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第182話:ウメばあちゃんの『新作日本昔ばなし』!『音のない琴』

語りかけ

リクちゃん、
音が出らん楽器って、
もう役に立たんと思うかね?

もしな、
誰にも聞こえん音が、
心の中だけで鳴るとしたら、
それは“ない音”なんやろか。

むかし話

むかーしむかしのことじゃった。

山あいの村に、
ユイという小さな女の子がおってな。

その子は、
昔、母親が弾いとった琴が大好きじゃった。

夕暮れになると、
母親は縁側で琴を爪弾き、
ユイはその音を聞きながら眠るのが常じゃった。

けれどある年、
母親は病で亡くなり、
琴の弦も、
一本、また一本と切れてしもうた。

村の大人たちは言うた。
「もう音の出らん琴じゃ。
片づけてしまおう」

けんどユイは、
夜になるとその琴の前に座り、
切れた弦をそっとなぞりながら、
静かに指を動かしよった。

音は出らん。
村の誰にも聞こえん。

けれど不思議なことに、
ユイの胸の奥では、
昔と同じ旋律が、
はっきりと響いとった。

それからしばらくして、
村で悲しいことが続いた。

作物は不作、
人の心も荒れて、
夜になるとため息ばかりが増えていった。

そんなある晩、
村の人たちは気づいた。

夜道を歩くと、
なぜか心が落ち着く。

音は聞こえんのに、
胸の中があたたかくなる。

それは、
毎晩ユイが弾いとった
“音のない琴”のせいじゃった。

音は空気を震わせず、
人の心だけを震わせとったんじゃな。

最後にユイは言うた。
「お母ちゃんの音は、
耳じゃなくて、
ここに残っとる」

と、
胸を指さしてな。

見えんもの、聞こえんものほど、
人を深く支えることがある。

そうして村は、
少しずつ笑顔を取り戻していったとさ。

めでたし、めでたし。

子どもたちへ

ほらね、リクちゃん。
音ちゅうのはな、
耳で聞くもんだけやなか。

大事なもんほど、
心の奥で静かに鳴り続けるんよ。

「聞こえんけど、わかる」
それがほんとの音たい。

そいぎ、今日はこのへんにしとこうかね。

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