見出し画像

超動く家にて 宮内悠介 不思議な短編集

■概要

『超動く家にて』宮内悠介(著)、東京創元社、〈創元SF文庫〉、2021/4/12
単行本版は『超動く家にて 宮内悠介短編集』として2018/2/23に刊行

宮内悠介は、SF、ミステリ、純文学を横断する作家です。SFでは日本SF大賞、日本SF大賞特別賞、星雲賞などを受賞しています。ミステリ・エンターテインメントの分野でも、吉川英治文学新人賞や日本推理作家協会賞を受賞しています。さらに純文学の領域では、三島由紀夫賞を受賞し、芥川賞候補にも複数回、直木賞候補歴もあり、ジャンル文学と純文学の境界を自在に行き来する、現代日本文学でも稀有な作家といえます。MSXを愛好することでも知られています。

本書は、シリアスな作品でも高い評価を受けている著者が、ユーモアを存分に発揮した自選短編集です。
どの短編からも、作者の尋常ならざる発想力と文章力の高さが伝わってきます
解説は酉島伝法

〈収録作品〉
トランジスタ技術の圧縮
文学部のこと
アニマとエーファ
今日泥棒
エターナル・レガシー
超動く家にて
夜間飛行
弥生の鯨
法則
ゲーマーズ・ゴースト
犬か猫か?
スモーク・オン・ザ・ウォーター
エラリー・クイーン数
かぎ括弧のようなもの
クローム再襲撃
星間野球

■内容メモ

◆トランジスタ技術の圧縮

かつて分厚い広告ページを誇ったCQ出版社の雑誌『トランジスタ技術』。限られた本棚のスペースを確保するため、広告ページを取り外して薄くし、あらためて製本し直す作業は、いつしか国民的な競技として注目を集めるようになっていた。
仕上がりの美しさを追求する「アイロン派」。
速さと力技を信条とする「引きちぎり派」。
長く対立してきた両派の、最後の決戦が近づいていた。

もちろん、今でも紙の雑誌『トランジスタ技術』は普通に売ってます

◆文学部のこと

主人公は、かつて存在した「文学部」に在学していた。
「文学」は縄文時代にはすでに存在していたと考えられており、その中でも「神文」と呼ばれる種は、副作用なくいくらでも読むことができ、水のように澄み渡っているという。
文学部の学生たちは、よりよい文学を求め、酵素や発酵についての学習に励んでいる。だが、糠の微粒子が耳から入り込んだ学生は、衣服だけを残して失踪してしまうのだった。

シュールでユーモラスでありながら郷愁を誘う作品

◆エターナル・レガシー

人生を囲碁に賭け、中国から日本に移住してきた青年はコンピュータとの対局に敗れてしまった
絶望していた彼は自らを「Z80」の妖精と名乗る男と知り合い、成り行きで同居するようになってしまう。妖精は「こう見えても宇宙に行ったこともあるんだぜ」、と言い、周囲の電子機器を見て素朴に驚く。
久しぶりに訪ねてきたガールフレンドは「Z80」を見てあきれるのだが。

著者のMSX愛にあふれた作品
MSX好きにはこれだけでも読む価値があるでしょう

◆超動く家にて

エラリイとルルウの探偵事務所は、円形の館「メゾン・ド・マニ」で起きた密室殺人事件に挑む。
現場に居合わせたのは、一ヶ谷、二宮、三井、ヨンジュン、五木島、六角、七海、ハチ、九谷、十戒。狭い密室の中で、三井は墜落死を遂げていた。だが、それは惨劇の始まりにすぎなかった。やがて、さらに残虐な連続殺人が幕を開ける。

◆法則

オーチャード家に使用人として仕えていた青年は、令嬢ジェシカと恋仲になる。しかし、父親であるオーチャード氏は二人の関係に強硬に反対する。激昂した青年は、重いガラスの灰皿をオーチャード氏の頭に叩きつけてしまう。

ところが、灰皿は粉々に砕け散ったにもかかわらず、オーチャード氏はなぜか無傷だった。当然のように解雇された青年は、この世界を支配している「法則」について考え始める。

◆ゲーマーズ・ゴースト

金持ちの娘ナナさんと駆け落ちした主人公は、彼女を車に乗せて走り出す。ところがナナさんは、途中でヒッチハイクをしていたミュージシャンのアキオと、外国人のレイモンドまで車に乗せてしまう。

彼らの車の後ろには、追手らしき車がどこまでもついてくる。主人公は当然、ナナさんの父親の差し向けた追手だと思い込む。だが、アキオとレイモンドは言う。もしかすると、追われているのは自分たちなのかもしれない、と。

ここにもMSXらしきものが出てきます

◆犬か猫か?

1930年代のオックスフォード。ヨーロッパ大陸からきた物理学者は少女と会話する過程で一つの着想を得る。

実際に、箱の中の猫の話が出てくる論文は1935年の “Die gegenwärtige Situation in der Quantenmechanik” であり、この時期は物理学者のイギリス滞在中に当たります。

物理学者がいたのはオックスフォードのモードリン・カレッジであり、アリス・リデルの家族はクライスト・チャーチですが、徒歩で往来できる距離のようです。

アリス・リデル(1852/5/4-1934/11/16)と、ヒトラーへの抗議の意志を示すためオックスフォードに滞在していた物理学者とは、短い間ですが同じイギリスに生きていたわけです。

ちなみに
LEWIS CARROLL と
ALICE LIDDELL は
文字の並びが結構似ていると指摘されます

また、
ルイス・キャロルとウィトゲンシュタインは
ラトウィッジ(ルートヴィヒ)、兄弟の多さ、数学・論理学への興味、簡素な私生活、生涯独身などの共通点があります(ウィトゲンシュタインはケンブリッジですが)

◆スモーク・オン・ザ・ウォーター

主人公の父は技術部の課長だったが、脳に悪性腫瘍が見つかり、いまは自宅のベッドで死を待つだけの身となっていた。大学生の主人公は研究者を目指していたものの、学部卒業後は家族を支えるため、就職することを決めていた。
そんなある日、八重洲に小さな隕石が落下する。好奇心旺盛な妹は現場へ出かけ、そのかけらを拾って帰ってくる。そして、それをペンダントにして父に渡す。
翌朝、灰皿には燃えさしのタバコが残されていたが、歩けないはずの父は、忽然と姿を消していた。

古典的な設定でありながら、現代的なひねりが効いています。

◆星間野球

老朽化した宇宙ステーションには、杉村とマイケルの二人だけが滞在していた。二人は地球へ帰還できる日を、指折り数えて待っている。固い友情で結ばれた二人だったが、次のシャトルで地球へ戻れるのは、どちらか一人だけだった。その機会を逃せば、帰還はさらに一年以上先延ばしになってしまう。

そこで二人は、たまたま見つけた古い野球盤で勝負し、勝った方が帰還することにしようと決める。半ば冗談のように始まったゲームは、やがて互いの知力を尽くした真剣勝負へと変わっていく。宇宙を舞台に、異様な野球盤対決が繰り広げられる。

■終わりに向かって

本書にはSF的な設定を持つ作品が多く収められています。ここから宮内悠介作品に入り、さらに純文学的でシリアスな作品へと読み進めていくのもよいのではないでしょうか。
もっとも正直に言えば、個人的には、この作者には純文学よりも、SFやミステリを中心にもっと書いてほしいとも願っています。

最後までお読みいただき ありがとうございました

いいなと思ったら応援しよう!