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酒は化ける ――その温度で

羽田酒造
初日の出 純米大吟醸 無濾過生原酒

デパートの日本酒売り場で、羽田酒造がポップアップを出していた。
正直に言えば、お目当ては別の蔵だったのだが、馴染みの薄い蔵ほど気になるのが酒飲みの性分だ。

「寿司屋が出荷を待つ一本です」
生の魚に合わせるならこれ。蔵人が賄いで飲むならこれ。

それなら間違いなかろう。

支払いを済ませ、デパートを出ようとしたところで、ふと足が止まった。

――温度を聞いていない。

刺身ならこれ、とまで言われて、温度を確認せずには帰れない。
売り場に戻った。

スタッフは、待ってましたと言わんばかりに言う。

「キンキンより、少し戻してください。冷蔵庫から出して5分から10分。」

この一言が、後で効く。


まずはキンキンで

開栓。冷蔵庫から出してすぐ、5〜6度。

清潔感のある穏やかな吟醸香。
強くはないが存在感のある苦味。酸は控えめ。
シャープで、喉に引っかからない。

きれいで、すんなり飲める。
美味い。

だが、刺身に“最高”かと言われると、やや大人しい。
悪くはない。だが、まだ何かが閉じている。


10分後

塩締めにした赤身を切り、皿に盛り、包丁を拭き、まな板を洗う。
その間に、酒は静かに温度を上げていく。

二杯目。

あ!!!

これか。。。

香りの輪郭はそのままに、奥から旨みが滲み出る。
濃いが荒くない。優しいが薄くない。
無濾過生原酒らしい立体感と複雑味が顔を出す。

温度は15度弱。
ここが、この酒の芯だ。

一緒に飲んでいた妻が自信満々に言う。

「美味しいわね。これ、山田錦でしょ?」

確かに、この丸みと厚み。そう思わせる旨みがある。

「いや、五百万石だよ」

自分で答えながら、少し驚く。

五百万石といえば、旨みよりシャープネス。そんな印象が通り相場。
だがこの酒は、米の輪郭を残しながら、きちんと厚みを出している。

温度と造りで、ここまで表情が変わる。

刺身の持つ生の匂いと、16度のアルコールがきれいに重なる。
洗うのではなく、受け止めて、引き立てる。

あのとき売り場に戻ってよかった。
あの一言がなければ、この酒の本当の顔は見えなかったかもしれない。


相性

生姜より、わさび。
なめろうのように手を入れた料理より、素材のまま。

赤身、帆立、ブリ、甘エビ。

常温ではやや開きすぎる。
花冷えでは硬い。

涼冷え。
この温度で、この酒は完成する。


まとめ

冷やしすぎないこと。
たったそれだけで、評価が一段変わる酒だ。

評点:8/10

――裏技
鯖のへしこのお茶漬け。
試してはいないが、間違いない、自信ある。
次は、それでいく。

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