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ADHD新1年生が、初めて数字を書いた日──焦らず、ほめて、少しずつ

《読み始める前に》

学習ドリル
「要らない」
「ぼく、もうやめる」
「わかんない!」

新1年生のB男さんに、初めて学習ドリルを見せたときの言葉です。

じっと座っていることや、周りのペースに合わせることが難しいB男さん。無理に机へ向かわせるのではなく、まずは本人が興味を持った迷路から始めてみました。

焦らず、子どものペースに合わせながら、少しずつ学習へ導いていく。その積み重ねの先に、B男さんが初めて数字を書いた瞬間がありました。

パパの子育て奮戦記:発達凸凹編第3号 「あったかい家族日記」第180号

初めての学習ドリルとの出会い

新1年生のB男さんは、ADHDという発達特性をもっています。

3分、もしかすると1分も、じっと落ち着いていることが難しく、周りのペースに合わせて行動することがとても苦手です。

それでも、入学してから少しずつ、学校生活──特別支援学級での生活に慣れてきました。

そこで私は、初めて学習ドリルを使い、「ひらがなと数字」の指導を始めることにしました。

その日の朝学習では、「ひらがなとすうじのおけいこ」という、文字どおり、ひらがなと数字を練習する教材をB男さんに見せることにしていました。

この時間、ほかの二人の子どもたちは、それぞれの学年の教室で過ごしています。B男さんと私、二人きりの時間です。

私は、さりげなく教材の表紙を見せながら話しかけました。

私「きれいな絵だよね。ほかの1年生の男の子が、『これ、ほしい』と言うんだけど、『これはB男さんのものだからだめ。B男さんが要らないと言ったら、あげるね』と答えたんだ。B男さん、これ要る? 使ってみる?」

B男さんは、ほとんど教材を見ることもなく答えました。

B男「要らない」

私「そうか。じゃあ、Aさんにあげてこよう。B男さん、要らないって。きっと喜ぶぞ!」

そう言いながら、私は腰を浮かせて、教室を出ていこうとしました。

すると、B男さんが言いました。

B男「待って! やっぱり要る」

そして、教材を手に取ろうとしました。

私「そうなの? 要るの? これ、きれいな絵だよね」

私は、B男さんと一緒に表紙を眺めました。

まずは、B男さんが見つけた迷路から

B男さんは、教材をパラパラとめくり始めました。

そして、裏表紙にある迷路を発見しました。

B男「これ、やる!」

そう言って、さっそく迷路を始めました。

私「あっ、迷路だ。おもしろそう」

ここで焦ってはいけません。

まずは相手のペースに合わせること。B男さんが興味を持ったものを、一緒に楽しむことから始めます。

私は、B男さんと一緒に迷路を楽しみました。

迷路が終わったところで、私は言いました。

私「おもしろかったね。今度は、反対のページにある数字の『1』を書いてみようか」

相手のペースに合わせたあとは、少しずつこちらのペースへ導いていきます。

B男さんは、思わずというか、ついうっかりというか、

B男「うん」

と答え、なぞり線に沿って、数字の「1」を書き始めました。

私の心の中では、

(しめしめ。うまくいったぞ)

という気持ちでした。

私「うーん、上手に書けたね」

B男さんは、5回ほど数字の「1」を書きました。

しかし、すぐに飽きたのでしょう。

B男「ぼく、もうやめる」

私は一瞬、

(えっ、もう?)

と思いました。

けれど、B男さんには、頻繁に反応を返すことが大切です。

私は「やめる」という言葉が聞こえなかったふりをして、B男さんが書いた数字に丸をつけていきました。

私「おお、すごい。この『1』も上手。あっ、この『1』も上手」

もちろん、ここでいう「上手」は、B男さんにとっての「上手」です。

すると、面倒くさそうだったB男さんの表情が、少しずつうれしそうな表情に変わりました。

そして、また数字の「1」を書き始めたのです。

「もうやめる」を受け止めながら、あと一歩

私は丸をつけ、ほめながら尋ねました。

私「今度は、この丸を一つだけ塗れるかな?」

B男「ぼく、やめた! わかんない!」

私「うん。ここを一つだけ塗ればいいんだよ」

私は、赤鉛筆で少しだけ塗って見せ、それからB男さんに赤鉛筆を渡しました。

B男さんは、その続きを赤鉛筆で塗りました。

私「おー、すごい! 全部できた。花丸だね」

私は大いにほめて、実際に大きな花丸を描きました。

そして、こう言いました。

私「お母さん、きっとびっくりするね。『B男さん、すごい!』って」

このあとも、ひらがなを書く前の段階として、いろいろな線を書く練習をしました。

こうしてB男さんは、10分余りにわたって、「ひらがなとすうじのおけいこ」に取り組むことができました。

最後に私は言いました。

私「じゃあ、これはB男さんの名前を、ちゃんと書いてあげるね」

そう言って、教材にB男さんの名前を書きました。

B男さんは、自分の名前が書かれた教材を、満足そうに見ていました。

わが子が数字を書いたことに驚いたお母さん

午後3時頃、お母さんがB男さんを迎えに来ました。

私は、「ひらがなとすうじのおけいこ」を見せながら、B男さんが初めて数字を書いたことを話しました。

そして、家でも少し大げさなくらいに、B男さんが数字のおけいこをしたことを喜んでほしいとお願いしました。

お母さんは驚いていました。

「家では、ひらがなや数字の練習なんて絶対にしないんです!」

そう言いながら、とてもうれしそうでした。

おそらく、入学前にも、ひらがなや数字を練習させようとしたことがあったのでしょう。

思えば、最初の2週間ほどは、私が毎日、連絡帳にB男さんの成長の様子を書いても、お母さんからの返事はなく、サインだけでした。

ところが先週の終わり頃から、送り迎えのときに話をしていると、お母さんに笑顔が見られるようになりました。

連絡帳にも、返事を書いてくださるようになりました。

そして今週の水曜日、初めて、

「先生のおかげで……」

と言ってくださいました。

うれしかったです。

お母さんは、

「やっぱり、私が言っても、なかなか言うことを聞かなくて……」

とも話していました。

子どもと保護者の笑顔が、教師の元気の源

私は朝7時50分頃、特別支援学級の子どもたちが登校してきてから、午後2時(週に1回の4時間授業の日の場合)、または3時頃に下校するまで、ほとんどずっと一緒に過ごしています。

2時間目と3時間目の間の比較的長い休み時間も、子どもたちと一緒です。昼休みも、ずっと一緒です。

その間、休憩はありません。

少しの間も、目を離すことが難しい子どもたちだからです。

教務室へ行くこともほとんどないため、当然、お茶やお菓子もありません。

職員朝会ですら出席せず、あとから内容を書いたメモを受け取っています。

このような生活が、もう1年以上続いています。

さすがに、子どもたちが帰る頃には、クタクタです。

思い返せば、昨年の1学期には、担任している子どもに毎日1時間ほど、15冊から30冊以上の絵本を読み聞かせていました。

今は2年生になったAくんが、読み聞かせが大好きで、とても楽しみにしていたからです。

一方で、わが子への読み聞かせは、普段の日には10分程度でした。

学校であまりにもたくさん読み聞かせをするため、家に帰る頃には喉が疲れてしまっていたのです。

そんな毎日の中で、子どもたちのお母さんやお父さんの笑顔や感謝の言葉は、まさに元気の源です。

その言葉に励まされ、癒やされるからこそ、教師という仕事を続けることができています。

もちろん、子どもたちの成長や笑顔にも、大きな力をもらっています。

自分で言うことではないかもしれませんが、教職という仕事は、傍から見る以上に神経を使い、疲れる仕事です。

子どもや保護者の笑顔ばかりではありません。

反発や怒り、嘲笑を受けることもあります。ときには、暴力を受けることさえあります。

それでも、子どもたちや、お父さん、お母さん方の笑顔を見ることを喜びとして、仕事に精を出す。

それが教師なのだと、私は思っています。

おそらく、ほとんどの教師が、同じように感じているのではないでしょうか。

(2006年4月20日記)

「今、振り返ってみて」をほんのちょっと


ここで登場するお母さんは、心ならずも「特別支援学級」選択だったと思います。

6歳児のスクリーニングテストで、B男さんはテスト用紙自体を破いていました。 あまり取り組めない子は、それまで何人も見てきましたが、テスト用紙自体をビリビリと破いた子は、私も初めて見ました。

入学式時の記念撮影では、パイプ椅子の下に潜り込んで、なかなか記念撮影が進まず、他の保護者の冷たい視線を浴びていました。

ですから、「特別支援学級」しかないとは思っていたとは思いますが、当時はまだ一般的ではなく、不本意だったのだと思います。

それでも、特別支援学級での学習に喜んで取り組む我が子の姿、確実に成長している我が子の姿を見て、「ここでよかったんだ。」と、ようやく思い始めたのだと思います。

この子は、特別支援学級での個別の算数指導が積み上がっていき、3年の2学期から算数については通常学級で同じ内容、同じペースで学習できるようになりました。
子どもの変化、成長はすごいものがあります。

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