ブラジル旅行は「五輪書」だった
「アマゾン行く人、この指と~まれ!」と家族会議にかけたら、満場一致で否決された。
ブラジルは遠いし、旅行費は高いし、ポルトガル語は分からないし、治安もすこぶる悪いらしいし、諦めるのが理にかなう。
しかし、心の中の行きたい気持ちがそうはさせない。
世界第5位の広大な国ブラジル。地球上の10分の1の生物種が生息する命の宝庫アマゾン川流域、世界3大瀑布のひとつイグアスの滝、そして世界遺産のリオデジャネイロ、、、私は行きたくて仕方ない。たとえ単身でも行ってやる!
そんな思いから、日本にある中南米専門の旅行社(株)ラテイーノLATINOに、オーダーメードの旅行を依頼することにした。
ところが、見積をしてもらうと(おひとり様)料金が、存外割高だった🫢
そこで私は、冒険と自然を満喫する「ジャングルロッジ」から「スペインの大手ホテルが運営するクルーズ船」に方針転換し、主人の調略に成功!めでたく夫婦揃ってブラジル行きが確定した。
それにしても外務省から「危険レベル1 十分注意」が発出されているブラジル。
出発前からあらゆるソースで「治安が悪い、危険な国」と洗脳される。
世界平和度指数上位のスイス在住者にすれば、なぜ歩きスマホが厳禁なのか、貧民街には絶対近づいてはならない、と言われてもピンとこなかった。
しかし、現地に着いたらイッペンに分かった。
丘の中腹にぎっしり建ち並ぶ不法建造物ファベーラ(スラム街)、夜間に寝ているとヘイトクライムで火を放たれたりする危険があるので日中見通しの良い道路脇で寝ているホームレスの人たち、10人ほどの不良ティーンエージャーがたむしている時はスリや路上強盗の可能性大、不法侵入を阻止する鉄の柵でガッチリ守られている個人所有の住居やオフィスはまるで <カゴの中の鳥> のようで息苦しさや閉塞感を感じずにはおれない。
目に入ってくる情報が過激過ぎてあっちこっちをキョロキョロ見回していると、ブラジル生まれの日系のガイドさんが「スイスには防犯柵なんてないですよね。ブラジルではまず危険を避けることが大事です」と言われ
(宮本武蔵の兵法みたいだ)と思った。
現地事情に精通しているカリオカ(リオっ子)の彼女でさえ、暗くなったら最寄りのメトロの駅から自宅までUberを呼んで帰宅されるらしい。スマホも5回、引ったくられたそうだ。
ファベーラでは銃撃戦が起こったり、秩序を乱した者は人知れずいなくなったり(死んだり😱)することもあるので絶対、近寄らないとおっしゃった。
ただ、ファベーラはマフィアの親分を頂点に住民同志の連帯感が強く、ひとたびコミュニテイーに迎えられると生活は出来る。
ガイドさんの知り合いの日本人が実際にファベーラで6年間暮らし、ブラジル伝統スポーツ「カポエイラ」を習得して帰国されたとのこと。
ファベーラでブラジリアン格闘ダンスか、、、私も太極拳講師の端くれ。なんだかちょっぴり羨ましい。
閑話休題。
スマホが狙われる理由はすぐに換金できるから。特に日本人は iPhoneを持っているので格好のカモ。良かれと思って貴重品の入ったリュックを前で抱えるのは、正しく「カモがネギを背負って来る」行為に他ならない。
とにかく相手は日夜、研鑽を重ねる窃盗のプロ。私たちに勝ち目はないのか??
ここまで書くと、スリや置き引きだけでなく殺人までが、日常的に起こり得る街であることを思い知らされる。
しかし、私たちに起こったこんな「美談」もある。
ホテルでタクシーを呼んでもらいコパカバーナ要塞まで出かけた。帰りはビーチ沿いを散歩してホテルへ帰ったのだが、主人がメガネをなくしたと大騒ぎした。
思い当たるのはタクシーの車内でクレカ払いをした時だけだ。
もしかしたら明細書に運転手の氏名が記載されているかも知れぬと慌ててロビーへおりて行くと、ニコニコ顔のスタッフが「これですか?」と主人のメガネを出してくれた。
ドライバーさんがすぐに気付いてホテルへ届けてくれたそうだ。
リオに到着して以来「怖い、怖い」と縮こまっていた心がトロ~リと溶けた瞬間だった。
安全対策を考えるのも大切だが、本当にすべきは文化や習慣を理解してその場の空気を読むことではないだろうか?
平和ボケしていても、通りが急に暗くなる場所はヤバそうだと肌で感じる。
また、人通りの多い明るい場所でも、視線が刺さるとか何か違和感があるはずだ。
シュハスコ料理をお腹いっぱい食べ終えて店から出ようとした時、レストランの人から「懐中物には気をつけて」と言われてハッとした。
一瞬の隙、気のゆるみ、、、、
そうか!ブラジル旅行は、初めから宮本武蔵の「五輪書」だったのだ。
旅行プランを変更したのは「火の巻」に書かれている勝負における兵法。
タクシードライバーとホテルのスタッフの連携で主人のメガネが返ってきてカリオカの優しさに触れることができたのは「見えない内面を見る目」が語られる「水の巻」。
先ほど「プロの泥棒に勝ち目はない」と書いたが、もしかしたら、宮本武蔵が言うように「能く能く分別有べし。工夫すべきもの也。」で勝機がもたらされるやも知れぬ。
いつも間にか、出発前の「治安の悪い、危険な国」が、忘れ物を届けてくれたあのタクシードライバーさんのいる国に変わっている。
陽気で優しいカリオカ(リオっ子)のみなさん、本当にありがとうございました。
、、、宮本武蔵が最後に到達したのも、単なる兵法ではなく、人を信じる「道」そのものだったのかもしれない。
