それぞれの得意分野
まず基本のおさらいです。
マンモグラフィは乳房専用のX線検査で、乳がんの中でも特に「石灰化」と呼ばれる微小なカルシウムの沈着を捉えるのが得意です。これまで世界中で行われた研究により、40歳以上の女性において死亡率を減少させる効果が証明されている、現時点で唯一の検診方法でもあります。
**超音波検査(エコー)**は放射線を使わず、しこり(腫瘤)の形や内部構造を映し出すのが得意な検査です。痛みもほとんどなく、体への負担が少ないという特徴があります。
ただし、マンモグラフィには弱点があります。日本人女性、特に40代に多い「高濃度乳房(デンスブレスト)」では、乳腺組織が画像上で白く写るため、同じく白く写るがん組織が背景に紛れて見えにくくなってしまうのです。これは特に欧米人と比較して乳腺の密度が高い傾向にあるアジア人女性で、より重要な課題とされてきました。
J-STARTとは何か
この課題に正面から取り組んだのが、東北大学が中心となって実施した「J-START(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial)」です。2007年から全国42の研究参加団体を通じて、40代の女性76,196人という非常に大規模な人数の協力を得て行われた、ランダム化比較試験(RCT)でした。
RCTというのは、参加者をくじ引きのようにランダムに2つのグループへ振り分けて比較する研究デザインで、科学的な根拠としては最も信頼性が高い手法とされています。J-STARTでは参加者を、
マンモグラフィ単独で検診を受けるグループ
マンモグラフィに超音波検査を上乗せするグループ
の2群に無作為に割り付け、検診の成績を比較しました。
わかったこと①:がんの発見しやすさが大きく向上した
まず2015年に報告された初回の結果です。超音波を上乗せしたグループでは、がんを正しく「がんの疑いあり」と判定できた割合(感度)が91.1%だったのに対し、マンモグラフィ単独グループでは77.0%にとどまりました。また、がんの発見率もマンモグラフィ単独の0.32%に対し、超音波併用では0.5%と、約1.5倍に向上しています。
一方で良いことばかりではありません。超音波を追加すると「要精密検査」となる割合も増加し、結果として不必要な追加検査を受ける人が増えるという不利益(偽陽性の増加、特異度の低下)も同時に確認されました。この「利益と不利益のバランス」は、検診を考えるうえでとても大切な視点です。
わかったこと②:進行がんそのものが減った
そして最近、さらに重要な結果が国際的な医学雑誌The Lancetに報告されました。研究開始から15年にわたる追跡調査により、超音波を上乗せしたグループでは、マンモグラフィ単独のグループと比較して、ステージII以上の「進行乳がん」の累積罹患リスクが17%低減していたことが示されたのです。
検診の本来の目的は、単に「がんを見つけること」ではなく、「進行する前の段階で見つけ、命を守ること」にあります。その意味で、進行がんそのものが減ったというこの結果は、超音波併用検診の意義を裏づける重要なデータといえます。
では、結局どうすればいいのか
ここまでの内容をふまえると、特に
40代である
乳腺が濃いタイプ(高濃度乳房)だと言われたことがある
マンモグラフィだけでは不安が残る
という方にとって、マンモグラフィに超音波を組み合わせることは、有力な選択肢のひとつだと考えられます。
一方で、超音波併用には「要精密検査」が増えるという不利益もあり、また現時点では超音波検診単独での死亡率減少効果はまだ証明されていません。年齢や乳房の状態、これまでの検診歴によっても最適な検査方法は変わってきますので、迷ったときはぜひ、検診を受ける施設や乳腺の専門医に「自分にはどの検査が向いているか」を相談してみてください。
また個人的に実際の臨床を行っていてアポロが感じることは、超音波検査は臨床検査技師の方や使用している超音波の機械によっても大きく精度が異なってきます。(アポロが使用しているエコー装置も軽トラックくらいの値段のものから、ベンツどころかやポルシェやフェラーリくらいの値段のものもあり、当然お値段が違うと性能もある程度異なってきます)
次回は、検診で「要精密検査」という結果が届いたとき、実際にどのような流れで精密検査が進んでいくのかをお話しする予定です。結果通知を受け取って不安になる方はとても多いので、少しでも心の準備の助けになればと思います。
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※この記事は一般的な医学情報の共有を目的としたものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療方針を示すものではありません。ご自身の検診方法についてお悩みの際は、必ず医療機関にご相談ください。
