🔖琴音先生の"四字熟語 ひもとき塾" 第116回『自他一如』『自他一如』(じたいちにょ)
―― あなたの痛みは、わたしの痛み。その境い目が溶けるとき
◆ ある日の放課後、教室で
「先生、うち……誰とおっても"ひとり"な気がするんです」
三年生の美月さんが、頬杖をついたまま、ぽつりとこぼしはりました。
「友達と笑ってても、どこか遠いというか。結局、人って分かり合えへんのかなって」
うちは美月さんの隣に腰を下ろしました。
「美月さん、自他一如いう言葉、聞いたことおありやろか」
◆ 「自他一如」の意味とは
「自」は自分、「他」は他者、「一如」は本質においてひとつ、という意味どす。
つまり、自分と他者は別々に見えて、根っこでは繋がっている──そういう気づきを表した言葉なんえ。
誰かが泣いてはるとき、胸がきゅうっとなること、おありやろ? それはな、あんたの心がちゃんと誰かと繋がっている証拠なんどすえ。
◆ 出典・背景
この言葉は仏教、とりわけ禅宗や華厳経の教えに根ざしております。すべては「縁」で結ばれ、互いに支え合うて存在している──これを「縁起」と呼びますんえ。
◆ 一つの物語──良寛さまと暗がりの子
江戸時代、越後に良寛というお坊さまがおられました。
ある日、子どもたちとかくれんぼをしていた良寛さま。最後のひとりが、どうしても見つかりません。日が暮れても、良寛さまは探し続けはりました。
「もうよろしいでしょう」と村人が言うても、首を横に振りはります。
「あの子は暗がりの中で、"見つけてもらえる"と信じて待っておる。その気持ちを、わしは裏切れんのじゃ」
やがて古い蔵の中から、涙をいっぱい溜めた男の子が見つかりました。良寛さまはそっと抱きしめて言いはりました。
「よう待っておったのう」
後に良寛さまはこう語られたそうどす。
「あの子の寂しさは、わしの寂しさでもあった。じゃから、見つけずにはおれんかったのじゃ」
◆ 今につながるまなざし
「美月さん、"分かり合えへん"と感じるんは、本当は分かり合いたいからやないやろか」
美月さんの睫毛が小さく震えました。
「あんたの中に誰かと繋がりたい気持ちがあるから、壁を感じてしまうんやと思うんえ」
──心に、静かな変化が訪れて
美月さんは小さく息を吐いて、少しだけ口元をほころばせました。
「……"分かり合いたい"って思ってたんですね。それがわかっただけで、ちょっと楽になりました」
「ええと思いますえ。きっと周りの子も、同じこと思うてはるかもしれまへんよ」
あなたとわたしは、ほんまは、ひとつ。その気づきは、孤独の夜を照らす小さな灯火になってくれるはずどす。
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