二次流通3.3兆円の闇――みんなだいすき「アーカイブ経済」のカラクリ
フォレスト出版編集部の寺崎です。
最近、密かに孤独にハマってることがあります。
それは、ドメスティックブランド(日本の洋服ブランド)のアーカイブ漁りです。具体的にはヨウジヤマモト、コムデギャルソンなどが中心ですが、要は過去に販売された服の古着。ヨウジ、ギャルソンは日本を代表するブランドなだけに国内には一定規模の二次流通マーケットがあり、マニアが喜ぶ専門ショップが首都圏にはちらほらあります。
で、ふと思ったことがあります。過去のアーカイブを掘る行為は、たぶんこりゃ死ぬまで楽しめるな、と。ブランド服に限らず、デニムでも、レコードでも、スニーカーでも、トレーディングカードでもなんでも。
理由は単純です。たとえば洋服の場合、今シーズンの新作も、数年経てば「アーカイブ」になります。来年も再来年も新しい一着が生まれ、時間に押し流されて過去になっていく。だから掘るべき地層は永遠に増え続け、掘り尽くすということが原理的に起こりません(「リーバイスの戦前モデル」みたいのはまた話が別です)。
これは服に限った話ではなく、書籍も同じです。今月の新刊も、いつか必ず既刊になり、絶版になり、古書になります。
ところが、ここに一つだけ腑に落ちない非対称性に気づきました。
掘る側(=消費者)は一生楽しめるのに、それを作った側(=生産者)は、最初の一回しか儲からない。
今日は、その非対称をめぐる真相を掘ってみました。
二次流通マーケットはガチで儲かってた
まず、「事実」から確認します。
中古品の市場、いわゆる二次流通(リユース)は、大方の予想のとおり確実に儲かっています。リユース経済新聞の推計によれば、国内のリユース市場は2024年で約3.3兆円。前年比4.5%増で、2009年以降、15年連続で拡大しています。衣料・服飾品とブランド品を合わせた「リユースファッション」は、初めて1兆円を超えました。
その象徴がセカンドストリートです。2025年4月に国内外で1000店舗を突破し、衣料・服飾では国内シェアトップに躍り出ました。親会社ゲオはレンタルビデオからリユースへ軸足を移し、リユース系の売上は年間約1900億円と10年で約6倍、いまや売上1兆円企業を狙っているとのこと。
象徴的なのは海外における特殊事情。国内の客単価が約4000円なのに対し米国では約1万円で、コムデギャルソンやイッセイミヤケは日本の数倍で売れるそうです。日本に積もったアーカイブが、海を越えて高値で取引されている。
そして、出版業界の関係者にとって最も皮肉な象徴が、「本を売るならブックオフ」のブックオフです。
2025年5月期に13期ぶりの経常最高益(売上1192億円)を達成しましたが、その立役者は古本ではありませんでした。売れたのはポケモンカードなどのトレカ・ホビーとアパレルで、いずれも構成比2割以上に拡大しています。古本の王者ですら、もう本そのものでは儲かっていない。
ただし、ここ重大な事実を改めてお伝えします。
この国内のリユース市場の売上3.3兆円のうち、それを最初に作ったブランドや出版社、そして書き手に渡る額は、ほぼゼロ。
書籍でいえば「消尽」という著作権法の原則があり、一度売られた一冊がその後どれだけ古書として転売されようと、著者にも出版社にも一円も入らない。そういうことになってるようです。
「資産価値のあるアーカイブ」は増え続け、二次流通は太り続けているのに、作り手はその果実から構造的に締め出されている。そんな状況を生んでいます。
明暗を分けた「スニーカー」と「デニム」
価値の決まり方を、ここ数年で最も鮮やかに示したのが、スニーカーとビンテージデニムの明暗です。
みなさんもご存じの通り、かつてはスニーカーの人気がすごく、破格のプレミアがついたり、ナイキの新作を購入するには抽選に並ばないといけない世界でした。
ところがいまはどうでしょうか。「ナイキ離れ」なんてワードが生まれ、店内が客でごった返してるのは外国人に人気のオニツカタイガーぐらい…という感じです(=あくまでも個人的な印象です)。
ここで、スニーカーブームを牽引したatmos創設者・本明秀文氏の分析が秀逸でした。スニーカーのような投資的商品は金融緩和の金余りで高騰し、金利の引き上げとともに暴落した、と。
一方で、同じ投資的商品でもヴィンテージデニムやロレックスの下落はずっと緩やかなようです。その理由なぜか?
デニムはかつて大量生産されたものの、そのほとんどが日常で穿き潰され、いま現存する個体はごくわずか。だから、欲しい人間は大金を払ってでも奪い合う。つまり、希少性は、供給の有限性からしか生まれない。 スニーカーはメーカーが供給を増やせたから崩れ、デニムはもう誰も増やせないから残ったという点がスニーカーとデニムの決定的な違いです。
ここで書籍に振り返ると、痛烈な逆説が立ち上がります。
本は、重版できる。つまり作り手が、いつでも供給を増やせてしまう。希少性という一点だけで言えば、書籍は構造的にデニムよりもスニーカー側にいるんです。
音楽だけが、旧譜を「打ち出の小槌」に変えた
では、供給を増やせないはずのアーカイブを、まんまと打ち出の小槌に変えた業界はないのか、探してみました。
ありました。音楽です。
しかも、2つの巧妙な手口で。
手口①「再発」で売る
中古レコードは誰かが転売しても権利者には1円も入りませんが、旧譜を「公式の新譜」として刷り直せば話は別です。
象徴的なのが、解散したバンドの初アナログ化。Billboard JAPANによれば、2000年に解散したBLANKEY JET CITYの全6作が2025年に初アナログ化され、同年上半期のアナログ売上アーティスト別で約9900万円を稼いで1位を飾っています(3人で山分けか!)。
市場全体でも、アナログレコードの生産額は2024年に約79億円と、70億円超えは1989年以来35年ぶりの水準まで戻っています。
恐ろしいのは、解散したバンドこそが最強の在庫になること。もう二度と新録できない=カタログが確定的に有限だから、デニムと同じ理屈で値が崩れない。リアルタイムでライブを観られなかった世代が、後追いでレコード盤を掘り、所有する。再発とは、その「後追いの欲望」をまるごと一次流通に取り戻す装置といえます。
手口②カタログそのものを資産化する
有名な事例では、ボブ・ディランが自作600超の全楽曲の出版権を、推定3億ドル超でユニバーサルに売却しています。ストリーミングの権利収益は将来的な予測が立つため、旧譜は安定配当を生む金融資産として高値で売買されているというわけです。
ただし、音楽出版権を売ってもボブ・ディラン自身は歌い続けられる一方、マンガやゲームのような分野では権利を譲渡したら自分では使うことすらできなくなります。
では、出版社が売るべきものは何か?
さて、ここでふたたび出版の世界に立ち返ってみます。
「出版社は二次流通で儲けられないか?」
「中古本以外の何を売るべきか?」
まず、中古本市場に正面から参入するのは、筋が悪い。先にお伝えした著作権法の縛りで1円も入らない土俵に、わざわざ上がる理由がありません。
一方、音楽の世界では、旧作を「新品」として刷り直したり、カタログをIP資産として運用したり、アーカイブからの利益を取り戻しています。同じように出版の世界でも、新装版・復刻や、映像化・電子・サブスクといった道はあるはずです。
ただ、それ以上に大きいのは、本そのものではなく、その1冊に付け足せる価値の部分かもしれません。真贋や状態の鑑定・保証、そして「この本をどう読むか」という文脈づけ。モノではなく、モノに添える信用と意味に、人はお金を払います。
しかも、いまそこに追い風が吹いています。二次流通を長く牽引してきたのは「誰でも売り買いできる」フリマアプリ(メルカリなど)でしたが、その伸びはここにきて鈍化しているそうです。逆に伸びている主役が鑑定や保証を備えた事業者です。セカンドストリートやブックオフが伸びているのも、まさにこの流れの中にあります。
つまり市場は、モノそのものよりも「目利き」のほうに対価を払い始めている。そして目利きとは、本の良し悪しを見極め、文脈を与える仕事——編集者が昔からやってきたことそのものではないか!と。
人はなぜ「古いもの」に価値を見出してお金を払うのか?
最後に、この問いです。
そもそも、なぜ人は「古いもの」にお金を払うのか?
この動画、先日たまたま見つけたのですが、スタイリストの熊谷隆志さんの葉山の自宅を紹介していて、ビンテージの素敵なモノに囲まれた暮らしぶりが圧巻レベルでした。
「古い優れたものは現代人の暮らしを豊かにする」ということをビンビンに感じました。でも、これってなんなんでしょう。
ひとつ考えられる理由は・・・新品はどんなデザインでも複製できるが、時間だけは複製できない。 古いものの形を寸分たがわず再現できても、「数十年、数百年を生き延びた」という事実は注げません。1着の古着、1枚の中古レコード、1脚の古い椅子、1冊の古書を持つことは、自分の短い人生に、それより長い時間を借りてくることに近い。だから古いものは、暮らしを豊かにする。
でも、そう考えると困った結論に至ります。作り手が二次流通で儲けられない根っこの理由がこれだからです——その価値は、売った時点では、まだこの世に存在していなかった。
うーん、困った。アーカイブを掘る楽しみは、死ぬまで途切れない。しかし、問題は、その楽しみの対価を、作り手がどう取り戻すか。
どうしたらいいか、誰か教えてください。笑
【音声解説はこちら】
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