キャスリン・ビグローから全世界への 問いかけ ハウス・オブ・ダイナマイト
【 高市総理冒頭発言 】
おはようございます。北朝鮮が弾道ミサイルを発射したという、まず韓国の発表がございましたので、外出の予定を変更いたしまして、今、状況の報告を受けました。ミサイル警戒データのリアルタイム共有などを含め、日米韓で緊密に連携して、対応に万全を期しているところでございます。
今回の発射についても、政府としては把握をしております。今、確認いたしましたところ、我が国の領海や排他的経済水域へのミサイルの飛来というのは確認をされておりません。また、関係機関から被害報告などの情報も確認をされていません。しかし、高市内閣といたしましては、国民の皆様の安全に万全を期すために、ただ今、防衛大臣、また、外務大臣に引き続きこの必要な情報の収集・分析を行うよう指示をしたところでございます。
私からは以上でございます。
【 A House of Dynamite 】
冒頭から フォルカー・ベルテルマンの通奏低音のような音楽が
各場面の底を這いまわるように流れている。
約2時間後のエンドロールにもその音楽が纏わりついている。
「怖い… 」
身体はそう感じていた。
この感情が湧いてくる状況は、実に多様で複雑だ。
生存に関わる脅威を感じた時
予測不能な状況に直面した時
自己コントロールを失った時
社会的な脅威が差し迫った時
そして漆黒の想像が膨らんだ時
それはまだ起きていないが「もし起きてしまったら・・・」という
思考が、実際には存在しない脅威を生み出す。将来への不安、最悪の
シナリオの想像、これらは現実の危険以上に人を恐怖に陥れる。
この映画の最後の暗転で私は恐怖の奈落に突き落とされた。
それが「怖い… 」の正体だった。

【 3つのchapter 】
この映画は約20分の出来事を3つのチャプターに分けて描いている。
ある日の朝、海上配備Xバンドレーダーが北西太平洋上空を飛行中の
正体不明の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を探知したところから始まる。
アラスカ州のフォート・グリーリー基地、ホワイトハウスのシチュエー
ションルーム、連邦緊急事態管理庁、アメリカ戦略軍指揮統制施設・
核戦略本部、大統領危機管理センター、そして公式行事としてバスケット
ボールのイベントに参加中の米大統領。
正体不明の勢力によって発射された単発の大陸間弾道ミサイルに対する
アメリカ合衆国連邦政府当局者たちの危機対応の姿を描いている。
それぞれの組織の責任者や担当者が、それぞれの役割と責任において、
究極の危機に対して事前の危機対応マニュアルに則って対応しようと
するが、事態はマニュアル通りには進行しない。それぞれの人間性、
信念、思想、感情、本音、本性などが入り混じって噴き出してくる。
それぞれの場所で刻々と時間が刻まれて過ぎていく様は
危機管理の要諦は「決断」だということがよくわかる。
そしてその「決断」が容易にできないということも・・・。
また、“ 絶対”と考えられていた高価な防衛システムがいざという時に
犬のクソほども役に立たず、そのバックアップも無いという事実。
それぞれの場所での出来事は3つのチャプターで同じ時間軸で進み
チャプターが切り替わる毎に経過した時間が巻き戻る。
【 1. INCLINATION IS FLATTENING 】
この最初のchapterには『傾斜が水平に』という訳が付いている。
文字通り和訳すればそうなるだろう。
この章の冒頭に次のキャプションが映し出される。
AT THE OF THE COLD WAR、GLOBAL POWERS REACHED THE CONSENSUS THAT THE WORLD WOULD BE BETTER OFF WITH
FEWER NUCLEAR WEAPONS. THAT ERA IS NOW OVER
冷戦の終結後、列強のリーダーはある見解に達した。
核軍縮の重要性だ。その時代は終わりを告げる
最初のchapterが「INCLINATION IS FLATTENING」だ。
これは何を意味するのだろうか?
最初のうちはピンとこないが、映画を見進めていくと
冒頭のキャプションと合わせて理解することができる。
「こういうことかぁ…」と。
この章では「第二次世界大戦後の核抑止構造」が前提になっている。
冷戦期、世界の平和は「二大超大国(米ソ)」の間の緊張の均衡によって
保たれていた。そこに中国が割り込み「三大超大国(米ソ中)」による
世界の安全保障構造の「傾斜(inclination)」があり、核の保有による
抑止のバランスは一部の「核大国」に集中していた。
ところが、北朝鮮、パキスタン、インド、さらにはイランといった
中小国家が核を開発・保有する時代に入るとその “傾斜” が “水平化”
(flattening)していく。つまりかつて「一部の大国」だけに存在した核の
特権構造が「小国」へ拡散することで世界が “水平” になってしまった。
「大国中心の核秩序(=傾斜)」が崩れ、核が拡散して世界の抑止構造が
“平準化” し “危うい均衡” に変質したことを表しているのだろう。
【 2. HITTING A BULLET WITH A BULLET 】
このchapterのキャプションは、核戦略本部と大統領危機管理センターの
緊迫のやり取りの中にそのまま出てくる。
核戦略本部の国防長官リード・ベイカーと国家安全保障問題担当大統領副
補佐官ジェイク・バリントンとの弾道弾迎撃ミサイル(GBI)に関する問答だ。

バリントン「Once the kill vehicle separates,our midcourse intercept system
has a success rate of 61%.」
ベイカー「So it's a fucking coin toss? That's what $50 billion buys us?」
バリントン「We are talking about hitting a bullet with a bullet.」
迎撃確率の真の確立を答えろと言われ、バリントンは61%だと答える。
ベイカーは「コイントスと同じじゃないか!」と怒る。
言い返すバリントン「GBIは銃弾で銃弾を打ち落とすようなものなのです」

【 3. A HOUSE FILLED WITH DYNAMITE 】
最後のchapterのキャプションはタイトルとほぼ同じだ。
この言葉は、公式イベント会場から避難した大統領が
ワシントンD.C.から脱出をする際のヘリの中で語った言葉だ。
「I listened to this podcast,and the said,『It's like we all built a house filled
with dynamite.』Making all these bombs and all these plans, and
the wallsare just ready to blow. But we kept on living in it.」
「このポッドキャストを聞いてね、彼らが言ってたんだ―『まるで私たち
は、ダイナマイトをぎっしり詰め込んだ家を建ててしまったようなもの
だ』って。爆弾を作り、計画を積み上げ、壁は今にも吹き飛びそうなの
に…それでも私たちは、その家の中で暮らし続けてきたんだ。」
このアメリカ合衆国大統領の “名前” は最後まで不明だ。
テレビ会議のギャラリービューの左上のグリッドに
「POTUS(President of the United States of America)」との
表示だけで他の参加者のような名前の表示はない。
最終的に判断をし、行動の決定を下すのは
“アメリカ合衆国大統領” という「立場」なのだろう。
【「答えは観客が出して」というキャスリンのメッセージ 】
2008:The Hurt Locker / 戦場という極限状態に依存してしまう悲劇
2012:Zero Dark Thirty / 仇を討ったがそこに癒しはない。正義とは何か?
2025:A House of Dynamite / 世界のバランスは容易く崩れる一時の澱みだ
世界のバランスがゆっくりと
しかし確実に崩れていくその後に
いったい何が起こるのか?

目を背けずに現実をしっかり見極めて
妄想せず想像力を働かせなければならない。
「まさか・・・」
は、ない。
この映画は、それを伝えている。
【 タンドリーチキン風 鶏のから揚げ 】

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