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リバイブ・クエスト|プロローグⅢ

「一棟目」

展示場が、建った。

工事監理をして、工程を管理して、引き渡した。

誰かに頼んだわけではない。一人でやった。

事務所に戻って、打合せ室を見た。

サンプルカタログが、きれいに並んでいた。

準備は、できている。

商人

見習い戦士の中に、一人だけ毛色の違う男がいた。

商人(40代)。元居酒屋店長。

建築のことは、何も知らなかった。
でも、人間のことは、誰より知っていた。
笑顔が自然だった。話を聞くのが、上手かった。

ある日、勇者は声をかけた。

「役所調査、一緒に行きましょう」

商人は素直に頷いた。

役所を、順番に回った。

用途地域を確認した。
道路の種別を調べた。
水道の引き込みを確認した。

最後に、建築指導課に入った。

「他に、申請が必要なものはありますか」

担当者が、丁寧に答えてくれた。

商人は黙ってメモを取っていた。

帰り道、商人が言った。

「こんなに調べることがあるんですね」

「これが全部、家を建てる前に必要なことです」

商人は、メモを見返した。真剣な顔をしていた。

この人は、売れる。

一棟目

数週間後、商人がデスクに来た。

「知人が、家を建てたいと言っています」

顔を上げた。

「ぜひ、会いたい」

施主は、商人の知人だった。

打合せ室に通した。
サンプルカタログが並んでいる。
何度も模様替えをした部屋だ。

落ち着いた雰囲気の夫婦だった。

商人が、まず話を聞いた。

どんな家に住みたいか。
家族の夢は何か。
子供たちに、どんな場所を作ってあげたいか。

居酒屋店長だった男は、図面より先に、夢を聞いた。

それは、わたしには教えられないことだった。

プランを提案した。仕様を説明した。

話がスムーズに進んだ。
打合せのたびに、前に進んだ。
迷わなかった。戻らなかった。

こういう施主は、いい家が建つ。

積算を出した。利益が、しっかり出た。

神の道具壱 エクセル日輪刀を見た。
原価の内訳を、もう一度確認した。

利益の中に、少し余裕があった。

あれを、復活させよう。

施主が予算の都合で、泣く泣く諦めた仕様があった。

その仕様を静かに戻した。

誰にも言わなかった。
見積書には、出さなかった。

引き渡しの日まで、黙っていることにした。

サプライズは、施主のためのものだ。

契約書にサインをもらった。

一棟目だった。

事務所に戻って、エクセル日輪刀を開いた。
工程表に、初めて現場の名前を入れた。
ブラインドタッチで、日付を打ち込んだ。

ようやく、始まる。

商人が、隣で照れくさそうに笑っていた。



辞令

その三日後だった。

本社から、電話が来た。

「異動の辞令が出ました。来月から、別の支店に赴任してください」

勇者は、少し間を置いた。

「……わかりました」

電話を切った。

工程表を見た。一棟目の現場名が、画面に表示されていた。

着工前だった。

自分描いた家を、自分では建てられない。

踊り娘が、気づいた。

「課長、どうしたんですか」

「異動になった」

踊り娘は、少し黙った。

「……え」

それから、少し大げさに眉を上げた。

「パチンコ、誰と行けばいいんですか」

笑った。

「彼女と行け」


「彼女さん、強すぎて怖いんですよ」



去り際

最終日。

施主への引き渡しまでの工程を丁寧に整理した。
段取りを全部書き出した。注意事項を全部まとめた。
引き継ぎする田貫課長が問題なくできるように。

サプライズの仕様は、メモに残さなかった。
引き渡しの日まで、誰も知らないままにした。

打合せ室を、もう一度見た。

サンプルカタログが、きれいに並んでいた。

展示場は、建っていた。

商人は、今日も外に出ていた。

踊り娘が、コーヒーを持ってきた。

「また模様替えしますか」

勇者は笑った。

「もう、しなくていい」

事務所を出た。
駐車場で、一度だけ振り返った。

展示場が、夕陽に照らされていた。

ここに来た時、何もなかった。

登録をした。
許可を取った。
展示場を建てた。
商人と役所を回った。
模様替えをした。
パチンコで負けた。
彼女だけが勝った。

そして、一棟目の契約。
打合せをしプランを描き、
仕様を決めた。

また別の場所へ召喚される。



その後

商人は、その後も売れ続けた。

見習い戦士たちも、少しずつ売れるようになった。

踊り娘は、今日も事務所にいる。

一棟目の施主は、引き渡しの日に気づいた。

諦めていた仕様が、戻っていたことに。

その場に、わたしはいなかった。

誰が戻したのか、施主は知らなかった。

田貫課長は、何も言わなかった。

知らなかったのかもしれない。

いつも去り際に花を植えていく。

誰も知らない仕事だった。

だから、完璧だった。

あの春が、人生で一番よかったと、後になって気づいた。



本編へつづく


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700棟|現場監督|一級建築士|ぱにがれ 現場は、正解が見えにくい判断の連続です。 この記録が、どこかの現場で 「一度立ち止まる材料」になれば幸いです。 応援としてチップをいただけると、続ける力になります。