もう、1時間前の私とは違う。
私の車は軽自動車だ。
そんなに運転が好きではないし、上手くもない。
だから、使うのはほぼほぼ買い物。
たまに、思い立ったかのようにドライブに行くくらいだ。
しかも、その軽自動車は息子と娘と3人でシェアしている。
息子は、働き始めてすぐに、ちょっといい車を買った。
けれど、よくよく考えて、
「お金を払ってまで乗るものではない」
と判断したらしく、すぐに手放した。
しかも、借金をチャラにしたうえ、多少の利益まで得ていた。
いまどきの子だ。
賢明だ。
というわけで、今は3人で軽自動車をシェアしている。
そして、我が家にはもう1台、ワゴン車がある。
このワゴン車は、夫の厳しい管理下にある。
物の配置は決められている。
お菓子も、こぼれるものは厳禁。
そもそも私は運転が苦手だ。
夫と付き合い始めたころ、あまりにも運転が下手だった私は、怒鳴られながら運転していた。
そのトラウマもあって、軽自動車以外は、ほぼ運転していない。
軽自動車なら、自分の車だから自由に運転できる。
だから私は、
「もう、このワゴン車を運転する日は来ないだろう」
と思っていた。
いや、運転したいとも思っていなかった。
ところが今日。
ワゴン車を運転しなければならない事態が発生した。
急に娘の虫歯が痛み出したのだ。
どうしても歯医者に行かなければならない。
いつもなら軽自動車で行くところだが、今日は息子に貸し出し中。
そして夫は、昼飲みをして、すっかり出来上がっている。
……やむなく。
本当に、やむなく。
私がワゴン車を運転することになった。
怖い。
幅も違う。
長さも違う。
上手く運転できる気がしない。
出発直前まで、
「タクシーで行けよ!」
と直談判していた。
でも、痛みで顔を歪めている娘を見ると、そうも言っていられない。
腹を括った。
もう年季の入ったワゴン車だ。
多少の傷もある。
「今さら傷つけたって、もういいよ運転して慣れたら」
と夫にも言われていた。
それでもやっぱり進んで乗りたい車ではない。
私は覚悟を決めて、ワゴン車に乗り込んだ。
そして、走り出した。
……あれ?
昔ほどの怖さがない。
幅も、そんなに抵抗がない。
もちろん、道が狭いところは無理かもしれない。
でも、いける。
運転できる。
あたし、大きいのもいけるやーん!
歯が痛いはずの娘も、
「行けてるやん!」
と褒めてくれた。
なんだ。
あたし、やればできるやん。
たかが車の運転と思うなかれ。
ここに至るまでには、いろんな葛藤があったのだ。
まあ、まだ駐車場にちゃんと停められるかについては、疑問の余地がある。
でも、走ることに関しては、いけた。
娘を目的地へ送り届け、喜び勇んで帰る。
そして、家の駐車場への駐車も、なんとかできた。
51歳にして、ひとつ乗り越えた。
私はその喜びを噛み締めながら、安堵して横になった。
……すると、すぐに連絡が来た。
「迎えに来て」
最初はあんなに行き渋って、
「タクシーで行け!」
とまで言っていた私なのに。
ひとつ返事で迎えに行った。
もう、1時間以上前の私とは違うのだ。
私はまたワゴン車に乗り込んだ。
娘を迎えに行き、待っている少しの間。
旅先から写真を送ってきた長女に、運転記念の写真を送った。
ひっつめ髪で、ちょっとだけひきつっている私。
何かをやり遂げた人間にしては、あまり品のない顔をしている。
でも、私はできたのだ。
虫歯の娘は、麻酔も効いて、痛みもなさそうだった。
「写真撮ってたよね」
めざとい。
「運転記念に撮ったよ!」
ニヤリと答えた。
#日常エッセイ
#50代
#51歳
#運転
#できた
#小さな一歩
#人生
#家族
#運転苦手
#日々のこと
