【ショートショート】やおよろず
コンビニでばったりゴトウと出会った。
隣人である。
おれたちは下らない話をしながら坂の下にあるマンションに向かった。
「こないだ、八百万の神が読めなくて恥かいてさあ」
「ああ、やおよろず。超多いとかめっちゃたくさんって意味だよね」
「昔は八百万が無限に近いくらいデカい数字だったんだな」
それは違う。八百(非常に多い)と万(さまざま)を重ねた表現だ。でも、細かいことはいい。古代人にとって八百万は途方もなく大きな数字だったろう。なんせ世界有数の大都市だった江戸でさえ、人口は百万人だ。
「八百万円は大金だけど、マンションの一部屋が二億円する時代だからなあ」
「数字のインフレ」
おれは変なことを思いついた。
「精子の数って四千万個くらいだよな」
「あ、そうなんだ」
「古代人も同じ数だったと思うんだがなあ」
「古代人、精子の数、数えないからな。技術もなかったろうし」
「神々の精子は八百万個だったのかもしれない」
「わはは」
「それでやおよろず」
言ったとたんに体がずんと重たくなった。
あっ、しまった。
遍在する八百万の神はおれの体にも住み着いているのだった。
全身が重すぎて足が上がらず、いやそれどころか、呼吸さえできない。
死ぬかと思った。
数十秒たってようやく神の怒りが解けた。
笑ったゴトウも同じ目にあったらしい。はあはあと喘いでいる。
おれたちは歩みを再開しながら同じタイミングで不謹慎なことを言った。
「神縛りだ」
また呼吸ができなくなった。
(了)
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