呼ばれて、語った〜告発は正義から始まったのではない〜
中尾正幸副議長が辞職した7月24日、産経新聞の総括記事に一行あった。吉松源昭県議が「全て話す決意をした」のは、県警に呼ばれたあとだった、と。
告発は、正義から始まったのではない。参考人聴取から始まった。
順序
これまで、吉松氏の告白を会派内部からの告発として読んできた。会派を出た人間だから語れた、失うポストがないから恐喝と呼べた、と。順序が一つ抜けていた。
きっかけは、県警です。
県議会では、1泊10万円以上のハワイ訪問などの高額視察が問題になり、自民党県議団の幹部が背任罪で刑事告発されている。この件で、県警が吉松氏に接触した。議会で質問しているあなたの意見を聞きたい、と。参考人として聴取を受け、それを機に、彼は全て話す決意をしたという。
背任で告発された幹部と、金銭授受で名指しされた幹部が、どこまで重なるかは報じられていない。ただ、どちらも自民党県議団の幹部です。同じ会派の同じ層を指している可能性は残る。もし重なるなら、県警が背任で聴いた相手と、吉松氏が金を渡したと証言する相手が、一部で同じ人物ということになる。
視察の背任が先にあった。その捜査の枝から、金銭授受の告白が出てきた。
前に、視察費の記事と金銭授受の記事を、別々に書いた。視察費は公金だから住民訴訟の射程に入り、金銭授受は私金だから射程に入らない、と。二つは性質の違う問題として分けていた。県警の中では、分かれていなかった。背任の参考人聴取が、金銭授受の告白を引き出している。
引き出された告白
告白が自発だったか、誘い出されたかで、証言の重さは変わる。
自分から名乗り出た告発なら、動機を問われる。会派への恨みか、選挙目当てか、と。前に、吉松氏の証言は動機を疑われて割り引かれると書いた。告発に動機があれば疑われ、動機がなければ告発は起きない。抜け出せない循環だと。
県警の聴取が起点なら、循環の外に出る。彼は名乗り出たのではない。呼ばれて、問われて、答えた。
もっとも、参考人聴取に供述の義務はない。参考人は被疑者とも証人とも違って、答えなくても罰されない。呼ばれたが、語らない自由はあった。それでも彼は語った。聴取が起点だという事実は、告発から動機の色を薄める。だが語ったこと自体は、義務ではなく選択でした。
そして、聴取で背任について問われたことと、金銭授受を自ら語り出したことは、別の行為です。県警が金銭授受を聞いたとは報じられていない。彼は背任の参考人として呼ばれ、それを機に、聞かれてもいない金銭授受まで語る決意を固めた。呼ばれたのは事実で、語ったのは彼の選択です。
告発は、吉松氏一人ではない。副議長を務めた江藤秀之県議も、実名で同じ時期の金銭授受を証言している。二人が名前を出したうえで、金は動いたと語っている。片方を切り崩しても、もう片方が残る構造です。
吉松氏は、幹部から「汗をかく気はあるんだろう」と言われたと説明している。汗をかくは、現金を支払うを意味する隠語だという。聴取のあとに語られたこの具体の言葉が、隠語の意味を裏から埋めている。抽象的な慣行の話ではなく、就任前にかけられた一言として出てきた。
縮んでいく否認の、その先
第1稿で、中尾氏の否認が段階的に後退していると書いた。
6日、音声は自分のものではない。14日、声紋は自分でも会話の信ぴょう性で戦う。同じ会見の質疑で、会話はしたのだろう。残ったのは、金は受け取っていない、だけだった。
24日、彼は議席を手放した。
議員辞職は、懲罰ではない。本人の意思で職を辞す行為で、議会が下す処分とは違う。だから辞職には、事実認定がついてこない。金を受け取ったと認められて辞めさせられたのではなく、県政の混乱を招いた責任として、自ら辞めた。焼却と認定は、ここでも別々に動いている。
後退の果てに残った一点を守るために、議席を差し出した形です。声を認め、会話を認め、金の受領だけを否認したまま、その否認を抱えて辞めた。辞職会見でも、事実無根、金銭の授受は絶対にない、と繰り返している。記者から、辞職すれば県民は授受があったと思うのではないか、と問われても、崩さなかった。
会見で、彼はこうも述べた。議員辞職をして、立場ではないが議長を支えていく、と。名指しされた副議長が、辞職後も議長を支えると言う。前に、一人が消えることで蔵内議長が助かると書いた。その構図を、消える本人が言葉でなぞった。
ここで否認が反転する。
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