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「昭和の工場物語」夏の現場の涼しい話

祭りだ祭りだ怪談だ。

町内の夏祭り


真顔はおかしい時がある

ひぐらし

九州地方でひぐらしの声を聴くには、標高の高い山地や山沿いまで行かないと聴けない。

バスは大きく左に曲がりコースを変えた。
両側に木々が迫り、バスは七曲りの道を左右に揺れながら下り始める。
東西に流れる本流に北から流れ込む支流がぶつかる三俣の東側の角地に、蒸気を噴き上げる堂々とした温泉旅館の屋根が見えた。
谷底の駐車場に着きバスから降りると、硫黄の匂いが鼻にまとわりつく。
目の前には2階建ての木造建築が重なり、木枠の窓が三方に広がり、奥の屋根からは大量に吹き出す水蒸気が谷の上まで伸びている。

髪の毛を後ろに縛った女将と部屋に入ると、南側の大きな窓枠いっぱいに森が見えた。
案内を終えて女将が出ていくと、窓を開けて顔を出し、下を見ると渓流があり、上流の方はごたごたと大きな角のない石が積まれ、その間を大量の清流が滝のように流れている。
ジャージャーという渓流の音に混じって子供の声がする方を、乗り出して見るとプールサイドのコンクリートが見えた。

部屋を飛び出して旅館からプールサイドに続く石段を歩いていると、ひんやりとした空気と渓流の音に混じって、初めて聴く「カナカナカナ、カナカナカナ」と木々が鳴くようにしんみりとした声が聴こえた。

冷たいプールから出て乾いたコンクリート上に仰向けになって、狭い空をゆったりと流れる雲を見ていると、コンクリートの熱が背中に行き渡り、硬くなった体が緩んでいく。
唇の震えが止まり、両側に迫った森から、さっきの鳴き声が「カナカナカナ、カナカナカナ」と鮮明に聴こえてきた。
少ししてどろりと耳から水が抜けると、渓流の音や子供の叫び声が聞こえてきたので、起き上がり対岸の山や森、渓流の中に目を凝らした。

温泉旅館を出て帰り道のバスの中で、母親にその鳴き声のことを尋ねると、
「なんだろかね」と首をかしげた。
すぐにバスが七曲りの坂道のカーブに差し掛かって揺れたので、そのままになった。

伊豆甘夏納豆売り 高中正義


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