見出し画像

親が入院した夜、俺は何ひとつ知らなかった。年金・保険・通帳——37歳がゼロから整理した話

「お母さん、これ全部なに?」

何も把握していなかった37歳独身男が、親の年金・保険・通帳をゼロから整理した"全手順と本音"



この記事は「親が元気なうちに読む」ために書きました。

倒れてから読んでも役には立つ。でも、元気なうちに読んでいたら、もっとラクができる。

俺みたいに、実家の玄関で立ち尽くさなくて済む。




はじめに


去年の秋、母から電話があった。


「ちょっと腰が痛くてさ、病院行ったら入院するかもって言われたんだけど」


俺の最初の反応は、正直に言おう。


えー、しばらく実家帰らなきゃいけないのか。


……だった。


37歳、独身、東京在住。仕事はITベンチャーの中間管理職で、趣味はNetflixと週末の昼酒。「親の老後」というテーマは、ずっと人生の後回しボックスに突っ込んで、フタをして、その上に「見なかったこと」という重りをぎゅうぎゅう乗せていた。


仕方なく帰省した。


実家の玄関を開けた瞬間、リビングのテーブルに積み上がった「紙の山」が目に飛び込んできた。


封筒、封筒、封筒。開封済みのもの、未開封のもの。「日本年金機構」「〇〇生命保険」「〇〇銀行」「農協」「ゆうちょ銀行」「△△証券」……


マジか。


うちの母ちゃん、何者なの?


入院前に母が残したメモにはこう書いてあった。


「お父さん(すでに他界)の年金、通帳見といて。保険証書は引き出しにあるはず。農協のやつも満期かも」


……待って。どこの引き出し? 農協って何? うち農家じゃないけど?


その瞬間、初めて気づいた。


親の財産や契約について、俺は何ひとつ知らない。


「知らない」じゃなく「知ろうとしてこなかった」。


その違いが、ゆっくりと胃に刺さってきた。



なぜ知ろうとしなかったのか、玄関に立ったまま少し考えた。


たぶん「親が元気なうちに死後のことを調べるのは縁起でもない」という、なんとなくの感覚があったんだと思う。準備することが、薄情な気がして。


でもそれは思い違いだった。


準備することは、相手の死を望むことじゃない。「いざというとき、ちゃんと動ける状態でいる」ということだ。それって、愛情の別の形なんじゃないか——と、37歳にして初めてそう思った。


この記事は、その2週間の全記録だ。何を調べたか、どこで詰まったか、何を間違えたか、そして最終的に「何がわかれば安心できるのか」まで、全部書く。




まず最初に「地図」を渡す



書類の山を前にして最初に感じたのは「整理しなきゃ」という焦りだった。でも手を動かし始めると、もっと根本的なところで詰まった。


「整理」ってなんだ?


何がどこに属するのかすら、わからない。


社会に出てからタスク管理とか情報整理とか散々やってきたけど、それって全部「フォルダ名が最初から決まっている世界での整理」だった。でも「親の人生の書類」には、フォルダ名すら存在しない。枠組みを理解するところから始めなきゃいけない。


だから最初に地図を渡す。ここを押さえておくだけで、俺の3日間のロスを防げた。



【親が持っている可能性がある書類・契約 全体マップ】


▼ 収入系

 ・老齢年金(自分が働いた分)

 ・遺族年金(配偶者が亡くなった場合)


▼ 保険系

 ・生命保険・医療保険・がん保険

 ・共済・農協(JA)の保険


▼ 資産系

 ・銀行預金(複数口座あることが多い)

 ・ゆうちょ・農協の貯金・証券口座


▼ 公的制度系

 ・介護保険(65歳以上は全員加入)

 ・後期高齢者医療保険(75歳以上)


▼ その他

 ・土地・建物の権利書

 ・お墓・仏壇の管理(笑えないけど重要)




年金のこと、俺はなにも知らなかった



まず年金の通知書を全部引っ張り出した。


母の老齢年金:月約10万円。


マジか。そんなもらえるの。


全然知らなかった。恥ずかしい話だけど、本当に知らなかった。33歳のとき一度「うちの親って年金いくらもらってるんだろ」と思って、そのまま忘れた気がする。あのとき調べていれば……と少し後悔した。


父の分も確認すると「遺族年金」が月約6万円。


合計、月約16万円。


……ひとり暮らしの70代女性の生活費として、実はほぼ足りている。


俺はここで初めて「老後2000万円問題」が自分の親にとって何を意味するのかを、リアルに考えた。ニュースで聞いたことはある。でも「うちの親」という話として考えたことが、一度もなかった。


通知書を年度順に並べると、金額が毎年少しずつ変わっていることにも気づいた。「マクロ経済スライド」という仕組みがあるらしく、物価や賃金に連動して調整されるらしい。ふーん、へえ、と思いながら読み進めていくと、途中でぎょっとする情報が出てきた。


年金は原則として、本人しか受け取れない。


え、待って。


もし母が突然意識を失ったら? 長期入院になったら?


年金は口座に入り続ける。でも「誰かが代わりに管理する」には、ちゃんとした手続きが必要になる。「成年後見制度」という仕組みもあるけど、これは費用も時間もかかるかなりヘビーな話だ。


知っているのと知らないのとでは、動けるスピードがまるで違う。



◆ 年金編でやること


1. 年金振込通知書を全部集める

毎年6月頃、日本年金機構から届く。複数年分あれば全部保管しておく(金額の変化が追える)。


2. 受給額と振込口座を確認する

老齢年金と遺族年金が別々になっている場合は、それぞれ確認。合計額だけじゃなく「内訳」を見ること。「基礎年金」と「厚生年金」が別の行に書かれていて、内訳を把握することで将来の変化も読めるようになる。


3. 「ねんきんネット」で最新情報を確認する

日本年金機構のWebサービス。親の同意のもとにアクセスすると、受給額や支払履歴が確認できる。マイナンバーカードがあると手続きがスムーズ。


4. 「もし動けなくなったとき」の手続きだけ頭に入れておく

日本年金機構への「代理人届」の存在を知っておく(電話で確認できる)。重篤な場合は「成年後見制度」が必要になることも頭の片隅に。地元の「地域包括支援センター」に相談すると、無料で教えてもらえる。




保険証書、読んでも意味がわからない問題



保険証書が3社分出てきた。


某大手生命保険:月払い約1万2,000円

共済:月払い約3,000円

郵便局の簡易保険:払済・満期受取済み


問題は大手生命保険のほうだ。


月1万2,000円。年間14万4,000円。証書の日付を見ると……30年前。


俺は電卓を叩いた。


30年 × 14万4,000円 = 432万円。


マジか。4百万円超えてる。


思わず電卓を二度見した。いや、電卓は嘘をつかない。


4百万円以上、払い続けてきた保険。「で、これ何の保険なの?」と証書を読んでみると——正直、まったく意味がわからない。「終身保険」「入院特約」「特定疾病保障特約」「高度障害保険金」「責任準備金」……


保険の証書って、読む気を完全に奪う設計になってないか、これ。陰謀論じゃないけど、「難しいほど解約されにくい」という構造的な側面はゼロではないと思う。


ただ、解約すればいいかというとそれも違う。70代の母が今から別の保険に入ろうとすると、引受条件がかなり厳しくなる。割高に見えても「長年加入していること自体に価値がある」場合もある。


だから解約はしなかった。でも「把握」はした。


把握するために使ったのは、無料の保険相談窓口だ。「内容の確認だけしたい」と伝えたら、プレッシャーなく話を聞いてもらえた。「保険の見直し本舗」「ほけんの窓口」あたりが全国展開していて使いやすい。



そのとき一番びっくりしたのは、共済のほうが思ったより優秀だったこと。


月3,000円で、入院1日あたり4,500円。証書も1枚でまとまっていて、5分で内容が把握できた。


「わかりにくい=手厚い」でも「シンプル=手薄い」でもない。保険の「難しさ」と「コスパ」は、必ずしも比例しない。これは覚えておいて損のない話だと思う。



そして、一番ヒヤッとしたのがこれだ。


受取人が「父」のままになっていた保険があった。


父はすでに5年前に他界している。


俺じゃなくて母ちゃんがやっちまってたわけだけど——これ、知らなかったら絶対そのままだった。


受取人が存在しない状態になっていたわけだ。保険金が払われないわけではないけど、「法定相続人」への支払いになって手続きが複雑になる。今回の整理で発見して、受取人を俺に変更した。保険会社に電話して書類を取り寄せ、返送するだけで2週間で完了した。


受取人の確認は、保険の中で一番重要な確認事項かもしれない。



◆ 保険編でやること


1. 証書を全部発掘する

タンス・引き出し・押し入れ・仏壇の引き出し(意外と眠っている)をくまなく探す。「払込完了」「満期」のものも一応保管しておく。


2. スマホでスキャンしてクラウドに保存する

「Adobe Scan」「CamScanner」などのアプリでPDF化して、GoogleドライブやiCloudに「親の保険」フォルダを作って保存。紛失対策として必ずデジタルコピーを持つ。


3. 無料相談窓口を使う

「内容の確認だけしたい」と明示すればプレッシャーなく話を聞いてもらえる。ここで「いつから・いくら出るか」を一覧にしてもらうのが一番重要。


4. 受取人を確認する(これだけは絶対やる)

死亡保険金の受取人が配偶者になっている場合、その配偶者がすでに亡くなっていると指定が無効になる。変更が必要なら保険会社に連絡するだけでOK。




通帳が4冊出てきて、俺は途中で泣いた



通帳の数:4冊。


・ゆうちょ銀行:残高 約180万円

・地方銀行A:残高 約230万円

・地方銀行B:残高 約12万円(年金振込専用らしい)

・地方銀行C:残高 約3万円(最後の記帳が7年前)


……地方銀行C。7年前を最後に、入出金がぴたりと止まっている。


え、7年前?


調べると、最後の取引から10年が経過すると「休眠預金等活用法」の対象になって、預金が国庫に移転するリスクがあるとわかった。


マジか。あと3年で3万円が消えるところだったのか。


すぐにその銀行へ行き、通帳を有効化して残高を別口座に移した。セーフ。ギリギリセーフだった。



この作業をしながら、ふと手が止まった。


地方銀行Aの古い通帳をめくっていたら、父の名前で給料が毎月振り込まれていた時代のページが出てきた。農協の積立は、父が農業をやめた後も「習慣として」続けていたものだとわかった。


そして2006年の3月、ひとつの日付に目が止まった。


大きな引き出し。金額は……俺の大学の入学金と授業料の合計と、ほぼ同じだった。


あ。これ、俺のために出したお金だ。


急に涙腺がゆるんで、困った。


一人でリビングに座って、古い通帳を抱えて、しばらく動けなかった。「書類の整理」をしていたつもりが、気づいたら「親の人生を読んでいた」。


泣いた。声は出さなかったけど、静かにぼろぼろ泣いた。いつぶりだろう。たぶん10年以上ぶりだと思う。


通帳って、数字の羅列じゃなくて、その人が生きてきた時間の記録なんだ。



◆ 通帳・銀行口座編でやること


1. 通帳を全部発掘する

タンス・押し入れ・仏壇の引き出し・貴重品袋。高齢の親は「古い通帳を捨てない」ことが多い。ゆうちょ、地銀、農協(JA)まで確認する。


2. 全口座の情報をリスト化する

(金融機関名/口座番号/残高目安/用途/カードの有無/届出印の場所)をセットで記録する。


3. 休眠口座を確認する

最後の記帳から数年経っている口座は要注意。「10年間取引なし=休眠預金」のルールを頭に入れておく。不要な口座は解約して残高を集約すると管理が楽になる。


4. 届出印とキャッシュカードの場所を必ず一緒に記録する

これを忘れると後で詰む。俺は実際に詰んだ(後述する)。「通帳・カード・印鑑」は必ずセットで場所を確認する。


5. 年金振込口座と生活費口座を整理する

「年金が振り込まれているのに残高が増えない」場合は、どこかに自動振替されている可能性がある。定期的な引き落とし項目も通帳から確認しておく。




公的介護保険、全員加入だって知ってた?



これは完全に盲点だった。


「介護保険」という言葉を聞いたとき、民間保険の話だと思っていた。


違う。


65歳以上の全員が強制加入している「公的介護保険」というものがある。使いたいときに「要介護認定」を受けることで、介護サービスを1〜3割の自己負担で使える制度だ。


マジか。全然知らなかった。


しかも、この制度の入口になるのが「地域包括支援センター」という機関で、全国の市区町村に設置されていて、無料で相談できる。要介護認定の申請、使えるサービスの案内、ケアマネジャーの紹介まで全部やってくれる。


今回は入院という比較的軽いケースだったので使わなかったけど、「存在を知っている」と「知らない」では、いざというときの対応速度がまるで変わる。


親の住む市区町村のサイトで「地域包括支援センター」と検索して、電話番号をスマホに保存しておくだけでいい。それだけで十分だ。




やらかした話を全部正直に書く



失敗談を隠す意味がないので、全部書く。



その1|最初に「全部自分で理解しよう」とした


保険の証書を見て、全部の用語を調べ始めた。「終身保険とは」「特定疾病保障とは」「責任準備金とは」……


3時間後、俺は完全に疲弊していた。そして結局、何もわかっていなかった。


やっちまった。まるまる3時間、完全にドブに捨てた。


正解は「わからない書類はプロに見せる」だった。無料相談で30分話せば、3時間の独学より正確に把握できる。専門家を頼ることは負けじゃない。むしろ正解だ。



その2|母に「なんで整理してなかったの」と言ってしまった


やっちまった。これは本当にやっちまった。


言った瞬間に後悔した。


母は少し傷ついた顔をした。シュンとした、と表現したほうが正しいかもしれない。


「そんなこと考えたことなかった」という人に「なんで考えなかったの」と言うのは、答えのない責め言葉だ。考えてこなかったのには、それぞれの理由がある。その理由を責めても、誰も得しない。


謝って「一緒にやろう」というスタンスに切り替えた。そこから母はむしろ積極的に「あ、そういえばこんなのもあった」と書類を出してくれるようになった。


責めるんじゃなくて、一緒にやる。これ、書類整理に限らない話だと思う。



その3|農協の「満期かも」を後回しにした


母のメモに「農協のやつ、満期かも」とあったのに、よくわからないからと後回しにした。


1週間後に確認したら、積立貯金が満期を半年過ぎていた。


やっちまった。半年も経過してた。


幸い利息はついていたけど、満期後の扱いは自動継続になるものとそうでないものがあって、確認が必要だった。「満期かも」という情報は最優先で動く。時間が経つほど選択肢が減ることがある。



その4|印鑑の場所を確認し忘れた


整理が終わったと思っていた1週間後、農協で手続きが必要になったとき、届出印がどこにあるかわからなくなった。


30分探し回った。


見つかった場所:タンスの引き出しの中の、桐の箱の中の、さらに布に包まれた状態。


やっちまった。なんで確認しておかなかったんだ俺。


日本の印鑑文化、おそるべし。「通帳・カード・届出印」はセットで場所を記録する。これは絶対だ。



その5|全部一人でやろうとした


2週間、ほぼ独走した。途中から「なんで俺だけが」という気持ちがじわじわ出てきた。兄弟がいないから仕方ない部分もあるけど、もっと早く外部の専門家を頼ればよかった。


ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士、地域包括支援センター——全部、無料または低コストで相談できる窓口がある。「プロに頼む」ことへのハードルが、俺には高すぎた。




整理が終わって、気づいたこと



2週間かけてほぼすべてを整理した。


達成感はあった。でも同時に、ひとつの問いが浮かんだ。


これ、なんで今まで誰もやってこなかったんだろう。


父は几帳面な人だった。でも「家族に説明する」という発想がなかった。母は「お父さんに任せてた」と言う。俺は「知ろうとしなかった」。


3人がそれぞれ「誰かがわかってるはず」と思っていた結果、誰もわかっていなかった。


情報のブラックボックス化は、会社や組織だけじゃなく、家族の間でも普通に起きる。そしてそれが開くのは、たいてい何かが起きたときだ。


余裕があるうちに開けておくほうが、明らかにいい。




【有料ゾーン】親の安心まとめシート

テンプレート全公開



ここから先は

1,745字

¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?