あるOL彼女Ø 〜My Favorite Time〜ある休日
休日の昼下がり、しおりと夢乃は丸テーブルに座りながら、会話を楽しんでいた。
いや、『楽しんでいた』は言い過ぎかも知れない。
元々、しおりの冷蔵庫に「定番として鎮座している」プリンが元でこうなってしまったのだから。
「ただいま…買ってきたよ、例のやつ。しかし、よくこんな急な坂道の処に住んでるねぇ。私だったら3日もしないうちに引っ越すよ」
「わざわざこんな処までやって来て、人んちの冷蔵庫開けて『私のプリン』を食べたからでしょ?」
「『私の』とは大袈裟だなぁ、確かに美味しいけど…名前書くか、フツー?」
「夢乃が、来る度に食べるからでしょ?最初は、ココで売ってるよって、教えただけじゃない」
「毒見も兼ねてひと口って。いやぁ、さすが『コンビニグルメしおり』のことだけあって、美味しいよコレ」
「だったら来る時、買ってくればいいでしょ?」
「ココ(冷蔵庫)にあったら、ダブるでしょ?それに冷えてないし」
「呆れた。100%確信犯じゃない?わざわざ冷えた方を選ぶなんて」
「誰だって、生ぬるいプリンより冷えたプリンのほうが、美味しいに決まってるっしょ?」
しおりは「(もうコレ以上言ってても、時間の無駄だ。せっかくの冷えたプリンが、ぬるくなってしまう。食べよう)」と、ココロで呟きながら、プリンにスプーンを入れた。
事の発端は、他ならぬしおりの勘違いから始まったのだから…。
朝、いつものように、目が覚めて気がついた。
「…?、いつもより明るい」
ベッドサイドの目覚まし時計に目をやると『AM 7:35』の表示。
「えぇっ?やっば…遅刻じゃない!」
そのままシャンプードレッサーで洗顔&歯磨き。出勤時のルーティンだった。
ただ一つ違うのは、毎朝『AM6:40』にしている事が、今日に限って『AM 7:40』だった。
「(まだ、研修期間なのに遅刻はマズい)、ちゃんとアラームが鳴ったのかなぁ」
その時、ふとスマホの画面に目をやって「?」と思った。
「◯月◯日(土)…(土)…?」
歯ブラシの手が止まる。「土曜日…?」
「(なぁんだ、休みじゃない)」歯ブラシのペースがいきなり遅くなる。
カッと見開いた目が、休日モードになる。
「道理で目覚ましのアラームもスマホのアラームも鳴らなっかたワケだ」
妙に納得して、力が抜けたしおりはそのまま二度寝しようとしていた。そこにLINEが入っていたのに気づき、しかも発信元は夢乃からだった。
「おっはよう〜、いい天気だねぇ。どっか出掛けない?」
やれやれ、夢乃はちゃんと休日モードになっているのに、私だけ「出勤モード」のままとは…。
「…おはよ、遅刻確定でどう言い訳しようか考え中だった。二度寝をしかけた途中…」
「えぇっ?今日、土曜日だよ。真面目だなぁ、しおりは」
「まだ、脳が半分寝てる…」
「だめだこりゃ…じゃあ、そっち行っていい?どうせ、ボーっとした休日を堪能しようとしてるんでしょ?」
「(……何しに来るわけ?ボーッとした休日を堪能するのが悪いとでも?)それとも、休日はあたしんちで過ごすのが、夢乃の休日の過ごし方なの?」ボサボサのお団子頭をかきながらしおりが言う。
「あの坂はキツいけどねぇ…で、コンビニで買ってくのは、いつものでいい?」
「(そこまでして来るか、フツー?)」スマホ越しにウンウンと頷くしおり。
やがて小一時間ほどして、玄関のチャイムが鳴り、手に駅前のコンビニ袋を下げた夢乃がやってきた。
「相変わらずキツいね、ここの坂。…自転車は必須アイテムだわ」
少々、息を切らし気味に夢乃が言う。
「…お疲れ〜。そんなウチに来るのが難儀じゃ、何も無理して来なくても、いいんじゃない?」
しおりはコンビニ袋を受け取り、手際よく冷蔵庫にしまっていく。
「あ〜、そういう言い方はよくないと先生は思います!」サンダルを脱ぎながら、夢乃が言う。
(って、誰?先生って…?)てさ、休日の度にLINEしてきて『暇でしょ?どっか行こうよ』って定型文送ってきて、その度に冷蔵庫のプリンを食べに来るんだから、ホントに何が目当てなんだか…。
冷蔵庫の中から「缶酎ハイ」を取り出し、ハイと夢乃に手渡す。
夢乃の方はリビング奥にある「ソファーの指定席」にもたれかかり、
「サンキュ!まぁ、とにかく乾杯!!」と、休日の午後を楽しみ始めた。
「相変わらず、はやいね」
あまり酒が得意でないしおりは、麦茶をマグカップに入れ『乾杯のふり』をした後、窓からの海岸線をぼんやり見ていた。
夏を待つセイルのように 君のことを…ずーっと…
ずっとずっと思っているよ
太陽の彼方 いっぱい
失敗ばかりしたけど…
……ひとつに向かっているよ
そこには夢があるから
「…相変わらず、浸ってるねぇ」
CDからの曲を鼻歌交じりで歌うしおりに、夢乃が言う。
「いいんだなぁ、ZARD。特に、この曲」うっとりしたような感じで、しおりが言う。
「しおりらしいっちゃ、らしいよね。いまや時代はストリーミングの時代だってのに、まだCDで聴いてる」
「CDだからいいんじゃない。ホントはレコード盤で聴きたいくらい」
「昭和の喫茶店じゃあるまいし、レトロだねぇ」持ってる缶を揺らしながら、夢乃が言う。
「いいんだ、私はこの方が好きなんだから」
この頃になって、しおりは『夢乃が缶を揺らしているのは、駆けつけ二杯目を示唆している事』に気づき始めていた。
自分の缶酎ハイと夢乃の分を持ってきて、テーブル越しに座ったあと、しおりはようやく「ホントの乾杯」をする。
「…ふぅ〜」一口呑んでテーブルに置く。そしてまた、窓越しに海岸線に目をやるしおり。
どことなく牧歌的で、ホノボノとしたしおりの表情をみて、夢乃はつぶやく。
「…しおり、変わったね」
「…?、わたし?何が?」すっとんきょうな面持ちでしおりは問いただす。
「なんかさ、やっと大人になって来たっていうか…最初は毎日、屋上のテラスで泣きながらお弁当食べてた新人さんだったじゃない?」
「毎日なんて失礼だなぁ、ときたまよ」
「あれから進化したって、あたしゃ思うわけよ。卵焼きとタコさんウインナーの手作りお弁当…。美味しかったもんなぁ」天井からつるされたシェードランプを見ながら、夢乃が言う。
「あの時は、何が起こったのかサッパリわかんなかった。気持ちがスッと軽くなったかと思えば、そこから『白ご飯だけのお弁当箱』。正直、悪夢かと思った」半分、呆れ顔をしながら(しかし微笑みも交えた)しおりが言う。
「あれから半年、研修期間も無事終え、今じゃ立派な生え抜き社員じゃない?その立派な姿を見て、先生は感動してるわけよ」芝居臭く夢乃が言う。
「(だから、だれが先生なんだか…)あの時、逢ってなかったら何にも変わんなかったのかもしれないね。数日後、机の上に『退職届』があって私の席は『空席』になってた…とか」微笑みながらしおりが言う。
「誰のおかげかなぁ?」意地悪っぽく、しおりを覗き込むように夢乃が言う。
「おかず泥棒!」生徒が先生を見る様に、夢乃を見てしおりが言う。
「何ですと!?」おどけた表情の夢乃が言う。
何気ない彼女たちのある休日の駄話のワンシーン。
『ケ・セラ・セラ』
⋯ある二人のOLの物語。全てはその言葉から始まりました。
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