スナックの事業モデル再構築の事例を考える
12月8日の日経新聞で、「陰るスナックの灯 25年で6割減も リアルな接点どこに チェーン店に活路」というタイトルの記事が掲載されました。かつては娯楽や憩いの場として社会的に存在感を放っていたスナックがその数を減らし続けていますが、その状態の打開を目指す新たな取り組みを取り上げたものです。
同記事の一部を抜粋してみます。
冷え込む師走の夜、ぬくもりを求めてスナックに入る人もいるだろう。そのスナックの閉店が続く。2025年は4万5千店と13年比5割減り、このままなら50年に2万店を下回る。店を仕切るママの高齢化に後継者不足が重なる。
「以前は7店ほどあったが今はうちを含め2店しかない」。JR巣鴨駅(東京・豊島)から徒歩約10分、かつてスナックが軒を並べた通称郵便局通り。ここで1990年に開業した「スナック三代」のママの表情は少し寂しそうだった。
スナックの明確な定義はないが、ママがカウンター越しに接客するのが一般的だ。
近隣住民や会社員が集う場として親しまれてきた。常連が近況や地域の情報などを報告するだけではない。ママを媒介に見知らぬ客同士が知り合い、社会的孤独を和らげるなど「居場所」としての役割もある。
ママの多くは今では70代となり体力が限界に近づく。一方、人口減少もあり次の担い手が見つからず、閉店が増えている。そこに酒離れなどが重なる。スナック固有の事情もある。厚生労働省によるとスナックに行かない理由として「一人で入りづらい」との声があがる。分かりにくい会計も障壁となる。
それでもスナックを再評価する動きが出てきた。オンラインでのやりとりが増える中、スナックでの触れ合いを求める若者もいる。月2回通う25歳の男性は「3年前から通い始めた。隣の人に気軽にしゃべりかけていい場所は少ない」と話す。
団塊ジュニアのライフラインとしての可能性も秘める。「一人暮らしのためママを緊急連絡先に登録した。長い間来ないと安否を確かめてくれる」。東京・広尾の「スナックふれあい」に通う53歳の女性はこう笑う。
スナックの再評価を受け、再興の試みも広がる。東京都国立市の「スナック水中」。経営する27歳の坂根千里さんは学生時代にアルバイトとして働いていた店を引き継いだ。
5月には利益と社会貢献の両立を目指すゼブラ企業を支援するための日建設計のプログラムに採択された。2年間で実証研究費1000万円と、経営支援を受ける。26年6月には都内に2号店の開設を計画する。
デジタル化も一手だ。新興企業のスナックテクノロジー(スナテク、東京・渋谷)は決済や顧客管理などを一元化するアプリをスナックに提供する。このシステムを使えば、お客の名前などが店側に表示され、自動決済で領収書も発行できる。
スナテクは加盟店を今の6店から26年までに300店に増やす計画を描く。関谷有三社長は「個人経営が多かった喫茶店業界はスターバックスなどチェーン店の登場で変わった。スナック業界も透明性が高まりチェーン化が進むだろう」とみる。
スナックへの関心が一部で高まっているのは、社会的な孤立という問題が深刻になっていることの裏返しでもある。
家族や友人などと離れて暮らす高齢者にとって緊急時に頼れる人の確保はこの先、一層重要性が高まる。SNSは有力な手段だ。遠くの友人に近況を伝えることも、共通の趣味を持つ人を探すことも簡単になった。
ただ人同士のリアルな接点の重要性が薄れたわけではない。病気にかかったり、体が不自由になったりすれば、生活を手助けしてくれる人が必要になる。
かつてはスナックが人とのつながりを媒介したこともあったが、今はその数を減らしつつある。この現実は25年後の日本に暮らす人たちの居場所はどこかという重い課題を突きつけているようにみえる。
同事例から得られる経営上の示唆を、4つの視点から考えてみます。
1.社会課題の解決との関連付けを明確にする
同記事の例では、スナック再興を試みるにあたって、単に店数の維持や反転を目指すのではなく、「孤立防止」「地域見守り」「高齢単身者のセーフティネット補完」といった社会課題解決への貢献を理念・目的として設定しているように見受けられます。
かつてスナックは「偶然知り合いとつながれる」「第三者が見守ってくれる」といった、新たなつながりができる場所のひとつだったと、同記事は示唆しています。
スナックでのつながりは、大げさな言い方をすれば、社会学者のマーク・グラノベッター氏が提唱した「弱い紐帯の強み」(家族や会社の同僚などよりも軽度でゆるやかなつながり。弱い紐帯だからこそもたらされる新しい情報やネットワークによる強み)を生み出す地域装置のひとつに当たるのかもしれません。
こうした機能が失われていくことは、単なる業界の縮小ということに加えて「人々の居場所の喪失」という構造問題を表しているという見方もできます。
同記事にも「緊急連絡先としてママを登録する常連客」といった紹介があります。スナックが持つ「コミュニティ支援業」という側面を事業目的として可視化して前面に出し、ゼブラ企業的な位置付けで事業を展開することで、自治体や企業との協働、助成金獲得、人材マッチングなど、これまでの枠を超えた新たな展開を試みています。
つまりは、スナックを飲酒提供業にとどめるのではなく、社会課題を解くコミュニティーインフラとして再定義することが、再興戦略の本丸になりえるのかもしれません。
2.デジタルも活用した、利用者の不安の払拭と透明性の向上
個人的には、スナックへの入店はあまり得意ではありません。同行者が連れて行ってくれたこと以外で、これまでに自分1人でスナックに行ったことはおそらくないと思います。これは、私があまり社交性が高くない性質のためですが、同様の方も少なくないと思います。
同記事では、厚労省による2021年調査結果の一部が紹介されています。それによると、バー・スナック・パブを利用しない理由として、複数回答で次のようになっています。「1人で入りづらい」は、やはり上位の要因として挙げられています。
料金が高い(約30%)
アルコールが苦手(約28%)
1人で入りづらい(約20%)
金銭的に余裕がない(約16%)
家で飲むのを好む(約12%)
会計方法が不安(約12%)
特になし(約23%)
そして、「料金が高い」や「金銭的に余裕がない」も会計への不安に通じる面があると勘案すると、非利用者の多くが会計方法への不安を理由にしていることが想定されます。「会計が不透明」が「1人で入りづらい」と並んで、利用障壁となっている大きな要因だという見方もできそうです。
そのなかで、同記事が紹介するスナテクのアプリのように、自動決済や料金体系の見える化などデジタル技術の導入は、多少なりとも「会計が不透明」の障壁の軽減につながりそうです。
また、同記事にある「透明性が高まりチェーン化が進む」という方向性は、「1人で入りづらい」という障壁の軽減につながるのかもしれません。
例えば、喫茶店やカフェも、その立地にしかなく、外観からは中の様子がわかりづらく、メニューや料金などが不明なお店よりも、スターバックスやドトールなどのチェーン店のほうが入りやすいという人は多いはずです。
商品・サービスの利用体験を利用前にある程度想像できることは、特に初回体験での安心感を重視する潜在顧客にとっては大切です。デジタル化やチェーン化の視点は、このことに応えるアプローチとなり、店舗の持続可能性だけでなく、新規開業の増加にもつながるかもしれません。
こうした視点は、スナックに限らず、あらゆる事業や商品・サービスに通じると思います。
上記では、「アルコールが苦手」という要因も指摘されていますが、このことについては次回考えてみたいと思います。
<まとめ>
事業目的の再構築によって、その商品・サービスで従来にはない展開が見えてくるかもしれない。
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