第272話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『団扇を忘れた、ドジな天狗』
リクちゃん、大事なものを忘れて困ったこと、あるかい?
そういうとき、誰かが助けてくれると、ほんとうに嬉しいよねぇ。
今日はね、忘れん坊の天狗のお話をしようかね。
むかし話
むかーしむかし、あるところの山に、一人の天狗が棲んでおったそうな。
天狗といえば、赤い顔に高い鼻、大きな団扇を持って、風を自在に操る恐ろしい存在じゃ。
じゃがこの天狗は、少しばかりドジじゃった。
大事な団扇を、あちこちに置き忘れてしまうんじゃ。
団扇がなければ、天狗は神通力が使えん。
空を飛ぶことも、風を起こすこともできんくなってしまう。
ある日、この天狗はまた団扇を忘れて、山を下りてしもうた。
気づいたときには、もう村の近くまで来ておって、山へ戻ろうにも空が飛べん。
天狗は途方に暮れて、村はずれの道端にしょんぼり座り込んでおった。
そこへ、畑仕事帰りの村人たちが通りかかった。
普通なら、天狗を見れば村人は逃げ出す。
じゃが、あんまりしょんぼりしとるもんじゃから、一人の若者が声をかけた。
「天狗さん、どうしたんじゃ?」
天狗は恥ずかしそうに、団扇を山に忘れてきたことを話した。
村人たちは顔を見合わせて、それから笑うた。
「なんじゃ、そんなことか。わしらが山まで一緒に登って、探すのを手伝うてやるよ」
村人たちは天狗と一緒に山を登り、みんなで手分けして団扇を探した。
やがて、大きな杉の根元に置き忘れられた団扇が見つかった。
天狗は大喜びじゃった。
「助かった! お礼に、何かさせてくれんか」
天狗は考えて、こう言うた。
「わしは木登りと風を読むのが得意じゃ。村の子どもたちに、木登りを教えよう」
それから天狗は、たびたび村に下りてきて、子どもたちに木登りを教えた。
高い木にすいすい登るコツ、風で枝が揺れるのを読む方法、安全に降りる方法。
子どもたちは天狗が大好きになった。
そして天狗は、団扇を忘れるたびに、村人が一緒に探してくれるので、もう困らんくなった。
「完璧な者などおらん。誰かの足りんところを、別の誰かが補う。持ちつ持たれつで生きるのが、いちばん温かいんじゃ」
天狗はその後も、ときどき団扇を忘れたそうな。
じゃが、村と天狗は、すっかりよい仲間になっておったそうな。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん。
天狗はドジじゃったけど、木登りは得意じゃった。
村人は空を飛べんけど、団扇を探すのを手伝えた。
みんな、できることとできんことがあるんよ。
リクちゃんも、苦手なことがあって落ち込むことがあるかもしれん。
でもね、苦手なことは誰かに助けてもらって、得意なことで誰かを助ければいいんじゃ。
完璧じゃなくていいんよ。
補い合えることこそが、いちばんの強さなんじゃないかね。
そいぎ、今日はここまで
リクちゃん、困ったときは誰かに助けを求めていいんよ。
そして、リクちゃんが得意なことで、誰かを助けてあげてね。
ばあちゃんもリクちゃんに助けられることが、いっぱいあるんよ。
そいぎ、おやすみ。
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