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超・K字型経済となる中国⑤:少子化が進む上海

今回は極端なK字型経済へ移行している中国の姿の最終回、K字型経済の「勝ち組」の代表格である上海の事例を提示します。

事例⑤:K字型経済の上層は少子化が進む

中国で進む少子化と聞くと、不況でお金が無く、子育てにお金がかかるから少子化なんだという、ごく一般的な理解で終わるかもしれません。

しかし今回紹介するコラムは、これまで積み上げてきたシリーズを読んだ後では、全く違う読み方になるでしょう。


上海の子育て事情に詳しい人なら誰もが知っていること

经常在上海生孩子的人都知道

最近、「中国出産費用報告書」でこんなデータを見つけました。

「上海で子どもを17歳まで育てる平均コストは101万元(約2,400万円)に達し、全国最高」

これを受けて専門家は声を大に叫んでいます。

「高騰する住宅費、教育費、医療費の負担に職場のプレッシャーが重なり、若い世帯の出産意欲を圧迫し続けている。したがって、上海の基準に見合った多子世帯向けの出産手当を提供するなど、適切な政策を打ち出す必要がある」

朗報です。間違いなく朗報でしょう。

子育てコスト TOP10

それに最近は教育改革に関するさまざまな提案も出ていますから、今後は子育てがどんどん楽になっていくことは疑いようがありません。

子育てが最も過酷だった時代はもうすぐ終わりを迎えます。これからの若者たちは幸せ者ですね(もし若者たちがまだ子どもを産む気が残っているのなら、ですが)。

未来のことはさておき、まずは現実の話をしましょう。

ついに上海での子育ては、直接的に資産価値と関係しているという事実に正面から向き合う人が現れたわけです。要するにこういうことです。

「金がなければ上海で生きることすら難しい。ましてや子育てなんてとんでもない」

ただ、この「101万元」というデータについては、誰もが「あまりに控えめすぎる」と言っています。上海の子育て事情をよく知る親なら誰もが知っていますが、計算できる数字もあれば、計算できない数字もあるのです。

上海の不動産価格や衣食住といったハード面は言わずもがな、教育といったソフト面だけを見ても、17年間でたった101万元で収まるとは到底思えません。

全国で最も習い事や塾で子どもをゴリゴリに追い込む英才教育の度合いが高い都市である上海において、親たちの教育予算は年間10万元(約240万円)をあっさり超えますが、これも極めて控えめな見積もりです。

見えない出費、たとえば日常のアクティビティ、習い事、サマーキャンプ、交際費…これらは底なし沼です。控えめに言って、年間予算は10万元を下らないでしょう。つまり、101万元という数字は基本お試しセットにすぎません。

「公立学校に通い、夜は家で親が面倒を見て、週末は近所の公園で適当に遊ぶ」

こんな超シンプルバージョンです。

もしここに、親の育児で消費する時間コスト、子育てのため両親のどちらかが仕事を辞めることで失われる収入、進学校に入る学区の住宅購入、海外への短期留学、国内・海外受験の両にらみルートといった「上海エリート子育てフルパッケージ」を考慮すれば、数倍に跳ね上がることすら少しも珍しくはありません。

何しろ上海では、子どもの夏休みの補講でさえ「徐匯区版」と「浦東新区版」で分類される地域柄なのですから。

【徐匯区版=伝統・ガチ受験型】
 イメージ:教育の最高峰、エリート輩出地
 特徴:上海で歴史ある名門校が集まるエリア
【浦東新区版=国際派・グローバル型】
 イメージ:近代都市、海外留学、英語重視
 特徴:インターナショナルスクールが多い

実際のところ、上海のすべての親がこの出費に見合う経済基盤を持っているわけではありません。若いパパママたちの多くは、親からの経済的援助やサポートがあって初めて、なんとか一人前の子育てができているのが実情です。

お金がかかるだけならまだしも、問題は時間もエネルギーも足りないため、子育てに対する有効な投資対効果がまるで見えないことです。

多くの上海人にとって、101万元とは17年間稼働し続けたあげく「返品不可能な人の形をした札束シュレッダー」を購入するようなものです。エルメス並みの金額を払って育て上げた結果、思春期になれば高確率で「うちの親は金持ちじゃない」と愚痴をこぼす人間が出来上がる。

親たちは上海に流れる黄浦江のほとりで冷たい風に吹かれながら、「私は祖国の未来に投資している」と自分を慰めるしかありません。

ここまでしても、上海の親たちは本当に子育てへの投資を惜しまないということです。彼らの間で普遍的な子育て哲学はこんな感じです。幼少期は「どこの家の子が先に英語を話し始めたか」を競い、成長すると「どこの家の子が名門校に合格したか」を競い、最終的にはお見合い広場で我が子の身上書を掲げながらハッと悟るのです。

「不良在庫になってしまった、手放したくても手放せない」

お見合い広場

子どもを産む前:
私は中産階級のトップランナー
子どもを産んだ後:
私はダサい子供のオカン

以前、自宅のリフォームをしていたとき、ある日夫と近所のカフェに入ったことがありました。見渡す限りの光景に私は衝撃を受けました。私たち2人だけが、唯一の「男女ペア」だったのです。その様子をネットに投稿したところ、たくさんの人が盛り上がりました。

上海の出生率は世界最低のわずか「0.6」です。万年最下位だった韓国の「0.8」を下回っています。上海の出生率と結婚率を決定づけているのは、ここの女性たちです。上海の女の子たちは、お金を稼ぐことと勉強することに熱中しています。週末のシティウォークでさえ、女の子たちは女友達と一緒に遊び、男は男同士で遊んでいます。

上海の若者の「結婚しない、子どもを産まない」は決して口先だけではありません。最高の時間と貯金はすべて、食べて、飲んで、遊ぶことに費やされます。週末のレストランは長蛇の列ができ、映えスポットは人であふれかえっています。彼らは「一姫二太郎」の代わりに「猫と犬を飼う」ことを選び、後者のほうがコストパフォーマンスも精神的価値も前者を圧倒していることに気づいてしまったのです。

上海の出生率 (2016 - 2025年)

「子どもを産むお金がない」と言うわりには、彼らの消費っぷりは湯水のようです。そして「消費するお金がある」と言うわりに、結婚や出産の話題になると途端に「お金がない」と貧乏面をします。

月収3万元(約72万円)あっても、住宅ローンと塾の費用を差し引けば、せいぜい買い物で値段を気にしない自由が手に入る程度。本当の子育ての自由には、ディズニー年間パスポート10枚分ほど足りません。

中産階級の家庭でさえ、お金を積み上げ早期教育、バイリンガルスクール、留学ルートという一本道のフルコースを、歯を食いしばって最後まで突き進もうとします。どこか一つでも欠ければ、子どもが中産階級から脱落してしまうのではないかと怯えているのです。

さらに恐ろしいのは、機会費用の致命的なダメージです。女性たちはキャリアの断絶とチャイルドペナルティ(子育て罰)を恐れています。キャリアを築いてお金を稼ぐことと比べたら、子どもを産むことの魅力は本当に小さすぎます。

仕事はハードで残業は絶え間ない。そのため、子ども1人に対して通常は2人の祖父祖母、子どもが2人になれば4人の祖父祖母のサポートが必要になります。この育児モデルは上海の至る所、特に地方から上海に出てきた新上海人が集まるコミュニティで見られます。

しかも、それらの高齢者たちは上海の医療保険を持たず、自身の生活圏もないため、これはこれでかなり精神的に擦り減る状況です。上海における「二人っ子モデル=家族全員が不動産仲介業者と教育関連企業のために働く奴隷と化す」ということです。

2020年 全国少子化 MAP

上海という都市は、午前3時に最高級のワインや生牡蠣、フレンチスイーツを食べさせてくれる場所ですが、午前3時の授乳の後に駆け込めるような心理カウンセリングが見つかるとは限りません。

上海での子育ては、高級ブランド品を買うようなものです。

子どもを産む人は、往々にして子育てによって自分を証明する必要がありません。逆に、子育てによって自分を証明する必要がある人は、カードを切った後になって初めて、人生の残り大半をかけてリボ払いを続けなければならない事実に気づくのです。

どうやら、政府の子育て政策が本当に強力な子育て政策にならない限り、上海の若い親たちに「産みたい、もっと産みたい」と思わせるのは難しそうです。

それが無理なら、いっそのこと、地方でもっと力を尽くしたほうが現実的かもしれません。


一つひとつを見れば、住宅問題、教育問題、女性のキャリアという別々のテーマに見えます。しかし上海で暮らす人々の生活を追うと、それらは「少子化」という現実へと収束していきます。

そして問題は「補助金が足りない」という一つの政策課題ではなく、K字型経済における都市のライフスタイルそのものです。そして、このコラムは補助金では覆せないほど、人々の価値観が変化し始めている可能性を示しています。

筆者としては、今後の中国は以下のように、人々の幸福観や人生モデルが複数に分岐していく社会となると推測しています。

  • キャリアを優先し、結婚や出産を選ばない都市型人生

  • 家族形成を重視し、比較的生活コストの低い地域型人生

そして現在の中国史での位置づけは「改革開放」と対になる、社会の転換期として後世から振り返られる可能性があると私は考えます。

中国では改革開放以降

「今年より来年、来年より再来年の方が必ず良くなる」

このような期待が個人の努力と国家の成長を結びつける物語でした。

そして、これまで見てきた不動産・詐欺・女性配達員・ネットカフェ・少子化はいずれも、改革開放の「努力すれば人生は上向く」という前提が揺らいでいる証です。これらは中国で新しい時代の価値観が形成され始めていることを示す証言となるでしょう。


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