せっかくケーススタディ(事例報告、事例検討)を書いたのに「これは感想です」——この一言で心が折れた、なんて経験はありませんか?
みなさんは、ケーススタディ(事例検討、事例報告)の「考察」欄に、赤ペンで「これは考察ではなく、感想です」と書かれた経験はありますか。
「考察を書いてください」と言われて、何を直せばいいのか分からず、そのまま提出し直した経験はありますか。
「考察って、結局何を書けばいいの」と、検索窓に打ち込んだことはありますか。
いずれにせよ、一生懸命書いたはずの原稿が「感想文」だと言われてしまう。そのときのやり場のない気持ちを味わったことがある方は、きっと少なくないはずです。
1. 「考察が感想になる」のは、あなただけではないかもしれません
たとえば、ラダー研修などで提出するケーススタディの考察欄に、こんな言葉を書いた経験がある方は多いのではないでしょうか。
「今回の関わりを通じて、傾聴の大切さを改めて実感しました」「患者さんの思いに寄り添うことの重要性を学びました」「今後もこのような姿勢を大切にしていきたいと思います」
読み返すと、たしかに感想です。けれど、書いていた本人には、それが「考察」に見えていた。ここに、多くの人が最初につまずく壁があります。
これは、書き手の文章力の問題ではないのかもしれません。臨床現場の看護師を対象にした、こんな意識調査があります。
「研究は難しい」「精神的に負担である」という項目は、研究経験の有無や年齢、経験年数を問わず、すべての群で高い困難感を示した。さらに、約6割が「やりたくない」または「必要性を感じない」と回答した。
この調査が示しているのは、「研究が苦手な人が多い」という単純な話ではないということです。
「考察とは何か」「感想と何が違うのか」を、現場の言葉で、自分の原稿に即して教えてもらう機会そのものが、ほとんど用意されていない。
だからこそ、指導する側も赤ペンで「感想です」とは書けても、「ここをこう直せば考察になります」とまでは書けないのです。
ケーススタディの考察が感想文になってしまうのも、まさに同じ構造を持っています。教わっていないことは、書けなくて当然なのです。
2. 考察を書く前に知っておくと、少し楽になる小さなコツ
「考察が感想になりやすい」理由の正体が、少し見えてきたところで、実際に手を動かすときに使える、小さなコツを2つだけご紹介します。
小さなコツ1
一つ目は、考察と感想を見分ける、たった一つの問いについてです。
自分の書いた文章が考察なのか感想なのか迷ったときは、その文に「なぜ」が含まれているかを確かめてみてください。
「傾聴が大切だと感じた」――ここには「なぜ」がありません。感想です。
「対象者が自ら話し始めたのは、傾聴によって安心感が生まれた可能性がある」――ここには「なぜそうなったか」を事実にもとづいて説明しようとする姿勢があります。考察です。
文末の表現にも、目印があります。「~と感じた」「~を学んだ」「~と思った」で終わる文は感想のサインであることが多く、「~と考えられる」「~が示唆される」「~の可能性がある」で終わる文は考察のサインであることが多いのです。
看護学系の学会が公表している査読基準でも、考察に求められるのは「得られた結果に基づいた解釈をしているか」「研究目的に沿った考察で一貫性があるか」という点です。求められているのは「感じたこと」ではなく、「結果からの解釈」なのだということが、ここからもわかります。
小さなコツ2
二つ目は、結果と考察を混ぜてしまう、もう一段具体的な問題への対処法です。
考察が感想になってしまう背景には、いくつかの決まったパターンがあります。
パターンA:結果に書いたことを、考察欄でそのまま繰り返してしまうパターンです。「Aさんは、入院3日目から表情が和らぎ、自ら話しかけるようになった」――これは結果です。同じ内容を考察欄にもう一度書くだけでは、考察にはなりません。「なぜ3日目だったのか」「何が変化を促した可能性があるのか」まで踏み込む必要があります。
パターンB:「大切だと思いました」という言葉で締めくくってしまうパターンです。その気持ち自体は嘘ではありませんが、「なぜ大切だと言えるのか」という根拠が抜けています。考察とは、その「なぜ」に、結果の事実と文献の知見を使って答える作業です。
パターンC:理論を持ち出して、当てはめだけで終えてしまうパターンです。「〇〇理論によれば△△である。本事例でも△△が見られた。よって理論が適用できる」――これは理論の確認であって、考察ではありません。出発点はあくまで自分自身の結果であり、そこで生まれた「なぜ」を考える途中で、理論や文献を補助的に使うのが本来の順番です。
これを避ける簡単な方法として、結果欄に書いた事実を一つ選び、その横に「→なぜ?」と書き添えてみるという手があります。
「入院3日目から、対象者は自ら話しかけるようになった」という結果であれば、「→なぜ3日目だったのか」「→1、2日目と何か違いがあったか」というように、自分に問いを重ねていきます。
この問いに対する自分なりの答えが、考察の種になります。
文献が見つからなくても、「なぜ」に答えようとすること自体が、感想と考察を分ける最初の一歩です。
これらはあくまで入り口の小さなコツにすぎません。
事例をどう選び、どう骨組みを立て、考察をどこまで深め、文献をどう探し、倫理的配慮をどう実務に落とし込むかについては、もう少し体系立てて整理しておく必要があります。
3. 最後に
この記事では、「考察を書いたつもりが感想文になってしまう」という、事例報告でもっとも多いつまずきの一つと、その乗り越え方の小さな入り口だけをお話ししました。実際には、「どの事例を選べばいいか分からない」「文献をどう探して引用すればいいか分からない」といった、もう一段具体的な悩みが、この先にたくさん控えているでしょう。
そこで、看護・介護・福祉の現場で働く方が、肩の力を抜いて読める本を書きました。難しい専門用語や、いかめしい理論はできるだけ使わず、「なるほど、それなら書けそう」と思える言葉だけを選びました。
記事を読んで「もう少し深く知りたい」と思ったときに、手に取ってみてください。
【事例報告の書き方】 書き出せない、タイトルが決まらない、何を書けばいいか分からない——事例報告(事例検討、症例報告、ケーススタディ、事例研究)に向き合うすべての支援職へ。
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引用文献
尾道市立市民病院. (2025). 「当院看護師の看護研究への困難感に対する意識調査」. https://www.onomichi-hospital.jp/upload/medimaga/1774943546.pdf
兵庫県看護協会 看護実践研究会. 「査読基準(研究報告・実践報告)」. https://www.hna.or.jp/archives/001/202201/6_査読基準(研究報告・実践報告).pdf
