第274話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『夜歩く下駄と、おじいちゃんの見回り』
リクちゃん、朝起きたら、ものが少し動いとった、なんてことないかい?
気のせいかもしれんけど、ふしぎなことってあるもんじゃよ。
今日はね、夜に歩く下駄のお話をしようかね。
むかし話
むかーしむかし、あるところに、ソウという男の子がおったそうな。
ソウのうちには、去年亡くなったおじいちゃんの下駄が、玄関に置いてあった。
おじいちゃんは、村の夜回りを長年やっておった人じゃった。
毎晩、下駄をカラコロ鳴らしながら村を歩いて、火の用心や戸締まりを確かめて回る。
「わしが見回っとるあいだは、この家も村も安心じゃ」というのが口ぐせじゃった。
おじいちゃんが逝ったあと、その下駄は形見として、玄関にきちんと揃えて置いてあった。
ある朝のことじゃ。
ソウが玄関に出ると、おじいちゃんの下駄に、うっすらと泥がついておった。
昨日、母がきれいに拭いておいたはずなのに。
「おかしいな」と思うたが、ソウはあまり気にせんかった。
じゃが、次の朝も、その次の朝も、下駄には少しだけ泥がついておった。
まるで、夜のあいだに誰かが履いて、外を歩いたように。
ソウは母に聞いてみた。
母は下駄をじっと見て、静かに微笑んだ。
「おじいちゃんが、まだ夜回りをしてくれとるんかもしれんね」
ソウの胸が、じんわり温かくなった。
その夜、ソウは眠れずに、そっと耳を澄ました。
すると、真夜中に、玄関のほうから、かすかにカラコロと下駄の音が聞こえた気がした。
おじいちゃんが、あの下駄を履いて、今も村を見回っとる。
火の用心を確かめ、戸締まりを確かめ、家族と村を守ってくれとる。
ソウは布団の中で、そっと目を閉じた。
「おじいちゃん、ありがとう」
そうつぶやくと、なんだかとても安心して、ぐっすり眠れたそうな。
「大事な人は、姿が見えんくなっても、そばで見守っておる。ふとした痕跡が、その温かい気配を教えてくれるんじゃ」
それからソウは、毎晩眠る前に、玄関の下駄に「おやすみなさい」と声をかけるようになった。
翌朝、下駄にうっすら泥がついとると、ソウは嬉しくなった。
おじいちゃんが、今夜も見回ってくれたんじゃと。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん。
おじいちゃんは、姿は見えんくなったけど、ちゃんと家族を守り続けとったんよ。
大事な人が亡くなると、もう会えんくなって寂しいよねぇ。
でもね、その人の思いや、守ってくれる気持ちは、消えてなくならんのじゃ。
リクちゃんのそばにもね、姿は見えんけど、見守ってくれとる人がおるかもしれん。
ふとした痕跡や、あったかい気配で、そっと教えてくれるんじゃないかね。
そいぎ、今日はここまで
リクちゃん、今夜眠る前に、家族の形見や、大事なものに「おやすみ」を言うてみるといいよ。
きっと、見守ってくれる気配を感じられるけんね。
ばあちゃんもね、いつでもリクちゃんを見守っとるよ。
そいぎ、おやすみ。
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