日本人だけがする質問
日本人だけがする質問
エジプトに旅行した時のことだ。
グループツアーだったので、日本語を話せるエジプト人のガイドさんがついてくれた。驚くほど日本語が上手で、移動中のバスの中でも、エジプトの
歴史や文化についていろいろな話を聞かせてくれた。
その中で、今でも忘れられない言葉がある。
同じツアーの参加者が、窓の外を指差して尋ねた。
「あの木は何ですか?」
ガイドさんは「あれはアカシアです」と答えた後、笑いながらこう続けた。
「でも、そんなことを聞くのは日本人だけですよ」
少し驚いた。
え、他の国の人は聞かないのか?
なぜ日本人だけそんなことを聞くのだろう。
その時は、その言葉が心に残っただけだった。
カエルの大合唱は?
でも、ある日、田んぼに響くカエルの大合唱を聞いた時、ふとその言葉を思い出した。
そういえば、虫の鳴き声を「虫の音」と呼ぶのも日本人らしい。
以前、外国では虫の鳴き声を雑音として受け取る人も少なくない、と読んだことがある。
確かに、田んぼに響くカエルの大合唱は、冷静に考えればかなりの騒音だ。
それでも私は、その声を聞くと、「この田んぼのどこかにいるんだな」と思う。
そして同時に、「ああ、田植えの季節だな」とも思う。
ただの音ではない
昔の日本では、季節を知ることは、暮らしそのものだったのだろう。
雨が降るか。
いつ田植えをするか。
いつ収穫するか。
それは毎日の生活に直結していた。
だから虫の声や鳥の鳴き声も、ただの音ではなかったのだろう。
昔の人にとっては、大切なお知らせのようなものだったのかもしれない。
あの時、バスの中で誰かが知りたかったのは、木の名前だけではなかったのではないか。
あれは日本にもある木だろうか。
秋には紅葉するのだろうか。
どんな花が咲くのだろう。
そんなふうに、その木の先にある景色まで想像していたのかもしれない。
そう考えると、虫の声を「虫の音」と呼ぶのも、日本人らしい気がしてくる。
