見出し画像

【世界最大のベストセラーを、時系列順に読み解く!】ヘブライ神話と古代中近東の歴史物語

 本書では、世界史上最大のベストセラーであり、古代から現代までの西洋文化に絶大な影響を及ぼし続けている『聖書』を研究し、その内容を時系列順に要約して解説します。これによって、聖書の舞台である古代中近東の神話・歴史への理解を深めると共に、様々な作品における「元ネタ」としての聖書を知る事ができればと思います。

要約聖書
ヘブライ神話と古代中近東オリエントの歴史物語

聖書の大分類(旧約・続篇・新約)
 多くの方々が御存知の通り、聖書は『旧約聖書』と『新約聖書』に大別されますが、両者の間に『旧約聖書続篇』を挟む考え方もあります。

旧約ヘブライ聖書
 正式名称は『律法と預言の書』で、キリスト教の立場から『旧約聖書』と呼ばれ、中立的な立場からは『ヘブライ聖書』とも呼ばれます。天地創造神話から始まり、紀元前5世紀頃までの中近東オリエント(パレスチナ地方を中心とする西アジア・北アフリカ)の歴史と、その中で「イスラエル民族」(ヘブライ人、後にはユダヤ人とも呼ばれる)によって紡がれてきた宗教(ヘブライ神話・ユダヤ教)や文芸作品が収められ、ヘブライ語で記されています。「モーセ五書トーラー」「諸書」「預言書」の3部に大別され、諸書は「歴史書」と「知恵文学」に分けられます。旧約聖書は、ユダヤ教・キリスト教の双方から正統な経典として認められています。なお、ユダヤ教の少数分派である「サマリア人教団」や、今は存在しない「旧サドカイ派」は、最初の冒頭5巻に当たる「モーセ五書」だけを正典と捉えています。

新約聖書
 『新約聖書』は、紀元前1世紀末~紀元後1世紀までの数十年間を舞台に、ローマ帝国の支配下にあった中近東での新宗教運動(原始キリスト教)について叙述し、ギリシャ語(東ローマ帝国、後のビザンツ帝国の公用語)で書かれています。パレスチナのユダヤ教から「ガリラヤ人」と呼ばれる分派グループが現れ、当時のユダヤ教幹部やローマ帝国の迫害に遭いながらも、近東(イスラエル・シリア・トルコ・ギリシャ・マケドニア)各地に支持者が広まり、初期キリスト教会に発展してゆく様子が記されています。「福音書」「使徒行伝」「手紙」「黙示録」に分けられ、いずれもキリスト教の正典です。

 『旧約聖書』39巻と『新約聖書』27巻は、全てのキリスト教会で用いられる「正典カノン」です。

 なお『聖書』とユダヤ・キリスト教は、7世紀のアラビア(ヒジャーズ地方)におけるイスラム(イスラーム教)の成立にも影響を与えており、聖書のうち「モーセ五書」「詩篇」「福音書」は、イスラムの立場からも「一定の真理を含む啓典」と認められています。

旧約聖書続篇
 ペルシャ時代で終わる『旧約聖書』と、ローマ時代を記した『新約聖書』の間には、約400年の「中間時代」があります。ペルシャ王国が衰える一方、ギリシャ文明が勢力を強め、パレスチナ地方には「セレウコス朝」「ハスモン朝」といった国々が興亡しました。この頃に、中間時代の空白を埋めるかのように記されたユダヤ教典を『旧約聖書続篇』と総称します。ユダヤ教・プロテスタント教会は、これらを正統な「聖書」とは認めていませんが、アングリカン聖公会(イングランド国教会)のように、参考教典として用いられる事もあります。旧約続篇は「第二正典」「外典」に分けられます。日本語では「新共同訳」「聖書協会共同訳」に、旧約続篇が収録されています。

  • 第二正典 前3世紀~前2世紀頃、エジプト(プトレマイオス朝)の首都アレクサンドリアで、旧約聖書をギリシャ語に翻訳した『七十人訳聖書セプトゥアギンタ』が成立しました。本書には、旧約正典39巻のほかにも、その内容を補足する書巻や、中間時代の歴史書・知恵文学が含まれています。これら10巻は「第二正典」と呼ばれ、カトリック教会や正教会で用いられています。

  • 外典アポクリファ 紀元後405年、新旧約聖書をラテン語訳した『ウルガタVulgata聖書』が完成しましたが、そこには「歴代誌 下」「エズラ記」に関連する附録も含まれていました。それらは「外典」と呼ばれ、東ヨーロッパなどの正教会で用いられる場合があります。なお、どの書巻を「外典」と呼ぶかの判断は、教派によって異なります。

 西洋の精神文化の源流には、ギリシャ・オリエントのヘレニズムHellenismと、ユダヤ・キリスト教に基づくヘブライズムHebraismなどの思想があります。西洋美術の大半が「ギリシャ神話」か「キリスト教」に関する作品であるのは、その象徴的な好例です。同様に、クラシック音楽がキリスト教と結び付いて発展したように、西洋音楽史における教会音楽の役割も絶大です(讃美歌・聖歌隊のルーツは、旧約聖書「詩篇」に遡る)。また『聖書』では、イスラエルの至上神と対比される異教(多神教)の神々として、近東の神話(イシュタル・ダゴン・ベルゼブル等)にも言及されています。

 聖書の研究には「聖書考古学」「自由主義神学(聖書文献批判)」「聖書文学」といった観点があります。聖書を意味する英単語は「the Holy Bible」ですが、バイブルの語源はギリシャ語の「書物ビブリオン」です。また、旧約・新約に分けて表記する場合は「the Old(New) Testament」で、テスタメントには「神との誓約」という意味が込められています。

 教会礼拝から読書・学術研究に至るまで、古今東西で読み継がれてきた『聖書』は、世界中で最も多く印刷され、最も多くの人々に読まれた「世界最大のベストセラー」と推定されています。なお、このランキングに続くのは『毛沢東語録』『クルアーン(コーラン)』とも言われています。

 このように『聖書』は、信徒のための宗教経典という枠を越えて、古代史から現代のファンタジー作品に至るまで影響を与え続けており、神話学・哲学史や文芸の立場からも、聖書研究の意義は大きいと言えます。そして、聖書の世界観に触れながら、その神話的・教義的な内容に対して、それらが「どこまで事実なのか?」「自分は共感できるか?」と考えてみるのも、聖書を読む魅力と言えるでしょう。

現代日本における聖書の読み方
 日本語訳聖書には「文語訳」「口語訳」「新共同訳」「新改訳」「リビングバイブル」などの種類があります。また現在は、携帯電話やインターネット上でも聖書を読める環境が充実しており、無料のサービスもあります。そこで、デジタル機器で読める電子聖書を紹介します。

ユーバージョン(新共同訳・リビングバイブル)
 『ユーバージョン』は、聖書全巻を完全無料で、しかも複数の翻訳や音声付きで読む事ができる電子聖書です。日本語では「新共同訳」「JCBリビングバイブル」「ERV訳 読みやすい聖書」「口語訳」などが収録されています。「新共同訳」は、カトリック・プロテスタント教会が協力し、異なる教派や思想の人々と対話する世界教会合同エキュメニズム運動の立場から翻訳され、日本で最も普及している聖書です。「リビングバイブル」は、キリスト教信仰を分かり易く説明する立場から意訳されています。しかも、新共同訳・リビングバイブルには、音声朗読機能も搭載されています。こうした理由から、デジタル機器で聖書を読むなら、まずはユーバージョンがお勧め!

 なお、日本聖書協会が管理している「文語訳(明治元訳・大正改訳)」「口語訳」のうち、改訂されていない初版は、著作権が消滅した「パブリックドメイン」になっており、比較的自由な転載利用が可能と思われます。つまり、小説など自作品の制作において『聖書』の経文を使いたい場合は、文語訳・口語訳(初版)から引用するか、それらを参考に自分で訳文を要約したりすると良いでしょう。口語訳はユーバージョンに収録され、文語訳もネット上で閲覧できます。

ともに聴くドラマ聖書(新改訳)
 「新改訳」は、プロテスタント教会の中でも特に聖書信仰を重んずる福音主義の立場から、なるべく原典(ヘブライ語・ギリシャ語)に近い言葉で逐語直訳されています。スマートフォン用の『聖書 新改訳アプリ』は、有料(3000~4000円)ですが「引照」「カラー地図」などが充実しています。また、新改訳聖書を台本として、プロ声優による朗読劇を収録した『ともに聴くドラマ聖書』は、無料でありながら高品質です。

 2018(平成三十)年には、新共同訳聖書の理念を発展させた「聖書協会共同訳」が完成しました。この訳では、聖書とキリスト教の課題とも言える「女性や同性愛などに対する差別的表現」が改善されており、現代日本に相応しい翻訳聖書と言えるでしょう。現状、協会共同訳(紙本・ウェブバイブル)は有料です。

 聖書の各書巻について、ユーチューブなどの動画映像で学びたい場合は「聖書プロジェクト」「バイブルコア」などがお勧めです。


第三部「第二神殿 ペルシャと祭司の時代」

 このシリーズは、全4部で構成される予定です。本巻は、第三部「第二神殿 ペルシャと祭司の時代」です。

 ヘブライ民族(12~13部族)の国家は、パレスチナ北側のサマリアを首都とする北イスラエル王国と、南側のエルサレムを都とするユダヤ王国に分裂していました。前722年、北イスラエルが滅び、現地に残された国民(マナセ・エフライム・レビ族)は、アッシリア移民と混血して「サマリア人」と呼ばれるようになりました。また、北王国を脱出したアシェル・ゼブルン・イッサカル・マナセ・エフライム・シメオン族は、ユダヤ王国(ユダ・ベニヤミン・レビ族)に亡命して生き延び、これら南王国の部族は「ユダヤ人」と総称されるようになりました。しかし前586年には、ユダヤ王国も滅ぼされ、ユダヤ民族はバビロンに連行されました。

 このバビロン捕囚が終わる所から、第三部が始まります。イランのペルシャ王国(アケメネス朝)が台頭し、カルデア(新バビロニア)を滅ぼして、パレスチナを含むオリエント広域を統治しました。バビロンから解放され、自由を手にしたユダヤ人達は、パレスチナのエルサレム周辺(ユダヤ地方)に帰還したり、ペルシャ・エジプト各地に移住したりしました。この時代には、これまでの歴史・伝承を纒めた『ヘブライ聖書』の編纂や、再建されたシオン神殿(エルサレム第二神殿)での儀式礼拝が重点的に取り組まれ、それらを担う祭司レビ族の役割が大きくなったのが特徴です。

 この時代を扱っている(と考えられる)聖書巻は、主に「ヨエル書」「エズラ記」「ハガイ書」「ゼカリヤ書」「エステル記」「ネヘミヤ記」「マラキ書」などです。


  • 本文は、こちらからダウンロードできます!


 第四部では『新約聖書』の時代を扱う予定です!

2026(令和八)年5月23日(土曜)
Aquila S

東京大森・蒲田(大田区)出身、地理学や文芸制作などを探究する共生科学士。


いいなと思ったら応援しよう!