😂じっちゃん、聞いてや!生成AIに宿題を丸投げする生徒 ― 学習塾講師・西野さん編
残暑が続く八月の夕方、じっちゃんが扇子を片手に将棋の駒を並べている。対局相手はいない。
「じっちゃん、一人将棋?」諒太が言う。
「一人の方が、自分に負けんで済むったい」
免ちゃんが登場。今日はよれよれのTシャツ。「じっちゃん、それ屁理屈やろ」
門の方から、参考書を抱えた若い男性が、疲れた顔で歩いてきた。シャツの胸ポケットには、赤ペンが三本も差さっていた。
「西野といいます。以前ここに来た方の紹介で……」
二十代後半、学習塾の講師だという。参考書を縁側に置き、額の汗を拭った。座るなり、参考書の表紙を意味もなく撫でていた。
「最近の生徒、生成AIに宿題丸投げする子が増えてきて、正直不安なんです」
「丸投げ、いうと?」諒太が聞く。
「作文でも数学の証明問題でも、AIに聞いて、答えだけコピーして出してくる。合ってるかどうかは別として、本人が全然考えとらんのです。指摘しても『答え合ってるからいいじゃん』って」
西野さんが参考書のページを指でなぞる。
「先週も、感想文の宿題を見たら、文体が明らかに大人びとって、本人に聞いたら『AIに書かせた』って悪びれもせず言うんです。結果だけ見たら立派な文章なんですけど、この子の中に何も残っとらん気がして。かといって、頭ごなしに禁止したら、今度は隠れてやるだけやろうし」
じっちゃんが将棋の駒を一つ、盤の上に置いた。
「西野さん。わし若い頃、韓国におった時期があるったい」
「韓国、ですか」
「言葉が全然分からんで、最初は身振り手振りでどうにかしとった。そのうち、簡単な単語だけ覚えて、翻訳の紙を持ち歩くようになったんばい。それで一応、買い物とかはできるようになった」
「便利ですね」
「便利やった。せやけど、ある日、深い話がしたい相手ができてな。翻訳の紙じゃ、微妙なニュアンスが伝わらんで、悔しい思いをしたばい。相手の目を見て、自分の言葉で伝えたいのに、紙に頼ったわしの頭には、その言葉がまだ育っとらんかった。そこで気づいたんばい。道具は答えをくれるけど、自分の中に言葉が育っとらんかったら、いざという時に何も語れんとよ」
西野さんが顔を上げる。
「西野さん。AIが悪いわけやなか。道具はうまく使えばええ。せやけど、道具に頼りきったまま何年も過ごしたら、自分の中に何も育たんまま大人になってしまう。あんたの仕事は、AIを禁止することやのうて、自分の頭で考える楽しさを、思い出させてやることばい」
西野さんが小さく頷く。
免ちゃんが「AI禁止にしても、いたちごっこやもんな」と言う。
諒太も「使い方を教える方向にシフトするのも、ありかもですね。答えやなくて、考え方を聞かせる、みたいな」と続けた。
「そうですね……AIに聞くこと自体を否定するんやなくて、聞いた後にどう考えたかを、一緒に振り返る時間を作ってみます。答えより、そこにたどり着くまでの道筋を大事にしてみます」西野さんの表情が少し明るくなった。
じっちゃんが飴ちゃんを一つ、西野さんの手のひらに乗せた。
「これも、自分の頭で味わう練習たい」
西野さんが飴ちゃんを握って、笑った。「明日の授業、ちょっとやり方変えてみます」
将棋盤の上で、駒がひとつ、静かに影を落としていた。
「おもろかったら『スキ』押しとき。自分の頭で、この一言選んでみい」
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