14番目の月~2025エリザベス女王杯・注目馬・注目ゲート・競馬小説カフェ・ド・イーグル~
■ 競馬ノート
2025年11月10日(月)午前6時半
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-
早起村の朝は早い。
カフェタイムのカフェ・ド・イーグル、朝の仕込み、開店の準備を終えたミスターは、開店時間を待つ間にノートを眺めていた。
サイン競馬に関する気づきやネタをまとめたもので、常連客たちとのやり取りも簡単にまとめられている、いわば競馬ノートだ。
11月9日、つまり昨日の日曜日のところにはこう書いてある。
・『ザ・ロイヤルファミリー』第6話 有馬記念
・山本美月→サンデー接触(貫ちゃん)
・第50回エリザベス女王杯→ゴジュウジャー(社長さん)
・マルマル不発→30・60・50→リバティアイランド(景子ちゃん・ママ)
最初の『ザ・ロイヤルファミリー』は、ミスターが取っ掛かりとして話題提供したものだ。
エリザベス女王杯当日に放映される、『ザ・ロイヤルファミリー』第6話のタイトルは「有馬記念」。
素直に、昨年の有馬記念を勝っているレガレイラではないかという軽いジャブだ。
ふたつ目の、エリザベス女王杯プレゼンター山本美月。

彼女の夫である瀬戸康史が、今年の皐月賞のプレゼンターだったことに気づいたのは貫一郎だった。
今週、京都競馬場では将棋のタイトル戦最高峰である、竜王戦の第4局が開催される。
佐々木勇気八段の挑戦を受けて立つのは、防衛成功なら竜王戦5連覇となり、史上三人目の永世竜王となる藤井聡太竜王。
彼は愛知県瀬戸市の出身であり、間接的に瀬戸康史を示唆している。
加えて、山本美月に対し皐月賞と月つながりでもあるから、山本美月から皐月賞をみるというのは理にかなっていた。
その皐月賞がサンデー丼、かつ11番→10番という接触目であったことから、登録馬50音順で並んでいるサンデーの2頭が怪しいというものだった。
エリザベス女王杯
プレゼンター 山本美(月) (夫:瀬戸康史)
皐(月)賞
プレゼンター 瀬戸康史
1着:6-11 ミュージアムマイル(サンデー)
2着:5-10 クロワデュノール(サンデー)
※サンデー丼・接触目
エリザベス女王杯
リンクスティップ(サンデー)
レガレイラ(サンデー)
※50音順接触
さらに、藤井聡太竜王の瀬戸市にもう一度注目すると、今年の瀬戸ステークスから、坂井瑠星のアドマイヤマツリも浮上する。
2025/1/25(土)
中京11R 瀬戸S
3-04 テーオーパスワード(坂井瑠星)
エリザベス女王杯
アドマイヤマツリ(坂井瑠星)
→ 回避
竜王戦に対してテーオーだから、これも悪くない発想だ。
みっつ目の第50回エリザベス女王杯。これはイカ社長が挙げたネタで、戦隊モノのラストになるかもと噂されている、ゴジュウジャーを絡めたものだった。
「秘密戦隊ゴレンジャー」から始まった戦隊モノシリーズは、開始から50周年を記念してそのタイトルを「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」と銘打った。
ゴレンジャーといえば以前取り上げた通り、5人のヒーローの頭文字がカシオペアであることが、物語の終盤の肝となっている。
秘密戦隊ゴレンジャー
海城 剛 (カ)
新命 明 (シ)
大岩大太 (オ)
ペギー松山(ペ)
明日香健二(ア)
→ カシオペア
エリザベス女王杯の第50回とゴレンジャーシリーズの50周年がつながるのであれば、前走がカシオペアステークス1着馬であるオーロラエックスに何かしらの役目があるのではないか。
それがイカ社長の見解であった。
それに対しミスターも、今週の特別戦にはオーロカップと深草特別があり、馬名にオーロ、馬主に草があるオーロラエックスには追い風だと援護射撃をしたのだった。
11/15(土)
京都9R 深草特別
11/16(日)
東京11R オーロC
エリザベス女王杯
(オーロ)ラエックス
馬主:(草)間庸文
最後の「マルマル不発」。これはケチャ子の気づきであった。
京王杯2歳ステークスの指標枠1枠が、馬名末尾「マル」の同居で馬券にならず。
京王杯2歳S
1-01 ネネキリ(マル)11着
1-02 シャオマ(マル)4着
それを受けての今週に、開催回数末尾" 0 "の3重賞が組まれている。
第30回 武蔵野S
第60回 デイリー杯2歳S
第50回 エリザベス女王杯
京王杯2歳ステークスの1枠は、今週の3重賞の開催回数に注意せよという予告ではないか。
ケチャ子の提起に対し、リバティアイランドを持ち出したのは聖子ママだった。
今週の3重賞、十の位の数字は、リバティアイランドの三冠ゲートだというのだ。
<リバティアイランド 三冠ゲート>
桜花賞 3番
オークス 5番
秋華賞 6番
第30回 武蔵野S
第60回 デイリー杯2歳S
第50回 エリザベス女王杯
リバティアイランド(サンデー)
牝馬三冠馬
レガレイラ(サンデー)
勝てばGⅠ 3勝目
同じサンデーであることに、強引に「3」という数字を絡めれば、勝てばGⅠ3勝目となるレガレイラが浮上する。
今年、残念ながら香港で星となった三冠馬リバティアイランド。
彼女の役割はこれだけなのか。結論が出ないまま、日曜の検討会はお開きとなった。
ここまでを簡単にまとめると、以下の4頭が浮上する。
エリザベス女王杯 注目馬
レガレイラ
リンクスティップ
オーロラエックス
アドマイヤマツリ(回避)
■ 2011
2025年11月10日(月)午後7時50分
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-
その日の夜、バータイムのカフェ・ド・イーグル。常連客達の最初の話題は、競馬ではなく地震についてだった。ここ三陸沖で、昨日、今日とそこそこの震度の地震が頻発していたからだ。
「1000年に一度という規模だったじゃない?」
2杯目の生ビールに突入していたケチャ子が眉根を寄せた。
「あの東日本大震災からそんなたっていないのに、またあんな大地震がくるかもと想像したら憂鬱になっちゃうわ」
「景子ちゃんがいうのは最もですが・・」
ミスターが冷静にいった。
「1000年に一度の大地震だからといって、前回の発生から必ず1000年開くとは限りません。用心するに越したことはないでしょうね」
「早苗あれば・・いや、備えあれば患いなしってね」
聖子ママが、新総裁高市早苗のキャチコピーをわざと織り交ぜて、場の空気を軽くした。
「2011年だからあれから14年か・・」
聖子ママが作った空気を壊さないように、イカ社長が努めて明るくいった。
「14年?」
やや大きな声を挙げたのは貫一郎だった。
「そうか! そうつながるのか!」
「解説プリーズ!」
問いかけたケチャ子に軽く頷き、貫一郎がいった。
「今週の3重賞、開催回数が全部キリ番という話は昨日出ましたよね?」
第30回 武蔵野S
第60回 デイリー杯2歳S
第50回 エリザベス女王杯
みんながそうだったと頷いた。朝、競馬ノートで確認済みのミスターも貫一郎に注目する。
「リバティアイランドの三冠ゼッケンでもあるって気づいてくれたのはママでした」
聖子ママが頷く。
「リバティアイランドの三冠ゼッケン、足すとちょうど14になるんです!」
<リバティアイランド 三冠ゼッケン>
桜花賞 3番
オークス 5番
秋華賞 6番
3+5+6=「14」
2011/3/11(金)
東日本大震災発生
2025
東日本大震災発生から「14年」
みんながなるほどと頷く中、ミスターがそうかと声を挙げた。
「そういう意味では、武蔵野ステークスの第30回。これは阪神淡路大震災からの年数になっていますね。1995年1月17日でした・・・」
1995/1/17(火)
阪神・淡路大震災発生
2011/3/11(金)
東日本大震災発生
2025
阪神・淡路大震災発生から「30年」
東日本大震災発生から「14年」
(第30回)武蔵野S
第60回 デイリー杯2歳S
第50回 エリザベス女王杯
3+6+5=「14」
※リバティアイランドの三冠ゼッケンと一致
みんながおおという声を挙げた。
「そういやあ・・・」
イカ社長が腕を組んでいった。
「『ザ・ロイヤルファミリー』の第5話。ロイヤルホープの2戦目は新潟代替の芙蓉ステークスだったじゃねえか?」
みんながうんうんと頷く。
「確か物語のスタートが2011年。リバティと同じ、サンデーの三冠馬オルフェーヴルが誕生した年だ。あの年も、中山や福島の番組が他の競馬場での代替を余儀なくされたんだよなあ・・・」
みんながなるほどと頷き、店内にしばし沈黙が降りた。
30、60、50という、3つのキリ番開催が暗示するふたつの大地震。そして非業の死を遂げたリバティアイランド。昨日今日と、頻発する三陸沖での地震。
これは単なる偶然なのか、それとも・・・
■ ホクトベガ
「リバティアイランドといえば・・・」
聖子ママが重い口を開いた。
「山王耕造の重賞初勝利、第13回中山牝馬ステークスのロイヤルハピネス・・・」
みんなが聖子ママに注目する。
「実際の第13回中山牝馬ステークスは、勝った馬はアルファキュートなんだけど、2着馬がその2年前のエリザベス女王杯を勝っているホクトベガなのよ。開催年をみて驚かないでね・・」
(1995)/2/26
(第13回)中山牝馬S
1着:8-10 アルファキュート
2着:6-06 ホクトベガ
※阪神・淡路大震災発生年
店内のあちこちから、唸り声が挙がった。
1995年といえば、今挙がったばかりの阪神・淡路大震災だ。
ロイヤルハピネスは阪神・淡路大震災を、ストーリーの開始年2011年は東日本大震災を暗示している。
そして、ホクトベガとリバティアイランドには、海外の重賞で星になってしまった名牝という悲しい共通点がある。
著者早見和真氏が、いや、制作に大きく関わっているJRAが込めたいメッセージはなんなのであろうか。
■ 長嶋茂雄
10分間の休憩後、キーナンバー「14」を強調するもうひとつのネタがあがった。発信したのは、ミスタープロ野球長嶋茂雄をこよなく愛する男、ミスターだった。
「今日、こんなニュースが飛び込んできました」
「人名をつけたプロ野球の賞といえば、正力松太郎賞もありますが、有名なのは完投型の投手に与えられる名誉、沢村賞ですよね」
「該当者なしの年もそう珍しいことではない、受賞基準が厳しい賞だよな」
イカ社長が応じた。ミスターが軽く顎を引いて続ける。
「沢村栄治といえば、『ザ・ロイヤルファミリー』で山王耕造のライバル役を演じる沢村一樹と、栗須栄治を足して2で割った名前になります」
(沢村)一樹=椎名善弘
栗須(栄治)
→(沢村)(栄治)
みんながなるほどと頷いた。
「そして、沢村栄治といえば背番号14・・・永久欠番です!」

みんながおおという声を挙げた。
東日本大震災から14年。今週の3重賞とリンクする、リバティアイランドの三冠ゼッケン合計数字である14。
そして、このタイミングで飛び込んできた長嶋茂雄賞創設から連想され、『ザ・ロイヤルファミリー』にもつながる沢村栄治。戦死した名投手が背負っていた永久欠番も同じ14…
時空の神さまは、我々に何を伝えようとしているのか。
「エイジ・・・」
貫一郎が難しい顔をしていった。
「いまいち何を伝えたいのかがわからなかった、ヒプノシスマイクとUMAJOのコラボ・・・」

「動画の最後で、『週末のバイブス、アゲテこうぜ』っていうんですよ。アゲアゲ・・・AGE、AGE・・・」
「エイ、ジー、イー・・・AGEでエイジだわ!」
気付いたケチャ子がパシっと膝を叩いて、イカ社長らもおおという声を挙げた。
「なるほど、貫ちゃんでかしたぜ! ここまで材料が揃っていりゃあ、14番には何かしらの役割りがありそうだな!」
みんながうんうんと頷き、エリザベス女王杯の注目ゲートは満場一致で14番となった。
複数の物事と符合する14だが、この14という数字のさらなる秘密に迫るには、あるピースが必要となることにカフェドイメンバーはまだ気付いていなかった。
そのピースは、まったく意外なところからもたらされることとなる。
■ 嫌な予感
2025年11月11日(火)午後4時
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-
翌日。今日も、天高く馬肥える秋を絵に描いたような、眩しい青空の恩恵を受けていた早起村。
カフェタイムが残り1時間となったカフェ・ド・イーグルに、この時間にしては珍しい客がやってきた。
「気持ちのいい天気だったわね!」
そういって入って来たのは、訪問看護の仕事が早く片付いたというケチャ子だった。
いつもの、カウンター右端から2番目の席に腰をおろすと、ジョッキを傾ける真似をした。
あら今日はお早いことといいながら、聖子ママが生ビールをサーバーにセットする。チョロっと舌を出してケチャ子がいった。
「たまにはこのくらいの時間から飲んだって、バチはあたらないでしょ?」
聖子ママから受け取ったジョッキを傾けかけたとき、ケチャ子のバッグの中でスマホが震えた。チラリと視線を向けたケチャ子がジョッキをカウンターに置く。
「ちょっとーー。あたし今日なにか悪いことしたかしら・・・」
ディスプレイに表示されていたのは、ケチャ子の訪問看護仲間である女性看護師の名前だった。
お互い普段はフリーで動いているが、どうしてもキャンセルできない仕事を休まざるを得ない事態になったとき、仕事をやりくりしている間柄だ。
前回、ケチャ子の生理が重くてどうにもならないときに仕事を代わってもらっていたので、今日はケチャ子が借りを返す番だった。
「はい、お待たせしました、景子です」
そこはプロで、嫌な感じを微塵も見せずにケチャ子が電話に出た。案の定、子供が熱を出したので仕事を代わって欲しいという依頼だった。
「うん、大丈夫よ。まだ飲んでないから・・・・うん、うん・・・オーケー。詳しいことはいつものようにLINEで送って」
ケチャ子が電話を切ると、聖子ママがケチャ子の生ビールをグイっとあおった。
「いってらっしゃい。これはあたしが責任持って飲んであげるから」
「はいはい・・・戻ってきたら最初の一杯はサービスしてね」
ちょっとふてくされた顔から笑顔に切り替えたケチャ子は、さっき置いたばかりのバッグをかつぎ店を出ていった。
■ 訪問看護
ケチャ子が訪問先の一軒家についたのは、午後5時を5分ほど過ぎたころだった。
応対してくれたのは、患者の夫と思われる初老の男性だった。60代半ばから70代前半といったところで、がっしりとした体型と垂れ目の柔和な顔が安心感を与えてくれる。
案内された寝室には、妻と思われる痩せた女性が目を閉じて横たわっていた。スース―というリズミカルな寝息を立てて眠っている。聞くと、最近は日中でもほとんどこんな様子だという。
有人の看護師からもらった情報には66歳と記載されていたが、末期の子宮頸癌の影響だろうか、少なくとも70歳以上にはみえた。
今日のケチャ子の業務内容は、自宅における痰の吸引の指導だった。9月初旬ごろから食事場面でむせることが増え、10月には何も食べていない時間帯でもゴロゴロと喉が鳴るようになったという。
かかりつけ医からは、終末期の患者をみてくれる病院に入院させるか、さもなければ自宅で常時吸痰できるような体制を整えるようにという指示がなされた。
男性は迷うことなく後者を選択し、訪問看護師による指導を受けることになったという次第だ。
ケチャ子は、近くのコンビニでプリントアウトした即席の資料を男性に見てもらいながら、ひとつずつ丁寧に手順を説明した。
ケチャ子がまず三度連続でやってみせ、今度は男性に手順を示しながら実際にやってもらった。男性からはなんとか今日中に覚えてしまおうという意欲が感じられ、約30分で指導は終了となった。
「がんばりましたね! なかなか初日でここまで覚えられるものではないですよ」
ケチャ子の本心からの賛辞をもらい、男性は笑顔をみせた。
「いやあ、ちゃんと覚えないと娘に何を言われるかわかりませんから、こっちは必死ですよ」
男性はそういうと、お構いなくというケチャ子を制し、キッチンへと立った。
「さっきいった娘がですね、今は帰省中なんですが京都で働いているんです。お土産ですがお口に合うかどうか・・」
お皿に綺麗に盛られていたのはおいしそうな生八つ橋だった。
「お口に合うもなにも、大好物です」
さっきまでは本当に固辞して帰ろうかと思っていたケチャ子だったが、自然と手が皿に伸びた。濃い緑茶と生八つ橋の組み合わせは疲れた体に染みわたり、お茶のお代わりの勧めにも、では遠慮なくと湯呑を差し出していた。
「彼女は元妻なんですよ・・」
ケチャ子が二杯目のお茶をすすっているときに、男性は突然切り出した。
「いわゆる熟年離婚というんですかね・・・原因は浮気でした」
ケチャ子はゆっくりと湯呑を茶托に戻した。
「あ… といっても浮気していたのは妻のほうだったんです」
ケチャ子の心を見透かしたように男性はいった。浮気三昧だった夫が、妻の看病をきっかけに今までの罪を償っている。そんなことを考えていたケチャ子は、思わず小さく頭を下げた。
元妻が確かに眠っているのを確認するかのように、寝室のほうに一度目を向けてから、男性は続けた。
「これはもう結婚する前からだったんですがね・・・自分から誘うことはないのですが、相手から言い寄られるとどうにもこうにも断れない性分のようなんです。娘が小さいうちは片親にしたくない一心で目をつむっていましたが、娘が就職して家を出てからはダメでした」
「・・・それでご主人のほうから離婚話を持ち出されたんですね・・」
「そういうことです。今年の春、娘から持ってあと一年の末期癌だと聞いて、最期は自分が看取ってやりたいという気になりましてね・・・自分から別れを切り出したのに・・・変ですかねえ、こういうの?」
ケチャ子は静かに首を横に振った。
「ああ、三人で撮った写真があります」
男性は寝室から写真立てを持ってきた。
「この真ん中にいるのが娘です。年々妻に似てくるのが不思議でねえ・・」
「・・・・多希子・・・・ これ、多希子ちゃんじゃないですか? 多い希望の子」
目を丸くしながらそう問うケチャ子の言葉に、次に目を丸くしたのは男性のほうだった。
「はい、娘の名前は確かにそう書く多希子です。看護師さんは娘をご存じで?」
「ターキー・・・・いや、そう呼んでいたもので・・・小成多希子さんですよね? こちらは佐々木さんだと伺っていたので気づきませんでした」
「小成は私の姓です。離婚したまま籍は戻していないので、妻は旧姓の佐々木に・・・ところで、多希子とは同級生かなにか?」
「はい! 中学時代はほぼ三年間一緒に登下校してました」
「中学時代・・ですか・・・・・ああ! 私はそのころ単身赴任で岩手から出ておりましたから、どうりで看護師さんの記憶もないわけだ。お互いの家を行き来するような間柄なら、覚えているはずですからねえ」
娘の友人との思わぬ再会に、男性は相好を崩した。
男性の話によると、離婚後に元妻は家を出ていき、この場所に居を構えたという。妻が出ていった家は東日本大震災で流されてしまい、以来娘が帰ってくる家もこの家となった。
「そうだ! もうそろそろ帰ってくるころだとは思うんですが、ちょっと電話してみましょうか」
自分がいるとあてにされるということで、娘である小成多希子はあえて父と母を残し用足しに出かけていったという。
「おお、多希子か。今、珍しいお客さんが目の前にいらっしゃるぞ」
スマホを受け取ったケチャ子は弾む声でいった。
「ターキー? あたし、景子・・・うんうん、そう、あの景子だよ! 懐かしいー!!」
■ 旧友との再会
それから1時間半後、ケチャ子は旧友の小成多希子とカフェ・ド・イーグルで会っていた。常連客やミスター、聖子ママへの紹介も終わり、お酒はいける口だという多希子はすっかりいい心持ちになっていた。
「あーー、景子ちゃんに再開できるなんて! こっちに一度帰ってきてよかったわー。うちの家庭の黒歴史はバレちゃったけど・・・」
多希子がもう何度目かわからない乾杯を生ビールのジョッキで求めてきて、ケチャ子が笑顔でそれに応じた。
中学時代から英語の成績が抜群だった多希子は、大学の英文科を出たあと、数年間の英国留学を経て、今は京都で外国人観光客を相手にツアーガイドをしているという。
今は、母が家で吸痰の必要がある状態になったため、父にその役目ができるのかどうかを確かめるために、長期休暇を利用して帰って来ているのだという。
「あたしはね、無理しないでターミナルケアのある病院に入れたらって何度も説得したの。お父さんも倒れちゃうよって・・・でも、お父さんがどうしても最期は家で看取るんだっていってきかなくて・・・」
「偉い! 偉いよーー」
ケチャ子が何度も首を上下させた。
「今はねえ、家で全然みられる状態なのに施設に入れたがる家族だっているんだから」
「そうなのかなあ・・・12月の頭には京都に戻るつもりだから、あたしもしばらくは親孝行できるってわけだけどね・・・母がいよいよってなったら、また長期休暇をもらって戻ってくる予定なの」
その言葉に、店内はとたんに静かになった。
数秒間の沈黙後、イカ社長が明るい声でいった。
「外国人相手のツアーガイドっつうのか? 俺はよくわからねえんだけど、仕事は忙しいのかい?」
「そうですねえ・・・今年はエリザベス女王の来日50周年だから、イギリスからの観光客はいつもより多いような気がするわ。彼女が訪日した際に訪れた場所をいろいろ観に来てるみたい」
エリザベス女王という単語が出て来て、それまでは話題には積極的には入ってこなかったミスターと聖子ママも、思わずといった感じで多希子をみた。
ミスターがいった。
「第50回と50周年・・・・そうか、うっかりしてました! 一年ずれてるから50が重なるんだ!」
1975 エリザベス女王Ⅱ世来日
1976 第1回 エリザベス女王杯
2025
エリザベス女王Ⅱ世来日から50周年
第50回 エリザベス女王杯
顔にクエスチョンマークが貼りついている多希子に、ケチャ子が説明する。
「ええと、ごめんね。この店って競馬バカの集まりなの。今週行われるエリザベス女王杯が第50回だから、驚いてるってわけ」
「50と50で100か!」
イカ社長がポンと手を叩いた。
「京都競馬場開設100周年記念で開催される、竜王戦第4局。ちゃんとエリザベス女王杯とつながりがあるわけだ!」
2025
エリザベス女王Ⅱ世来日から50周年
第50回 エリザベス女王杯
京都競馬場開設100周年記念
50+50=100
みんながなるほどと頷いた。
そのとき、スマホで何やら調べていた貫一郎が、大きな声を挙げた。
「エリザベス女王が来日された1975年。エリザベス女王杯への名称変更は翌年ですからエリザベス女王杯は施行されていないので、ダービー馬がどの馬だったかみてみました」
興奮気味の貫一郎に、一気に視線が集まった。
「勝ったのはカブラヤオー。それから4年後の第4回エリザベス女王杯。制したのがカブラヤオーの全妹にあたるミスカブラヤ。しかもゲートが7枠14番! 後にも先にも、14番でエリザベス女王杯を勝ったのはこの馬だけです!」
1979(第4回)エリザベス女王杯
7-(14)ミスカブラヤ
※カブラヤオーの全妹
※エリザベス女王杯 唯一の14番での勝利

みんながおおという声を挙げた。
昨日何度も出てきた14という数字。カブラヤオーを介してではあるが、エリザベス女王と14とのつながりが出てきたわけだ。
「第4回エリザベス女王杯っつうのもいいじゃねえか!」
イカ社長がいった。
「明日から始まる竜王戦は第4局だ。地味につながってるぜ!」
「14番、いいですね!」
声の主にみんなが一斉に注目した。常連客ではなく、今日初めてきた多希子だったからだ。
「実は、GⅠだけだけど、あたしも競馬やるんですよ」
そういって彼女は、バッグからカードホルダーのようなものを取り出した。いつも持ち歩いているという。
「直近のGⅠ14番勝利はこの馬ね。テーオーロイヤル。昨年の春天」
カウンターには、100円馬券ではあるが、確かにテーオーロイヤルの名前が入っている。
「あちゃーー! テーオーロイヤル!!」
ケチャ子が天を仰いだ。心中を察したミスターがいった。
「なんで気づかなかったんでしょうね。『ザ・ロイヤルファミリー』からのテーオーロイヤル。直近の14番でGⅠを勝った馬でした・・」
「その前がこれ。かわいそうなことになったアスクのビクターモアちゃん」
2022年の菊花賞、アスクビクターモアの単勝馬券だった。
「2022年て・・」
聖子ママが口に手を当ててからいった。
「エリザベス女王が亡くなった年だわ! ここにも14番が・・」
驚くみんなに構わず、多希子はコレクションを次々と披露していく。
「次はジオグリフ。ええと、ビクターモアちゃんと同じ2022年の皐月賞ね」
「ジオグリフといえば、リバティアイランドと同じサンデーですね」
貫一郎の言葉に、みんながうんうんと頷いた。
その後も、カフェドイメンバーにとっては示唆の多い貴重な馬券が次々と披露された。
2020 天皇賞(春)※令和初の春天
8-14 フィエールマン(連覇)
※サンデー・平成最後の春天優勝馬
2017 秋華賞
7-14 ディアドラ
※のちに日本生産馬・調教馬としてイギリスGⅠを初制覇
2015 日本ダービー
7-14 ドゥラメンテ
※サンデー・リバティアイランドの父
2012 オークス
7-14 ジェンティルドンナ
※サンデー・牝馬三冠馬
2012 秋華賞
7-14 ジェンティルドンナ
※サンデー・牝馬三冠馬
2011 菊花賞
7-14 オルフェーヴル
※サンデー・三冠馬・東日本大震災発生年
■ ゲン担ぎ
多希子の馬券コレクションにみんながお腹いっぱいになったところで、ケチャ子がみんなが思っている疑問を口にした。
「ねえねえ、なんで14番の単勝ばかり買ってるの? まさか誕生日が14日だとか?」
少し嫌味な感じの響きが混ざっていたが、多希子はあっさりと頷いた。
「てへへ、ご名答! 4月14日生まれだからね・・・ていうか、景子ちゃんあたしの誕生日忘れてたでしょ?」
「お、おぼえていたわよ!」
しどろもどろになりながらケチャ子が答え、店内は笑いに包まれた。
■ 龍安寺
「うーん、でもね、14番だけを買い続けてるのには、もうひとつ理由があるの。京都でツアーガイドをやってると、一年で何十回となく説明することになる石庭」
「セ、セキテイ!?」
頭の中で漢字に変換できなかったイカ社長が、多希子の声をかき消すようにいった。
「セキテイといやあ、セキテイリュウオーじゃねえか! こんなかたちでも竜王戦とつながるのか!」
セキテイリュウオーは、秋の天皇賞を2年連続2着した名バイプレイヤーだ。
「そう、石の庭と書いて石庭。京都の龍安寺(りょうあんじ)っていうお寺にあるシンプルな石庭なんだけど、石が15個あるの。エリザベス女王が来日されたときにも見学されて、素晴らしい石庭だってことで世界的に有名になったってわけ」

みんなが再度多希子に注目した。
「この石庭の面白いところが、石は確かに15個あるんだけれど、どの位置から眺めても14個しか見えないの」
おおおという地鳴りのようなどよめきが店内に響き渡った。
「どうしてそのような仕掛けになってるんでしょうか?」
声が上ずっているミスターの問いに、多少とまどいながらも多希子は答えた。
「うーん・・・これには諸説あるんだけれど・・・・・あたしが一番好きなのはこれかな」
多希子はそこで、生ビールで唇を湿らせた。
「15という数字は、東洋では完全なる数字とされてるの。十五夜って言葉がある通り、新月から15夜目に満月となるでしょ? その一歩手前の14日・・・完璧にはちょっと足りない、まだ上があるところに美しさを感じるんじゃないかしら」
みんながなるほどと大きく頷いた。
「・・・山本美月!」
貫一郎が叫んだ。
「美月は直訳すればビューティフルムーン! 満月とも取れます! この石庭のエピソードを暗示してるんじゃないでしょうか?」
みんながなおおという声を挙げた。
■ 14番目の月
そのとき、カラオケ用のスクリーンが反応した。いつの間にか聖子ママが曲を入れていたのだ。
曲は、ユーミンが荒井由実時代に作った曲、『14番目の月』だった。
曲が終わり、みんなの拍手にお辞儀でこたえた聖子ママがいった。
「この曲は、荒井由実の4枚目のアルバム、『14番目の月』の表題作なの。そのアルバムには、競馬ファンにはおなじみの『中央フリーウェイ』も入ってるわ」
聖子ママによると、このアルバムは荒井由実名義の最後のアルバム、かつ松任谷正隆が初めてプロデュースした最初のアルバムであるという。
これを最後に引退するつもりだったユーミンの、ターニングポイントとなったアルバムだ。
「エリザベス女王が亡くなった2022年だったはずよ・・・ユーミンがデビュー50周年を迎えたのは」
みんなが再度おおという声を挙げた。
エリザベス女王がご存命で迎えられなかったふたつの50。1975年、彼女が日本で見た”14石”の美しさ。
プレゼンターに山本美月を起用したJRAは、それを我々に伝えたかったのだろうか。
■ プラチナ・ジュビリー
2025年11月12日(水)午後8時半
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-
一夜明けた、バータイムのカフェ・ド・イーグル。カウンターには、今日も常連客たちが揃っていた。
ミスターがポンポンと二度手を叩いた。
「さあ、昨日多希子さんから得られた知見をもとに、今年仕掛けられていそうなシナリオ読みをまとめてみましょう」
「2022年・・・」
イカ社長がいった。
「JRAは即位70周年を記念して、エリザベス女王にふたつの記念競走を準備していた」
・エリザベス女王即位70年記念
第39回エプソムカップ(GIII)
(第3回東京競馬第4日 第11競走 6月12日[日])
・エリザベス女王即位70年記念
ジャパン・オータムインターナショナル
第47回エリザベス女王杯(GI)
(第5回阪神競馬第4日 11月13日[日])
→エリザベス女王Ⅱ世崩御により副題付与取りやめ
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貫一郎が続く。
「70の記念競走がふたつ・・・エプソムカップこそ無事実施も、エリザベス女王杯は副題が取り下げられた・・・70と70・・・7と7で14・・・」
ミスターが頷いていった。
「1975年に来日したエリザベス女王が、イギリスに持ち帰りたいとまで賞賛したとされる龍安寺の15個の石・・・見た目には14個に見える・・・エリザベス女王が崩御された2022年の菊花賞、アスクビクターモアには14番ゲートが与えられた」
聖子ママが続く。
「副題取り下げのエリザベス女王杯は、哀悼の黒枠ではなく、最期を意味する大外18番ゲートのジェラルディーナ・・・」
聖子ママから視線を受けた、ケチャ子があとを引き継ぐ。
「ジェラルディーナの母は、三冠ゲートのうちふたつが14番である同じサンデーのジェンティルドンナだったわね」
再び貫一郎が続く。
「その翌年、2023年、やはりサンデーのリバティアイランドが、合計14となる3番、5番、6番で三冠達成・・・その3、5、6は今週の3重賞の十の位」
「2022年のプラチナジュビリー競走は、女王が愛した不完全なる14という数字を体現すべく不完全なものとなった・・・ですね・・・そして・・・」
ケチャ子が声を絞り出した。
「14という数字を引き継いだアスクビクターモアとリバティアイランドは、血を後世に残すことなく星となった・・・これって本当に」
「それ以上はよしねえ!」
ピシャリとケチャ子をさえぎったのはイカ社長だった。
「いわんとすることはわかるぜ、ケチャ子。競馬の神さまはいるんだよ、善しにつけ悪しきにつけな・・・」
店内をしばらくの間、暗い沈黙が支配した。
15個の石で有名な石庭がある京都の龍安寺には、吾唯足知・・・われただ足ることを知るという意味の文字が彫られた蹲(つくばい)がある。
「吾唯足知」とは、「知足のものは貧しといえども富めり、不知足のものは富めりといえども貧し」という禅の教えを図案化したものだ。
不完全さを示唆するという14個に見える石庭と、蹲に掘られた「吾唯足知」。目に見えない物、手にしていない物にこそ真実があるという教えは、カフェドイメンバーの心を揺さぶった。
■ 14歳の母
2025年11月13日(木)午後7時40分
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-
一夜明けた、バータイムのカフェ・ド・イーグル。
全員が揃ったのを見計らって、貫一郎が新しい14をみんなに披露した。今年の夏、札幌に14があったという。
「14という数字をあらためて調べてみたら、今年の夏、札幌に来ていた志田未来がヒットしたんです」
みんなが貫一郎に視線を送った。
「彼女がブレイクしたのは、ドラマ『14歳の母』でした。そして、今年札幌でプレゼンターを務めたのがワールドオールスタージョッキーズ。14個の星・・・」
みんなが貫一郎の次の言葉を待った。まだ話がみえない。
■ 地上の星
「明石散人(あかし さんじん)という人が書いた、『龍安寺石庭の謎』という本があります。龍安寺の石庭の石は、真上からみるとMの字に見える。これはカシオペアじゃないかという大胆な仮説です」


みんながおおという声を挙げた。
カシオペアといえば、日曜の検討会でゴジュウジャーからのゴレンジャーで出てきた名前だ。貫一郎が続ける。
「つまり、15個の石は星座を地上に持ってきたもの・・・・スペースガーデンだというんですね」
「地上の星座!」
ミスターがポンと手を叩いた。
「昨日の多希子さんのコレクションにあった、皐月賞馬ジオグリフ。馬名意味は地上絵だったはずです」
貫一郎が大きく顎を引き、他の3人がおおという声を挙げた。
振り返ると、先週取り上げた麻雀のMリーグも布石だったのではないだろうか。MまたはWといわれるカシオペア座だし、麻雀はあがるときの牌数が14である。
■ 16頭立て
「さてと、2頭回避で16頭立てになったぜ。ミスター、どうまとめりゃあいいんだい?」
「14という数字ばかり取り上げてきましたが・・・」
ミスターがいった。
「16頭にした意味を考えるなら、逆14にあたる3番のほうかもしれませんね」
「黒枠の3番?」
ケチャ子の問いにミスターが頷く。
「そうです。16頭立てなら、正逆3番であり、正逆14番でもある。長嶋茂雄と沢村栄治というわけです」
第50回 エリザベス女王杯 16頭
2-03(正3・逆14)
7-14(逆3・正14)
3番長嶋茂雄=14番沢村栄治
みんながなるほどと声を挙げた。
■ フォートナイト
「やっほー、今日も来たわよ」
みんなが声をするほうを振り返ると、ドアから入ってきたのは多希子だった。父が吸痰にすっかりと慣れて、今日は母の容態も落ち着いているので一杯飲みに来たという。
かなりの酒豪であるケチャ子が驚くほどの飲みっぷりで、生ビールをあっという間に半分にした多希子がいった。
「ねえねえ、サイン競馬ってやつはどこまで話が進んだの?」
興味津々といった表情の多希子に、ケチャ子と貫一郎が、日曜からの流れをまとめて説明してあげた。
カフェ・ド・イーグル
エリザベス女王杯 注目ゲート・注目馬
注目ゲート
正逆3=正逆14
注目馬
レガレイラ(サンデー)
リンクスティップ(サンデー)
オーロラエックス(前走:カシオペアS 1着)
「なーるほど、面白いわね!」
多希子は手を叩いて喜んだ。
「多希子さん・・・」
ターキーでいいわよといわれ、やや照れながらイカ社長が訊いた。
「じゃあターキー、この中ならどの馬を選ぶかい?」
「そうねえ・・・」
多希子は腕を組んでしばし天井を仰ぎ見た。
「地上絵からのオーロラエックスって馬名もいいんだけど、私ならサンデーの2頭を買うかな・・・あ、馬連を買うならってことね。あたしはどうせ14番の単勝だから」
そういって多希子は豪快に笑った。
「サンデー丼ですか・・」
貫一郎がいった。多希子が顎を引く。
「そう。実はね、英語に二週間・・・つまり14日を意味する『フォートナイト(fortnight)』って単語があるの。カレンダーを14日で区切れば、必ず日曜日がふたつ入ってるでしょ? ふたつのサンデーってわけ」
こりゃあいいやとみんなが拍手し、カフェ・ド・イーグルの注目ゲートと注目馬が決まった。
カフェ・ド・イーグル
エリザベス女王杯 注目ゲート・注目馬
注目ゲート
正逆3=正逆14
注目馬
◎レガレイラ(サンデー)
〇リンクスティップ(サンデー)
▲オーロラエックス(前走:カシオペアS 1着)
暫定勝負馬券
サンデー丼(2週間=14日)
トップ画像引用:funjapo
