ふるさと納税「赤字」報道はミスリードではないか
はじめに
2026年8月26日、朝日新聞が次の見出しの記事を掲載した。
「ふるさと納税『赤字』19都府県 25年度、東京都は2255億円に」
この見出しだけを見れば、
「ふるさと納税で自治体が赤字を出している」
「寄附を集められず、政策として失敗している」
と受け取る人がいても不思議ではない。
実際、SNSでは兵庫県について、
「兵庫はふるさと納税でも失敗してるのか」
「兵庫県メチャクチャ赤字やん」
「あの男のやる事なす事全部崩壊」
といった反応まで出ている。
しかし、この「赤字」は一般的な意味での自治体財政の赤字でもなければ、ふるさと納税施策の成否を直接示す数字でもない。
そもそも、ふるさと納税は何のための制度なのか
ふるさと納税は、単に自治体同士が寄附額を競うための制度ではない。
進学や就職で都市部に移った人が、生まれ育った地域や応援したい自治体に寄附できるようにし、結果として都市部に集中しやすい税源の一部を地方へ還流させるという考え方が制度の背景にある。
つまり、都市部から地方へ税収が流れること自体は、この制度にとって異常事態ではない。
むしろ、ある程度は制度の趣旨に沿った動きでもある。
そのため、都市部ほど流出額が大きくなりやすいという構造を無視して、流出超過だけを見て「赤字」「失敗」と評価するのは、制度の趣旨から見てもかなり乱暴だ。
朝日新聞が「赤字」と呼んだもの
朝日新聞は、総務省の公表データをもとに、
寄附受入額 − 返礼品・送料・仲介手数料などの経費 − 住民税控除額
を都道府県別に独自試算している。
そして、この数字がマイナスになった都府県を「赤字」と表現した。
東京都の場合、
寄附受入額 162億円
経費 66億円
住民税控除額 2351億円
として、差し引き2255億円の「赤字」としている。
だが、ここで重要なのは、住民が他自治体へふるさと納税をしたことによる住民税の控除額まで含め、寄附受入額と単純比較していることだ。
これは朝日新聞が独自に設定した「収支」である。
都市部ほど流出額が大きくなりやすい
そもそも、ふるさと納税は人口や所得構造の影響を強く受ける。
人口が多く、高所得者も多い都市部では、他自治体へ寄附する住民の絶対数も大きくなりやすい。
そのため、東京、神奈川、大阪、埼玉、愛知などの大都市圏で流出超過が大きくなること自体は、制度上それほど不思議な現象ではない。
実際、朝日新聞の記事でも、大きな「赤字」とされたのは、
東京
神奈川
大阪
埼玉
愛知
など、都市部を抱える地域が中心である。
この数字だけを見て、
「知事が無能だから赤字になった」
「ふるさと納税政策に失敗した」
と評価するのは無理がある。
そもそも数字は「県単体」の収支ではない
朝日新聞の都道府県別収支は、都道府県分と域内市区町村分を合算した数字である。
つまり、兵庫県として示された「赤字」には、兵庫県本体だけでなく、神戸市など県内市町の流出・流入も含まれている。
市町村のふるさと納税施策は、それぞれの市町村が主体となって行うものだ。
したがって、この合算値をそのまま斎藤知事のふるさと納税政策の成績とみなすことはできない。
少なくとも、「兵庫県の赤字=斎藤知事の失敗」と単純に結びつけるのは、集計方法を無視した評価である。
流入と流出では性質が違う
さらに重要なのは、寄附の「流入」と住民税の「流出」では、自治体の政策との関係が全く同じではないという点だ。
寄附の流入額は、
返礼品の魅力
プロジェクトの内容
PR
寄附メニューの設計
など、自治体側の施策によって増減する余地がある。
一方、流出額は、
人口
所得水準
納税者数
都市部かどうか
といった構造的要因の影響が大きい。
だから、
「寄附額が過去最高になった」
という自治体の発信に対して、
「でも流出まで含めれば赤字だ」
と返しても、それだけでは寄附獲得施策への反論にはならない。
評価している指標の性質が違うからだ。
しかも地方交付税による補塡を考慮していない
さらに朝日新聞の記事には、非常に重要な記述がある。
実際の制度では、地方交付税の交付団体には、控除額の約75%が交付税で穴埋めされるが、今回の集計では考慮していない。
つまり、記事で「赤字」と呼んでいる数字は、実際の財政影響をそのまま示したものですらない。
交付税による補塡を除外した独自試算なのである。
にもかかわらず、
「ふるさと納税『赤字』19都府県」
と見出しに置けば、「自治体がふるさと納税で損失を出している」という印象を与えやすい。
少なくとも、かなり強い注意書きが必要な表現だろう。
「赤字=失敗」ではない
もちろん、ふるさと納税制度そのものに問題がないという話ではない。
返礼品競争、仲介サイトへの手数料、高所得者ほど控除枠が大きくなる点など、制度設計について議論すべき点は多い。
しかし、
朝日新聞が独自に算出した「流入額-経費-流出額」がマイナス
という事実と、
その自治体のふるさと納税施策が失敗した
という評価は別問題である。
特に都市部では、制度構造上、流出超過になりやすい。
それを無視して「赤字」という言葉だけを切り取り、知事や自治体の失政に結びつけるのは、制度を理解した評価とは言い難い。
見出しだけで判断すると簡単に間違える
今回のSNS上の反応は、この問題をよく表している。
「兵庫はふるさと納税でも失敗してる」
「兵庫県メチャクチャ赤字」
「知事のやることは全部崩壊」
しかし、その「赤字」は何なのか。
どういう計算なのか。
なぜ都市部で大きくなりやすいのか。
地方交付税による補塡は含まれているのか。
そもそも、ふるさと納税が都市部から地方への税源還流を意図した制度であることを踏まえているのか。
そこまで確認すると、見出しから受ける印象とはかなり違う。
「赤字」という強い言葉だけを見て、政策の成功・失敗まで判断してはいけない。
今回の記事は、その典型例だと言えるだろう。
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