生成AIでワンピを超える大ヒット名作を生成できるか?

Q. 「生成AIでワンピース(あるいは進撃・鬼滅)を超える大ヒット名作を、生成できるか?」
A. 現状では極めて難しく、おそらく当面できない。


ただしこれは、「AIの性能が足りないから」とか、「やっぱり人間の創造性は偉大だから」みたいな話ではありません。

実はもっと単純な話で、AIへのオーダーの仕方……課題設計がかなりおかしいのです。

この問いは、よく出版・コンテンツ業界やクリエイターさんに聞かれることが多い質問です。ここでは、なぜAIでは難しいのかを大まかに解説します。

AIのポン出しが大ヒット名作を作れない理由は、主に2つあります。


1: 「作品を生成すること」と「名作を見つけること」は別の問題

生成AIに、「めちゃくちゃ面白い漫画のプロットを書いて」と頼めば、それっぽい作品は出てきます。今後、性能が上がっていくにつれ、どんどん面白い作品が作れるようになっていくことも期待できます。

でも、実はここで重要なのは、「傑作を作る能力と、傑作を見つける能力は別」だったりします。

作る能力だけじゃないんですね。見つける能力が大事。

仮にAIに100万本のストーリーを生成させたとして、その中に歴史的傑作が1本混ざっていたとします。では、その1本をどうやって見つければよいのでしょうか?

実は、こっちのほうが難しい作業です。

100万本全部を人間が読むわけにはいかないし、AIが人間と同じように「一番おもしろいものを見つけられるか?」というのも保証できません。

面白さは定性的で、人によって違い、時間軸によっても変化します。つまり、答えを一意に定義できない問いでNo.1を探させている。

もっと言うならば、「確率的に名作が生まれる可能性は微小ながらある」が、我々人類もAIも、無数の作品からその大当たりを確実に選別する手段を持っていません。

この「評価」のほうが、実は生成より難しいわけです。

人間の創作業界は、この問題に対して「数と時間による選別」を行って解決しています。

漫画なら、

ネームを作る

編集者が見る

直す

連載会議を通す

掲載する

読者アンケートを見る

生き残ったものを続ける

単行本になる

口コミが起きる

アニメ化される

さらに広い市場で評価される

という、「実環境での段階的な選抜」が発生します。

つまり、社会全体で生成と選抜を何段階も繰り返しているわけですね。

ヒットすればヒット作なので、そこに増刷やメディア展開の加速を上乗せすればいい」……という、ある意味かなり後出し的な手法です。

そして、この実環境での何重もの厳しい予選を通過した覇者が、ちいかわや鬼滅なわけです。

ここを無視して、AIにプロンプトを1回入れて、「ワンピースを超えてください」というのは、問題設定に根本的な誤りがあるわけです。

この命令に対してAIが行うのは、あくまで出力だけであって、それ以後の選別フローがまだ発生していないからです。

2: AIは単発生成、人類は無限生成

もうひとつは、比較対象の問題です。

「鬼滅」や「ドラゴンボール」や「ワンピース」は、「人間が普通に作れる作品」ではありません。

それらは、人類が何十年もコンテンツを作りまくった結果、生存競争を勝ち抜いたトップランカーです。

大量の漫画家の大量の企画が、多くの出版社に選別され、連載を生き残り、単行本売上で打ち切りを回避し、バズり、社会現象になり、メディアミックスに成功し……という巨大なサバイバルゲームが発生しています。

そういった熾烈な戦いの結果、生き残った頂点がドラゴンボールやワンピースです。

なので「ワンピースのような大ヒット作を作れるか?」という最初の問いがおかしい。

「人類が何千万回も試行錯誤した末に残った歴史的異常値」vs「生成AIがいま1回出した作品」で比較しようとしている。

これは、たとえば音楽なら、

「歴史上もっとも評価されたクラシック曲のひとつに、いまこの場で即興演奏した新曲で勝ってください」

と言っているようなものです。…無理。

つまり、勝てなくて当たり前なわけです。比較対象がおかしい。

しかもコンテンツのヒットは、作品の品質だけではなく、運や外部要因が大きく関わってきます。

発売された時代、競合作品、掲載媒体、マーケティング、口コミ、アニメ化、SNS、社会状況……みたいな、さまざまなサブ要素の掛け算です。

ドラゴンボール等は、作品として強いのは当然として、「そのうえで巨大なガチャを何段階も勝ち抜いた存在」なわけです。

いっぽう、「ChatGPTに今から一本シナリオを書かせます」というのは、これからガチャを1回回すところです。

世紀末覇者とデビュー前新人を比べているわけですね。この二つを並べて、「ほら、AIはドラゴンボールを作れない」と言っても、あまり意味がないわけです。

人間だって、「今ここで巨匠の漫画家を一人呼んできて、1時間でドラゴンボールを超える新作を書いてください」と言われたら、ほぼ無理なわけです。

そういう課題設計をしているので、そもそもが間違ったアプローチなわけです。ここに大金を投資すると危ない。

では、生成AIでヒット作・名作を作ることは不可能なのか?

ここまででわかるように、AIでの名作作成はできなくはないですが、そもそもの設計を変更する必要があります。

私たちは、「AIに傑作を一発生成させる」という前提を捨てなければなりません。

そうではなく、

生成AIを使って、人間のコンテンツ産業がやっている巨大な試行錯誤と選抜を、どこまで高速化・大規模化できるか

という問題になります。

つまり、AI生成物に対しても、人間の市場と同じような

生成 → 評価 → 選抜 → 改稿 → 市場投入 → 反応 → 再選抜

というループを回せる環境を作らないといけません。

AI作品で100万回、1000万回の試行錯誤を回せる環境を作るわけですね。

そして、その大量の候補から、「人間にとって本当に価値がある異常値」を見つけ出す仕組みを作る。

そこまでやって初めて、人類が何十年かけて作ってきたトップ層のドラゴンボール等と、同じ土俵で比較できる。

なので繰り返しですが、個人的には、「生成AIはワンピースを作れるのか?」という問いそのものが、あまり正しくないと思っています。


結局、AIが多少スマートになっても「作品の品質」はヒット作の構成要素にすぎず、試行錯誤の回数を大きく増やし、選抜を繰り返すことが重要になります。

それに加えて、現状は

  • AIの作った作品が名作かどうかを、再現性をもって評価する方法がない点

  • AIの作る100万コンテンツを評価する、スケーラブルな仕組みがない点

  • AIの作った名作も、結局はそのあとに「市場ガチャ」と戦わないといけない点

という壁がある感じです。

で、このあたりの問題が解決しなければ、「AIがワンピースを超えるヒット作を生み出す」というのは、まだ未来のお話になります。

とっぴんぱらりんのぷぅ。



追記
「AIでベストセラー作家に勝てるのか!?」も、似たような壁にぶつかります。

ベストセラー作家は、「数と時の試練に耐え抜いた」厳選されたサバイバーです。少なくとも、ベストセラーを生み出す確率を高める何らかのスキルセットや強みを持っていることが、数と時間によって実証されています。

一方で、生まれたばかりの「AI作家」は、まだ一打席も立っておらず、数と時の試練をクリアしていません。

「ベストセラー作家になりうるポテンシャル」を持ったAIは作れるかもしれません。しかし、「ベストセラー作家」であることを証明するには、結局のところ数と時の試練を突破しなければならない。そして、その試練は実力以外のファクターが無数に存在する、確率的なサバイバルになってしまいます。

なので、再現性をもってベストセラーを生み出せるAI作家を作り、その能力まで実証することは、現状ではかなり難しいのではないかと思います。



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深津 貴之 (fladdict) いただいたサポートは、コロナでオフィスいけてないので、コロナあけにnoteチームにピザおごったり、サービス設計の参考書籍代にします。