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『侍タイムスリッパー』感想「そんなに面白い事はないだろうって思ったら超面白かった!」

今回の映画エッセイは自主製作映画でありながら日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞するという…とんでもない快挙を成し遂げた映画『侍タイムスリッパー』である。

『侍タイムスリッパー』は話題になったと思ったら、あれよあれよと人気が爆発していった映画である。

瞬間最大風速はかなりのものだったはず。

池袋にあるシネマ・ロサという映画館でひっそりと上映が開始された後、口コミで評判が広がり3ヶ月後にはなんと344の映画館で上映されている。

そんな快進撃を横目に見ながら、実はカッチンはかなり出遅れてこの作品を鑑賞している。

決して深い理由やこだわりがあったわけではない。

流行ると醒める天邪鬼的な良くない性格が顔を出していただけである。

さらに「自主製作映画でしょ?いくらなんでもそんなに面白いことはないでしょう」という思いも頭をもたげていた。

異例の大ヒットとなった『カメラを止めるな!』も、つまらなくはなかったもののカッチン的には「はて?そこまで面白いか…?」という印象だったのだ。

低予算であそこまでヒットしたのは本当にすごいとは思っている。

あの映画はなぜあそこまでヒットしたのだろうか?

もう1回観てみたら謎が解けるだろうか。

なんだかもらい事故みたいになってしまった。

『侍タイムスリッパー』に話を戻そう。

そんなこんなでなんとなく敬遠していたのだが、「さすがにここまで話題になった映画を観てないのはマズいだろう」という思いもあり、一念発起して観てみたのである。

鑑賞した結果だが…ビックリするぐらい面白かった。

侍が現代にタイムスリップしてくるというストーリーは結構ありそうな感じである。

しかし、ありがちな設定に『タイムスリップした先が時代劇の撮影所』という設定が加わったことで、冒頭から観客を惹きこむ強力な魅力を放っていた。

ありきたりなタイムスリップの展開は、目を覚ました瞬間に現代の街並みを見て「ええ!!」と驚愕するパターンであろう。

しかし『侍タイムスリッパー』は時代劇のセットの中で目を覚ますので、一応見慣れた風景なのである。

知らない場所ではあるものの、町並みは見慣れた風景という絶妙具合なのだ。

目覚めた時点ではそこまで驚かないという流れがとってもシュールでおかしかった。


山口馬木也さん演じる高坂は目を覚ました後、戸惑いながら徘徊しているところに時代劇ドラマの撮影に出くわす。

作り物の魚に驚いた挙句に、主役を助太刀しようと刀を抜いてしまうのだ。

「絶対刀抜くだろうな~」と思っていたら案の定抜いたわけなのだが、わかっていても妙に面白くて爆笑してしまった。

お笑い芸人がコントでやっていてもおかしくない設定である。

まさに掴みはOKという感じで、この時点で映画の世界にガッツリ惹きこまれてしまった。


もちろん素敵だったのは設定だけではない。

ストーリーも重厚で魅力的であった。

高坂は現代にタイムスリップしたことを自覚し、侍としての役割を果たせなかったショックで自分の人生を終わらせることを考える。

しかし周囲の人達との触れ合いの中で生きる希望を見つけ、さらにたまたま演じた斬られ役に生きがいを感じ、この仕事で生きていく事を決心する。

しかしかつて命を賭して闘った山形と再会したことで、侍としての自我が再び顔を出して葛藤する…。

冒頭で大いに笑わせてくれた後に、こんなロマン溢れるストーリーが展開するのだ。

夢中になってしまうに決まっているであろう。

しかし…

設定とストーリーが完璧だったとしても、作りがチャチかったりキャストのお芝居が微妙だとやっぱり厳しいものである。

自主映画や小劇場の舞台では、脚本は面白いのに作品全体としては微妙に感じてしまうなんてことがよくあるのだ。

『侍タイムスリッパー』は自主製作映画である。

かなり低予算で作られているにも関わらず、不思議なほど低予算という感じがしない作品であった。


あまりに低予算感を感じなかったので「意外と製作費があったのかな?」などと思い調べてみると…

『侍タイムスリッパー』が想像以上にとんでもない状況で撮影されていたことがわかったのである。

撮影はわずか10名ほどのスタッフで行われていて、安田監督は監督以外にも車両やパンフレットなど、結果的になんと12役もこなしていたんだとか。

その結果エンドロールがギャグみたいなことになっている。

しかも制作費のほとんどが、監督の貯金と愛車を売却したお金で賄われているらしい。

まさに背水の陣である。

さらにである。

助監督役で沙倉ゆうのさんという女優さんが出演しているのだが、この女優さんも制作費の一部を立て替えているんだとか。

この沙倉ゆうのさんは助監督役を凄くリアルに素敵に演じていたのだが、出番以外の時は普通に助監督として働いていたそうである。

そりゃリアルな助監督になるわけであろう。

沙倉ゆうのさんの作品への貢献はこれだけではない。

なんとお母さんも現場に登場し、刀などの小道具を管理していたそうである。

『侍タイムスリッパー』の裏側は「自主制作映画すぎるだろ!」とツッコみたくなるぐらいTHE・自主映画という感じだったのだ。

どう考えても超過酷な状況なのに、なぜ低予算映画にありがちなチャチさをまったく感じなかったのか…?、

誤解して欲しくないので補足しておくが、別に低予算でチャチい映画がダメと言ってるわけではない。

そういう映画が評価され、次の作品で製作費が一気に増えるなんてケースもたくさんあるであろう。

全然あっていいのである。

個人的にカッチンが低予算映画でおもしろいと感じた経験があんまりないというだけである。

「『侍タイムスリッパー』はなぜチャチさを感じなかったのか?」という話に戻そう。

実はこちらの映画、東映京都撮影所の協力のもと作られているのだ。


「なんだ!東映京都撮影所が協力してるなら低予算ってわけじゃないじゃん!」と思った人もいるであろう。

ちょっと違うのである。

この強大なバックアップは安田監督が自ら手繰り寄せたものなのだ。

東映京都撮影所は通常は自主制作映画に絶対に協力しないと言われているそうである。

そんな東映京都撮影所が脚本があまりに面白かったため、全面協力を申し出たという奇跡の経緯があるのだ。

相当惚れ込んだのであろう。

ロケセットや衣装やメイクなど、本当に全面的に協力しているのだ。

衣装をはじめ「安っぽいなぁ」と感じる箇所が全然なかったことも、『侍タイムスリッパー』が傑作になった要因のひとつであろう。

さらにカッチンはもうひとつ大きな要因があると思っている。

それは山口馬木也さんのキャスティングである。


主役の高坂新左衛門を山口馬木也さんが演じているのだが、高坂がこの人じゃなかったら『侍タイムスリッパー』はここまでの作品になっていなかったであろう。

ちょっと失礼で申し訳ないが、カッチンはこの映画の出演者の中で、しっかり顔と名前を知っていたのは山口馬木也さんだけであった。

映像でももちろん活躍されているが、舞台でも精力的に活動している印象である。

地に足のついた感じというか、地道に俳優をやられているイメージを勝手に持っていた。

そんな真っ直ぐなイメージの山口馬木也さんが信念を持った侍・高坂を演じたのは、カッチン的には怖いぐらいピッタリだったのだ。

映画を観終わった後に、山口馬木也さん以外の俳優が高坂を演じている姿が全く想像できないほどピッタリであった。

ちょっと失礼に聞こえてしまうかもしれないが、山口馬木也さんの知名度もちょうど良かったのだ。

いくらなんでも顔を見たことも名前を聞いたこともない俳優が主役だったら、それはさすがに厳しい…。

すごく演技の上手い俳優が演じていたとしても、観るまでのハードルが高くなってしまう。

「じゃあ逆に主演にものすごく有名な人をキャスティングすればいいのか?」というとそういう事でもない。

そうなると周りのキャストとのバランスが悪くなってしまう。

そう考えると山口馬木也さんは、これ以上ないぐらい絶妙なのだ。

低予算感の払拭という意味でも山口馬木也さんの存在は大きい。

純朴でまっすぐで不器用な高坂を、さすがの演技力で見事にリアルに演じて楽しませてくれたのである。

さらに、この山口馬木也さんを取り囲む俳優陣もびっくりするぐらい素敵だったのである。


『侍タイムスリッパー』は主役の山口馬木也さんを取り囲む俳優陣にも、心から拍手を送りたくなる作品であった。

高坂と同じく現代にタイムスリップしてきた因縁の長州藩士・山形、後の風見恭一郎を演じた冨家ノリマサさんは、さすがベテランといった感じで役柄のポジション同様に作品にドッシリと安定感をもたらしていた。

高坂と一緒に斬られ役を演じてる俳優たちや、劇中の映画のスタッフ役たちなど、あらゆる出演者の演技が本当に素晴らしかった。

失礼で申し訳ないが、正直カッチンは初めて見るであろう知らない俳優さんたちばかりであった。

こういった場合は「まずいな…」と感じてしまう演技の役者さんがいるもんなのだが、この映画は「お前どうしちゃったんだよ?」と思う俳優が全然いなかったのだ。

皆さんすごく演技がうまくて個性があり、しかも終始見やすい演技をしてくれていたのだ。

いい意味で皆さんすごくライトなお芝居をされていて、「なんとか爪痕を…」といったようなエゴを感じる俳優が皆無であった。

「なんでこの人たちはもっと世に出てないんだろう?」と思ったほどに、皆さん本当にお芝居が面白くて魅力的であった。

俳優の演技は演出も大きく関わってくるので、安田監督の演出もきっと素晴らしかったのであろう。

どういう経緯でキャスティングされたのかはわからないが、すでに監督と信頼関係を築いている役者さんが集結してる印象も受けた。

皆さんオーディションだったのだろうか?

出演者全員の演技のクオリティが高かったことも、低予算感を感じさせない理由の1つであった。

スタッフだけじゃなく俳優たちからも作品への愛が感じられて、ロマンを感じずにいられない映画であった。

カッチンは山口馬木也さん演じる高坂の同僚になる斬られ役の面々が特に好きである。

※Amazonのアソシエイトとして[カッチンの映画で喋らないと。]は適格販売により収入を得ています。


低予算な自主製作映画でありながら日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞する快挙を成し遂げた『侍タイムスリッパー』。

いざ観てみたらやはり最高に面白く、感動を与えてくれる文句なしの傑作であった。

監督を始めとしたスタッフ、そして出演者の方々の作品への愛と執念が垣間見える作品だったのだが、それだけじゃなく、邦画の大きな可能性を見せた作品でもあった。

俳優ありきでヒットするかどうかが決まりがちな日本映画界に、見事に一石を投じたのではないかとカッチンは思う。

だいぶ鑑賞するのが遅れてしまったのだが、「見逃さないで良かった」と心から思っている。

危ないところだった。

とても話題になった映画なので観ている人がほとんどだと思うが、もしもまだ観ていない人がいたら是非観て観てみてほしい。

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