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Case.003 ミルク調整におけるメニスカス依存性

哺乳瓶というのは、
妙に反応条件がシビアだ。

粉ミルクの量、お湯の温度、溶かす順番、冷ます時間。
乳児という反応容器は繊細で、
条件がわずかにずれると泣く。
盛大に泣く。
理由は不明。

先日、
妹がミルクを作っていた。

机に置いた哺乳瓶へ、
付属スプーンで粉ミルクを投入し、
そのまま立った状態で、
ドボドボとお湯を注いでいく。

私はその様子を見ながら、
軽く衝撃を受けていた。

立ったまま……?

液面を見ない……?

そこで気づいた。

あぁ、
これは完全に職業病だ。

私はミルクを作る時、
必ず台の前へしゃがみ込む。

目線を哺乳瓶の目盛りと水平に合わせ、
ゆっくりお湯を注ぎ、
液面を読む。

そう。

メニスカスを合わせる。

ほんの数mLの誤差に、
妙な緊張感がある。

第一子の新生児期なんて特にそうだった。

数mlのミルクを作るために、
付属のスプーンでは誤差が大きすぎると判断し、
粉ミルクを秤で測っていた。

0歳児のミルクを。

秤で。

哺乳瓶に限らない。

計量カップも目線を水平にする。
大さじで醤油を加えたあと、少量の水で共洗いする。
鍋に移す。

そこに有意な差があるのか。

はっきり言おう。

ない。

醤油の共洗いで増える液量など、
たぶん誤差だ。

統計的にも、
人生的にも。

むしろ、
三女が牛乳をこぼし、
長女と次女がYouTubeのチャンネル争いをしている系においては、
そんな誤差、
容易に飲み込まれる。

それでも私はやる。

もちろんキッチンは研究室ではない。

反応容器はテフロン加工のフライパンで、
基質は冷凍の豚バラで、
目的物は夕飯だ。

目的物に対して、私の操作は過剰だ。

明らかに。


台所でしゃがんで哺乳瓶を見ていた私に、
夫が一言言った。

「何してんの」

回答に困った。

「メニスカス合わせてる」と言っても通じないし、
通じたところで何も解決しないし、
解決すべき問題かどうかも、
今となってはよくわからない。

三人の娘を育てながら、
私はたぶんずっとしゃがんで目盛りを見続ける。

意味があるかどうかより先に、
体が動く。

それだけだ。

****
あとがき

本研究は、育児系溶液調製反応における液面観測習慣の残存機構について検討したものである。
実験の結果、筆者は研究室を離れた家庭でもなお、定量操作への過剰な執着を維持していることが確認された。
一方で、当該操作と育児系反応収率との間に明確な相関は認められず、「ただの癖ではないか」という仮説が有力視されている。

以上。ご清聴ありがとうございました。

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#子育て
#有機合成
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