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「大丈夫です」が、いちばんこわい

日本語を覚えていく中で、
手こずった言葉があります。

「大丈夫です」です。

単語としては、簡単なんですよ。辞書を引けば、一行で意味が書いてある。問題なし、心配ない。それだけ。来たばかりの僕も、すぐ覚えました。

でも、実際の会話で使われる「大丈夫です」は、そんな単純なものじゃなかったんです。

たとえば、お店で「袋はご利用ですか?」と聞かれて、「大丈夫です」。これは、要らない、という意味です。

でも、「もう一杯いかがですか?」に「大丈夫です」と言えば、これも、要らない。断りです。

かと思えば、「明日までに間に合いますか?」の「大丈夫です」は、できます、という肯定。さっきと真逆です。

「体調、大丈夫?」への「大丈夫です」に至っては、本当に大丈夫なときもあれば、全然大丈夫じゃないけど心配かけたくないとき、という場合もある。

同じ「大丈夫です」なのに、YESにもNOにもなる。しかも、無理してるときの合図にもなる。僕は最初、これで何度も混乱しました。相手は「大丈夫です」と言っている。言葉は、はっきり聞き取れている。なのに、それが「いる」なのか「いらない」なのか、まったく分からない。

じゃあ、何で判断していたのか。

言葉じゃ、なかったんです。

その場の状況、声のトーン、間、ちょっとした表情。「大丈夫です」の中身は、言葉の外側にある、そういうもので決まっていた。少し困った顔で言う「大丈夫です」と、笑顔で即答の「大丈夫です」は、同じ四文字でも、まるで違う意味を運んでいる。

これに気づいてから、僕は「大丈夫です」を、言葉としてじゃなくて、場面ごと覚えるようにしました。この状況で、この顔で、このトーンなら、たぶん断り。この感じなら、たぶん肯定。理屈じゃなくて、何百回も浴びて、体で覚えていった感じです。

そのうえで、僕自身がたどり着いた結論もあります。自分が言う側のときは、「大丈夫です」をなるべく使わない、ということです。

とくにコンビニ。「袋はご利用ですか?」に「大丈夫です」と答えると、要らないのか要るのか、一瞬あいまいになる。店員さんが「?」という顔をすることが、何度かありました。だから僕は、あの場面では「結構です」と言うようにしています。「結構です」なら、はっきり「要らない」に倒れる。誤解が、ほぼ起きない。

面白いのは、これって外国人だから気をつけている、というより、あいまいで困った経験があるから、自分が言う側では引き算している、ということなんです。分かりにくさを一度たっぷり味わった人間のほうが、かえって、誤解の少ない言い方を選ぶようになる。

これ、逆の立場でも、まったく同じことが起きるんですよね。

英語を学ぶ日本の人が、よくつまずくのが、“I’m fine” や “It’s okay” だと思います。教科書だと「大丈夫」と習う。でも実際は、断りにもなるし、遠慮にもなるし、本心を隠す合図にもなる。「大丈夫です」と、そっくりなんです。単語の意味を知っていても、その一言が本当は何を指しているのかは、その場に立ってみないと分からない。

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