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第35話:比率

今回はいつも感じていることを
物語調にしてみました。
是非読んでみてください。


『黄金比さんと大和比さん』

ある町に、ふたりの有名な設計士がいました。

ひとりは、西洋帰りの新進気鋭。
精密な幾何学と絶対的な美を追求する、黄金比さん。

もうひとりは、町の大工たちから親方と慕われ、
日本の伝統と現場の髄を知り尽くした、大和比さん。

町長がふたりに言いました。
「町の広場に、新しい時計台を作ってほしいのです」


黄金比さんは胸を張り、眼鏡の奥の目を輝かせました。
「任せてください。誰もが見惚れる、最高の美を刻んでみせます」

図面を描くこと、三日三晩。
黄金比さんが掲げた図面を見た人々は、
誰もが「おぁ……」と息をのみました。

流れるような幾何学の螺旋、完璧な比率で配置された文字盤。
そこに佇むだけで絵になる、まるで奇跡のような時計台の図面でした。

一方の大和比さん。
彼は渡された和紙に差し金を当て、わずか一時間で図面を描き上げました。

「はい、できました」
町長は目を丸くします。
「えっ? もうですか?」

図面は派手さこそないものの、どこか懐かしく、
すっと胸に収まる佇まいをしていました。


やがて、工事が始まりました。
まずは黄金比さんの時計台です。

現場は、初日から大混乱に陥りました。
すべてのパーツの寸法が少しずつ異なり、
角度もミリ単位で絶妙に傾けられています。

現場の職人たちが頭を抱えて叫びます。
「おい! この柱、右と左で長さが微妙に違うぞ!」
「穴の位置が1ミリずれてる! 作り直しだ!」
「どれがどこのパーツなんだ!?」

幾何学の完璧さを求めるが故に、
現場はまるで複雑なパズルのようでした。

一方、大和比さんの時計台。
現場にはトンテントン、と心地よい槌音が響いていました。

「親方、この部材は?」
「ああ、それもさっきのと同じ寸法だ。ぽんと組んでくれ」
「あいよ!」

大和比さんの設計は、丸太から無駄なく切り出せる寸法で全てが統一されていました。
職人たちは迷うことなく、夕方には見事な塔が組み上がりました。


数日後。町民アンケートが実施されました。
黄金比さんの時計台には、感動の声が集まります。

「まるで美術館の芸術作品みたい!」
「あんなに綺麗な時計台、見たことがないわ!」
「前で結婚式の写真を撮りたいです!」

大和比さんの時計台には、温かい声が集まりました。
「なんだか見ているだけでホッとするね」
「毎日眺めても、ちっとも飽きない」
「日陰のベンチがすごく座りやすくて助かるよ」

ふたりとも、自分の仕事に満足していました。

……そう、あの人物が走ってくるまでは。


「大変だーッ! 大変だーッ!」
工場の責任者が、涙を流しながら走ってきました。
「黄金比さん! 材木や金属の端材が、山のように残っちまいました!」

黄金比さんは驚きます。
「え……? ちゃんと計算して切り出させたはずだが」

工場長は肩を落としました。
「複雑な角度や寸法に合わせて切り抜いたから、使えない切れ端だらけなんです。材料が……もったいなさすぎる!」

そこへ、広場を掃除していたおばあさんが通りかかりました。
山積みになった木材の端材を眺め、ポツリと言います。
「あらあら……これだけいい木があれば、犬小屋が三つは作れたねぇ」

職人たちが思わず苦笑いしました。
黄金比さんは初めて、工場の裏手へと足を運びました。

そこに広がっていたのは、打ち捨てられた美しい木々の切り端と、使われなかったボルトの山。

彼は膝を折り、静かに呟きました。
「私は……図面の中の『完成した姿』しか見ていなかったんだな」

そこへ、大和比さんが歩み寄り、黄金比さんの肩を優しく叩きました。
「ですが、あなたの時計台は、町中の人をひと目で魅了した。あの感動は、誰にでも作れるものじゃありません」

黄金比さんは顔を上げます。
「……ありがとう。大和比さん」

大和比さんは微笑みました。
「私は、木や職人という『現場』を大切にした」

黄金比さんも深く頷きます。
「私は、訪れる人が見上げる『景色』を大切にした」

ふたりは顔を見合わせ、初めて固い握手を交わしました。


その翌年。
町の広場に、新たな記念館が建設されることになりました。
なんと今回は、黄金比さんと大和比さんの共同設計です。

完成した建物を見た町の人は、驚きと感動で目を見張りました。
息をのむほどスタイリッシュなのに、どこか懐かしく、温かい。

誰も見たことがないのに、昔からそこにあったかのように町になじんでいたのです。

工場の責任者も、満面の笑みで踊り上がっています。
「すごいぞ! 端材がいつもの半分以下だ! 犬小屋にする隙もない!」

町長が感極まった様子で尋ねました。
「素晴らしい……! おふたりさん、一体どちらの比率を使ったのですか? 黄金比ですか? それとも大和比ですか?」

ふたりは顔を見合わせ、いたずらっぽく笑いました。
「「秘密です」」

「ええっ、教えてくださいよ! 黄金比の美しさですか? 大和比の調和ですか?」

ふたりは声をそろえて答えました。
「いいえ。今回は――『思いやり比』です」

黄金比は、世界をハッとさせる「美しさ」を教えてくれる。
大和比は、暮らしによりそう「使いやすさ」を教えてくれる。

けれど、本当の意味で美しいデザインとは――

作る人、使う人、そして素材への「思いやり」まで設計されたものなのかもしれません。
(完)


黄金比(1:1.618)

ある数学者は完璧な数字があるはずだ、と考えました。
小:大=大:全体
これを数字にすると
1:1.618=1.618:2.618(1+1.618=全体)と導かれます。

もっと言うと1.618の二乗
1.618×1.618=2.618(1+1.618=全体)となります。

さらに1÷1.618=0.618(1.618-1)という性質まで持っています。

古代ギリシャの人たちはこれを特別な数だと感じたのでしょう。
これが一般に言う黄金比です。

自然界にも多く見られます。
ひまわり:種の並びが右回り34本、左回り55本
他にも松ぼっくり、オウムガイ、シダ植物などにも
似た規則性が見られます。

建築ではパルテノン神殿(実際には後から黄金比を当てはめた説もあり)
などがあげられます。
一方でル・コルビュジエは黄金比を積極的に取り入れ
表紙に取り入れたフランスにあるロンシャンの礼拝堂は音楽的かつ芸術的とも言われています。

日本でもル・コルビュジエの建築作品には国立西洋美術館などがあります。
黄金比は自然が生み出した優雅な数字、美しい比率とされています。


大和比(白銀比)(1:1.414(√2))

日本では古来より大和比が使われてきました。
自然界ではあまりみられることはありません。
畳、障子、襖、和室などに√2の比率がよく見られます。

コピー用紙などではA4,A3,A2,A1どれも大和比です。
なぜか?半分に折っても同じ形になるからです。

この縦横比は√2だけが持つ特殊な性質です。
また日本刀や名刺などにもこの性質が見られます。

大和比は使いやすい比率を磨き続けた結果、
機能性がそのまま美しさになったと言えます。


現代の建築やプロダクトデザインにおいても、目を引く意匠性や斬新なフォルムを追求する一方で、複雑な曲面や不規則なモジュールによって大量の端材や廃棄ロスが生まれているという課題は、現場で常に議論されています。

意匠性を高めることは建物の価値や人々に与える感動を生みますが、一歩間違えると「施工の複雑化」「工期の長期化」「資源の無駄」という代償を払うことになります。


現代の建築界では、意匠性を損なわずに資源のロスを最小限に抑える試みが急速に進んでいます。

1. アルゴリズミック・デザイン(コンピュテーショナル・デザイン)
コンピューターの計算力を使い、「美しいフォルムを描きつつ、端材が最も少なくなるカット方法やパネル分割」を自動で最適化する技術です。複雑な曲面デザインであっても、共通の規格パーツに分解してロスを極限まで減らす設計手法が広がっています。

2. プレカットと3Dプリンティング / 加飾技術
精密な工場プレカット:
現場でカットしてゴミを出すのではなく、工場で高度に計算されたカットを行い、出た端材もその場でリサイクル素材として再利用するシステム。
3Dプリンティング技術:必要な分だけ素材を積層して造形するため、原理的に「削り落とすゴミ(端材)」が発生しないアプローチとして、意匠性と資源効率を両立する未来の建築技術として注目されています。

3. モジュール化と伝統の「木割」の再評価

日本伝統の大和比(白銀比)に基づいた柱の間隔や畳の寸法のように、「一定のグリッド(モジュール)に基づいてデザインする」という考え方が、現代のサステナブル建築で改めて見直されています。ルールのある美しさは、製造・施工・リペアのすべてにおいて無駄を削ぎ落とします。


昔は「工場で作れるもの」を設計していました。
今はCADやBIMのおかげで「何でも描ける。」
だから「何でも作れる。」と思ってしまう。
でも描けることと、合理的に作れることは違います。

現在の建築物はCADやBIMの進化に伴い、黄金比とは関係ないかもしれませんが意匠性を求めた斬新な形状が目立ちます。
その結果、材料のロスが目立つように思います。

本当に美しいデザインとは、完成した姿だけでなく、材料が生まれてから現場で組まれ、やがて解体されるまでのプロセス全体が美しいものであるのかもしれません。

限られた資源だから少しでもムダのないように使えるようにしていきたいですね。


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