朋あり遠方より来たる 3)静謐なる飯田橋

朝鮮総連中央本部(朝鮮会館)。飯田橋駅を降りて、ナチュラルローソンでコーヒーを買い急な坂道を登る。警官が柵で道をふさいでいて、その横の歩道を上がるとやがて青い瓦の建物が見えてくる。
韓国の大統領官邸の名前が青瓦台。朝鮮総連中央本部の屋根瓦もまた青い。
飯田橋近くで外勤があることがあり、外勤後は直帰の許可が出ているので時間を合わせてこの建物に顔を出す。中で働く友人とコーヒーを飲みながら北朝鮮関連の情報交換をして帰る。
コロナ前に行われていた建国記念パーティに招待されたことがある。許宗萬議長の写真と演説をまとめ週刊誌に寄稿し、議長と握手し、椿山荘のケータリングを存分に味わい、接近してきたロシアのスパイを撒いて、2ショット写真を撮った。
閑静なといえば聞こえがいいが、何だかこのあたりは生活感がない。生活音がしないのだ。韓国から来た友人と歩く。どこかエアスポットに紛れ込んだような、そして気温も周りより数度低く感じるのは気のせいだろうか。


白百合学園がある。朝鮮総連中央本部の建国パーティの日は、警官が大量に配備されていて、警察車両も多く止まっていた。スモークガラスのライトバンの中には、望遠レンズを構えた警官がいるだろう。校舎から出て来た女子高生3人組の間に隠れるように、そしてスーツを着崩して、飯田橋に向かうサラリーマンを装った。
朝鮮総連中央本部に入る直前、ぐいっと90度ターンを決めて門をくぐろうとしたら警官がばっと寄ってきた。触ったら公務執行妨害。私は一旦両手を挙げ、観念し右手を下げ胸ポケットから建国パーティの招待状を出した。
「え?お兄さん招待されているの?」
警官が驚いた声をあげた。まだ若造だったから意外だったのだろう。アントニオ猪木氏、馳浩氏、鈴木宗男氏。錚々たるメンバーの中に私も入り込んだ。中から朝鮮総連の職員が「こっちこっち!」と手招きしていた。


朝鮮総連中央本部に行く直前靖国神社を参拝した。英霊に言い訳をしたのだ。
「えっと、私は朝鮮総連中央本部に今から行きますが、これは決して売国行為ではなくて、相手がどういう動きをするかを知りたいのです。これは愛国心から来るものでして…」。
長い弁明に英霊の答えはなかった。
それにしてもこの飯田橋。朝鮮総連中央本部。靖国神社。痴呆の右翼団体は靖国神社で参拝するとそのまま朝鮮総連中央本部に街宣をかけるという。「ともかくうるさい」と中にいる友人はぼやく。街宣セット。
間にある日本でも有数のお嬢様学校である女子高白百合学園高等学校。そして今だ学生運動が騒々しい法政大学。左と右のせめぎ合いと、お嬢様の通う学校。磁場。それがこの街の静寂を生み出しているのではないかと思う。
かつて小泉政権だった時の話。靖国神社参拝をいつするか明言しない小泉総理の対策として、朝鮮総連中央本部の警備を増していたと聞く。いざ、総理参拝となったら、増した警備要員が靖国神社に走れるようにしておいたという。
韓国から来た共産主義者の友人は朝鮮総連中央本部も見に来たという。靖国神社も。ただ、彼は参拝はしなかった。彼に飲みかけのカフェオレを預け、私はまた英霊に祈った。
初詣の参拝客が多くいた。鳥居をくぐり礼をし、再び飯田橋駅を目指した。靖国神社から富士見を経て飯田橋に降りる坂は急。陽が傾き寒さが増す。駅前まで戻り、ようやく雑踏に紛れ人の声を聞いた。
