第49話【相続戦争】跡を継ぐとは?
株主名簿は、お父さんから恵子さんへと切り替えました。
これで名実ともに、会社は恵子さんのものになりました。
「遺言書の検認も終わりましたから、土地と建物の移転登記も済ませてしまいましょう」
「できるのですか?」
「できますよ」
お父さんの遺言書は自筆で、土地建物などの財産が個別具体的に示されています。
そして最後には、
『その他一切の財産を恵子に相続させる』
とある。
日付、署名、押印もある。
「大丈夫です。司法書士の先生にお願いして、移転登記を進めましょう」
「はい」
「しかし、よかったですよね」
「何がですか?」
「代表者の変更登記も済ませてある。そして今回、株式も引き継いだ。名実ともに、この弁当屋さんの主人になったということですよ」
恵子さんは、少し黙っていました。
「これからは、ご両親が作ってこられた味を守りながら、新しいメニューを考えたり、恵子さん自身の色を出していってもいいんじゃないですか?」
「自分らしさ……ですか?」
「そうです」
私はこう考えています。
継ぐということは、単に現状を維持することではない。
受け継いだものを守りながら、そこに自分らしさを加え、新しく進化させていくこと。
それもまた「継ぐ」ということなのだと思います。
「今までは、ご両親のお店を守り育ててきた。これからは、それを恵子さん自身の手で進化させるステージに入るんじゃないですかね?」
「新しいステージですか……。できるかしら?」
「できますとも」
「どうして、そう思うんですか?」
「もともと、食事を作って人に提供する仕事が好きなんじゃないですか?」
「は、はい」
「そうでなければ、10年も続きませんよ。他の仕事をしながら介護する道だってあった。それでも、お店を守り続けたんでしょう?」
しばらくして、恵子さんが言いました。
「和尚さん、ありがとうございます」
そして少し笑って、
「私、自分がこの仕事を好きだったって……今、気がついた感じです」
相続争いは、まだ終わっていません。
しかし恵子さんにとってはこの日、
「両親の店を守る人」から、
「自分の店を経営する人」へ。
新しいステージが始まったのかもしれません。

