第33話:昭和の暮らしを支えた 名もなき仕事図鑑『針スゲ──花緒の前坪を糸で留める小さな手仕事』
花緒の小さな要「前坪」
草履や下駄の花緒には、足の親指と人差し指の間に挟む「前坪」と呼ばれる部分があります。
小さな部分ですが、前坪がなければ花緒は足を支えられません。この前坪を花緒本体に巻き締め、上下から糸を通して固定する仕立て方が「針スゲ」です。
「針ズケ」や「丸頭」と呼ばれることもあります。
糸を見せずに、しっかり留める
針スゲでは、前坪が動かないように糸で固定します。
ただ留めればよいのではありません。表から糸の結び目が目立たないように針を運び、形を整えながら仕上げていきます。
完成すれば、そこに細かな仕事が施されているとは気づかないほどです。
けれど、その見えない糸が前坪を支え、花緒の形を保っています。
分業で作られていた花緒
花緒づくりには、生地を裁つ、ミシンをかける、前坪を作る、花緒本体に縫い付けるといった工程があります。
かつては、それぞれの工程を分担して作ることも多く、前坪を作って縫い付ける仕事だけを請け負う人もいました。
針と太めの糸を手に、ずれないように締め、ほどけないように留める。
目立つ装飾ではなくても、花緒の丈夫さと美しさを支える仕事でした。
「鼻緒すげ」とは別の工程
針スゲによって仕立てられた花緒は、そのあと下駄や草履の台に取り付けられます。
完成した花緒を台に通し、履く人の足に合わせて締め具合を調整するのが「鼻緒すげ」です。こちらは「挿げ職人」と呼ばれる職人が担います。
針スゲは、花緒を仕立てる工程。
鼻緒すげは、その花緒を履物の台に取り付ける工程。
似た言葉ですが、それぞれ違う場所で一足の履物を支えていました。
見えないところに残る手仕事
下駄や草履を見ても、前坪がどのように留められているかまで気にする人は少ないでしょう。
けれど、その小さな部分にも、針を運び、糸を締め、形を整えた人の仕事が残っています。
履く人には見えなくても、なくては履物が完成しない。
針スゲは、そんな名もなき手仕事の一つでした。
参考資料:
花緒の種類|着物あきない
前坪の縫い方|丸屋履物店
辻屋本店の挿げの技|辻屋本店
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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