手遅れ
1976年。
高校1年の1学期、中間テスト。
現代国語の設問に、こんなのがあった。
「香という漢字を使った言葉を書きなさい」
高校生にもなって、「香水」でいいわけがない。
「芳香」も、ちょっとなぁ。
勝手にそう思ったので、
小説『少将滋幹の母』で見かけた、
「香木」という言葉を書いてみた。
返ってきた答案にはバツがつけられていた。
「香水」や「芳香」なら正解だったのかな?
高校1年の2学期、中間テスト。
再び現代国語。
再び似たような設問。
「営という漢字を使った言葉を書きなさい」
再び、高校生にもなって、
さすがに「営業」はないだろうと思った。
中学2年のとき、
国語の単元に庄野潤三の短編があった。
タイトルは忘れたけれど、
そこに「営巣」という言葉があった。
【営巣】とは?
鳥類が繁殖期に枝や泥、枯れ草などを集めて
構造物を造る行動を指す。
こんな具合に授業で習ったので、
「営巣」と書いて提出した。
再びバツだった。
その設問の配点が30点だったら、
1学期の段階から教師に聞きに行っただろう。
でも大勢に影響はない配点。
「まあ、いいや」と思った。
その国語の先生は、
2学期の終わりに結婚した。
3学期になって、
急に授業中に、ご主人との会話を聞かせてくれた。
昨日、主人と話していたら、
「営巣」という言葉が出てきたの。
そういう言葉、あるのね。
私、以前にテストでバツを付けちゃったの。
ごめんなさい!
かなり手遅れ!
特にこの女性教師がキライだったわけでもない。
正直な人だなと思った。
ただ、出身校がマトモだっただけに不思議だった。
ご主人は、うちの学校の日本史の先生だった。
天皇の和風諡号から江戸時代のオランダ通詞の
育成方法まで、さまざまな質問に、
真面目に丁寧に答えてくれた。
面白い組み合わせの夫婦だなと思った。
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天に星、地に花、猫にオヤツ。ただいま9匹と同居中です。