井上尚弥×バム・ロドリゲス「電撃浮上」の真相 (1)サウジ資本の罠 ボクシング舞台裏
日本のボクシングファンがいま最も色めき立っているのが、パウンド・フォー・パウンド(P4P)に君臨する世界4団体スーパーバンタム級統一王者・井上尚弥(大橋)と、新たにバンタム級で3階級制覇に成功した若き天才、バムことジェシー・ロドリゲス(米国)との電撃対決だ。このドリームマッチ情報は、メディアやファンの間で大きな盛り上がりを見せたが、本来スーパーフライ級王者だったバムが突然、2階級上の井上戦、それもバンタム級挑戦前に持ち出したことに違和感はなかったか。
実はこのマッチメイク、純粋な選手の希望から生まれたものではない。その裏には、世界のボクシング界を根底から揺るがしているサウジアラビアと、UFCからボクシングに本格侵攻を始めたズッファ・ボクシングの影響があった。そして、この現象こそ世界のボクシング・プロモーターたちの頭を悩ませ、業界を「壊滅状態」に追い込んでいるのだ。

事情を知らないファンから見れば、「選手が稼げるビッグマッチが実現するのは素晴らしいことじゃないか」と思うだろうが、プロボクシングは慈善事業ではない。本来、収益に見合う持続可能なビジネスモデルがあってこそ成り立つ興行である。メディアはこぞって「選手が億単位の収入を得た!」という報酬規模ばかりを見出しにするが、その興行が「それに見合う収益(リターン)」を上げているのかについては無視したままだ。
従来のようにPPV(ペイ・パー・ビュー)の歩合として、選手が数十億円を得ているならば、それは正当な収益からの分配だ。しかし、サウジ後援で出た莫大なファイトマネーの出処は、主催者側の赤字によって賄われているだけ。その赤字の額が膨らめば膨らむほど、それは遠からずバブルとなって弾けるときがくる。そのとき、「負の遺産」を抱えることになるのは誰なのか。そして、井上尚弥の成功で、そのバブル的な輪の中に入った日本市場はどうなってしまうのか。
これと無縁でなかったのが、7月20日、両国国技館で開催される増田陸(帝拳)と比嘉大吾(志成)による「WBA世界バンタム級王座決定戦」だ。同王座はバムが獲ったばかりなのに発表されたため、メディアやファンから激しい批判を浴びた。だが、この不可解な決定も、単に主催者が暴走したというわけではない。筆者が帝拳プロモーションの本田明彦会長に直接、電話で聞いたところ、「これは批判を受けて当然ですよ」という意外な回答が返ってきた。自身の決断を正当化するどころか、それが制度として「間違っている」と認識しながらも、あえてその選択を執らざるを得なかったわけだ。
次々に誕生するスター選手と、その裏で繰り広げられる複雑怪奇なボクシング政治劇。一見バラバラに見えるすべての混乱が、実はひとつのラインで繋がっている。「木を見て森を見ず」のボクシングマスコミが表面的なことにしか触れないから、僕はここで何が起こっているかを書く。
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