第132話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『星を映す井戸』
語りかけ
リクちゃん、夜空の星って、手でつかめると思うかい?
むずかしかろう?
でもね、むかしむかし、とある村では「星を手にできる井戸」があったんじゃよ。
今日はそのふしぎなお話ば、聞かせちゃろうかね。
むかし話
むかーしむかしのことじゃった。
山里の村に、古い井戸がひとつあった。
その井戸は底が深うて、水面はまるで鏡のように空を映し出しよった。
ある晩のこと。
村の子どもが井戸をのぞくと、星が一つ、水面からふわりと落ちてきたんじゃ。
その星は、手のひらほどの光の玉になって、井戸の中に沈んでいった。
村人たちはおどろき、そして祈った。
「どうか、今年の畑が豊かになりますように」
すると不思議なことに、その年は日照りも大雨もなく、稲も豆もよう実った。
「井戸の星は、願いをかなえてくれる!」
うわさは村中に広がり、夜な夜な人が井戸をのぞきに来るようになった。
ある者は「病の親が治りますように」
ある者は「子どもが無事に生まれますように」
ある者は「よい嫁さまが来てくれますように」
そして願いは、ふしぎと次々にかなっていった。
──じゃが、ここからが大事なこと。
ある夜、一人の若者が井戸をのぞき込み、こう願った。
「どうか、わしだけが村一番の金持ちになりますように!」
けれど、その夜から星は井戸に映らなくなった。
水はただ暗い穴となり、もう光を返すことはなかったんじゃ。
村人たちはしばらく落ち込み、「星は去ってしもうた」と嘆いた。
しかし、年寄りがひとこと言うた。
「星は消えたんじゃなか。人の心に移ったんじゃろう。
みんなが互いを思う願いは、すでにかなってきたやろうが」
そう言われ、村人はハッとした。
井戸に映る星を失った代わりに、
人の心に“願いをかける星”が宿ったんじゃ。
不便や喪失は、新しい力を呼ぶ。
その日から、村は自分たちの手で願いを叶えようと助け合うようになったんじゃよ。
めでたし、めでたし。
子どもたちへ
ほらね、リクちゃん。
星は井戸から消えたけど、ほんとうは人の心に生きとったんよ。
人を思う願いは、星よりも強か力になるんじゃ。
「へぇ!ぼくの願いも、誰かを思えばかなうんやね!」
リクちゃんが、きらきらした目で夜空を見上げた。
そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。
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