夜の海に身を委ねる。『夜はやさしい』
谷川俊太郎さんが手がけたプラネタリウム作品「夜はやさしい」を、東京・日本科学未来館で鑑賞した。
夜をめぐる詩と、世界の星空。
各地の環境音や音楽とともに、宇宙を感じるひとときをたどってみたい。
谷川さんによる書下ろしを含む自選の詩に導かれながら、世界の夜を旅していきます。
プラネタリウムの椅子に、身体を沈める。
さっそく、夜空を旅すると思うと、胸がワクワクした。
最初に広がったのは、東京・お台場の夜景。
そこから、東南アジアへ。
波の音。
その土地の音楽。
カエルの鳴き声が大きく響き渡り、ほんとうにその場に寝転んでいる気がした。
夜の気配が、満ちていく。
夜をうたう、詩が聞こえる。
おやすみ ひとりで おやすみ ♪
遠くから届く波の音に、身をゆだねる。
まるで夜の海に、そっと浮かぶような感覚。
夜はやさしい。
ほんとうに、そのとおりだと思った。
ひとりでおやすみ、とささやかれる。
母なる海のように、やわらかく包まれる。
ひとりで生まれ、ひとりで死んでゆく。
そんなことを、つよく思った夜がある。
私たちは海から生まれ、やがて海へと還る。
その大きな流れに、しずかに身を委ねる。
プカプカと仰向けに浮かび、空を見上げる。
そこには、満天の星。
バリ島のガムランと、絶え間なく響くカエルの声。
生き物の気配が、夜の空気を満たしている。
真上には、見慣れた三つ星。
日本の冬に見上げた夜空と、確かにつながっている。
そして場面はミュンヘンへ。
夜空に「アヴェ・マリア」が響きわたる。
街を歩けば、きっとどこかで耳にするのだろう。
人の奏でる音色が、心の奥底に触れる。
その荘厳さが、いくつもの記憶を呼び起こす。
節目のたびに流れていた、あの旋律だ。
その後も、アフリカ、南米、北米、オーストラリアへ。
夜だけを縫って進む、不思議な旅が続く。
天の川が、空の奥へとのびていく。
やがて地球も、銀河の中に溶けていく。
ひとりでおやすみ。
ひとりで起きて、ひとりで生きる。
当たり前のことを、あらためて思い出す。
夜が、温かくそれらを包みこむ。
そのあと、泣きたいような出来事があった。
泣きたいとき、人はちゃんと涙が出るんだと、思い出した。
満点の星と、波の音を思い出す。
夜の海なのに、なぜか温かい。
母なる鼓動のようなものが、どこかで響いている。
今日の私に贈られる、子守り唄のように。
夜はやさしい。
ひとりでおやすみ、と。
そんなふうに、ささやれた気がした。

夜の海と満月。
奇しくも、昨日は満月だった
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これからも、どうぞよろしくお願いします!

