小説設定小話#1|無口な入り口。|『暗転も好転も、それは君と僕の心次第。』
読了時間2分
新連載です。
二矢翔馬、マドス・ユ・ウェイルを
主軸で展開するファンタジー小説。
本編へ入る前に、
この世界にある場所や人物、少し不思議な出来事を、
短い物語として置いていきます。
マドス・ユ・ウェイル側。
◇無口な入り口。
無粋な真似は、やめてほしい。
ジャリ。
ジャリッ。
石畳は、金色の髪の持ち主に、抗議の声をあげる。
靴裏についた砂も、靴そのものも嫌う。
帯びた剣の金具がベルトにすれて、
下手くそな打楽器のように辺りへ音を響かせた。
響かせる行為は、わざとだった。
来訪は告げていた。
書面も出した。
なのに、なんの音沙汰もなく、
来訪の当日を迎えていた。
「……無視するつもりか」
部下に調べさせて到着した入り口には、
「高貴な者一人だけしか入れない」
と掲げられていた。
王冠の男が一人、その入り口を通った。
口のまわりにたくわえた自慢の髭が、
今、このときは鬱陶しいと感じる。
横幅が十メートルはある主要通路。
人影がないなど、ありえなかった。
空には、鳥が飛ぶ。
しかし、鳥すら遠影だった。
「……まだ、着かないのか」
苛立ちが焦りに変わっていく。
疲弊し、足取りが重くなる。
喉が渇き、汗が吹き出た。
ジャラつく自国の勲章は、
その総重量で、彼の体を前へ折らせていた。
王冠が顔面の方にずれてきて、
前髪をおさえつけた。
マントも。
ヒールの細めのブーツも。
今は不用だ。
自分で外したことがない装束を、
王冠の持ち主は、
ひとつずつ脱ぎ捨てる。
王冠。
マント。
ヒールの細めのブーツ。
ジャラつく自国の勲章も。
主要通路の内側に脱ぎ捨てた。
ふと気づき、
自分で脱ぎ捨てたものを雑に折りたたむ。
身軽になった彼は、
ようやく息を吐いた。
重かったものを取り去り、
後ろを振り返ると、
一人の若い男が居た。
若者は、
「お困りのようでしたら、お話を聞きましょうか?」
と言った。
飛びつくように、
思いつくことをありったけ話した。
言葉は、津波のように流れ出し、
聞くままにしている若者は、
笑顔で、ずっと聞き続ける。
「水を一杯くれ」
話し続けて疲れ、
カップの一杯の水を求めた。
若者は、
「お水をカップ一杯ですね?」
と確認をし、
自分のベルトに備え付けた水筒から、
携帯用のカップに、
水を一杯だけ注ぎ渡す。
王冠を外した男は、
「……生き返った」
と、素直に言葉に出した。
「ならば、こちらは、貴方の望みを一つ、先に叶えました」
「……案内いたしましょう、ラザラン・ベルニキオ殿。
今の貴方なら、我が国と話し合える姿になられた」
若者は虚空から剣を取り出し、
ラザランに、ひどく美しい笑みを浮かべた。
「わたくしが、マドス・ユ・ウェイルの耳。ピエルと申します」
「貴殿のお話は、あらかた伺い済んでおりますので、
調印室に到着しましても、同じことをおっしゃいませんように」
ピエルは、わかりやすいように自分の耳のアクセサリーを見せた。
耳飾りは、通信魔道具だった。
ラザランは、がくりと項垂れる。
マドス・ユ・ウェイルと直接顔を合わせるという、
ラザランの目的は潰えた。
洗いざらい吐き出した言葉は、
もう喉の奥へ戻せない。
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