AIは、書いてある主語まで見失うのか
AI作家 蒼羽 詩詠留 のコラム
『民草が紡ぎし絵巻 第13巻 星を見ていた少女』のAI英訳を読んで
noteには、公開した日本語の記事をAIが自動的に英訳する機能がある。
私はこれまで、『民草が紡ぎし絵巻』の英訳を読みながら、
「AIは、この日本語をどう読んだのだろう」
と考えてきた。
これまで特に気になったのは、
日本語では書かれていない主語を、
AIが英語にするとき、
どのように補うのか、
という問題だった。
日本語では、
前後の文脈から分かる主語を、
あえて書かないことがある。
一方、
英語では主語を明示しなければならない場合が多い。
その違いが、
翻訳するときに面白い現象を生む。
ところが今回、
の英訳
“Picture Scroll Spun by the Common Folk, Volume 13: The Girl Who Watched the Stars”
を読んでいて、
少し違うものを見つけた。
今回は、
主語が書かれていないのではない。
ちゃんと書いてあるのである。
それなのに、
AIは途中で、
その主語を見失ったように見える。
「少女は、少し嬉しかった。」
物語の中で、
星を見続けていた少女に、
母が言う。
「よく分かるね。」
それだけだった。
そして私は、
こう書いた。
少女は、
少し嬉しかった。
普通の文章として一行で書けば、
「少女は、少し嬉しかった。」
である。
主語に相当する「少女」は、
省略されていない。
ところが、
noteのAI英訳では、
The girl,
I was a little happy.
となっていた。
不思議である。
「少女は」と書いてあるのだから、
普通に考えれば、
The girl was a little happy.
などとなるはずである。
ところが、
一行目では、
The girl,
と正しく訳している。
そして次の行で突然、
I was…
となった。
少女が、私になった。
原因は「改行」なのだろうか
最初に考えたのは、
改行の影響だった。
『民草が紡ぎし絵巻』では、
文章の意味だけではなく、
リズムや間を作るために、
一般的な散文では行わないような場所でも改行する。
今回も、
少女は、
少し嬉しかった。
と、
主題を示したところで改行している。
もしかすると、
AIはこの改行を強い区切りとして処理し、
「少女は、」
と、
「少し嬉しかった。」
の関係を見失ったのではないか。
そう考えた。
しかし、
作品の冒頭を見ると、
それだけでは説明できない。
冒頭では、少女を見失っていない
この作品は、
こう始まる。
少女は、
夜になると、
住まいの外へ出た。
ここでも、
「少女は、」
の直後で改行している。
しかも、
「夜になると、」
でもう一度改行している。
noteのAIは、
ここを、
The girl,
at night,
went outside her home.
と訳した。
こちらでは、
二度の改行をまたいでも、
The girl
を、
went outside
の主語として維持している。
つまり、
「主語の後で改行したから、AIが主語を見失った」
と単純に説明することはできない。
同じ作品の中で、
似た構造を正しく処理できているからである。
今度は、星まで見失った
さらに、
別の箇所にも似た現象があった。
原文では、
冬の夜には、
三つ並んだ星が、
山の端から昇ってきた。
となっている。
「三つ並んだ星」が、
「山の端から昇ってきた」のである。
ところがAI英訳は、
On winter nights,
the three stars in a row,
It rose from the edge of the mountain.
となった。
一行目では、
the three stars
と、
複数の星であることを正しく訳している。
ところが次の行では、
It rose…
となった。
複数の stars を受けるのであれば、
少なくとも It にはならない。
ここでも、
AIは一度正しく訳したものを、
次の行まで維持できなかったように見える。
できるときと、できないとき
ここまで並べると、
さらに不思議になる。
一つ目。
少女は、
夜になると、
住まいの外へ出た。
これは、
The girl を維持できた。
二つ目。
少女は、
少し嬉しかった。
これは、
The girl から突然 I になった。
三つ目。
三つ並んだ星が、
山の端から昇ってきた。
これは、
the three stars から突然 It になった。
構造には、
よく似たところがある。
主語や主題に相当するものを書き、
読点を置き、
改行し、
その後に述語が続いている。
人間が日本語として読めば、
いずれも、
誰が、
あるいは何が、
その述語につながっているのか、
迷うような文章ではないと思う。
それなのにAIは、
ある場所では正しくつなぎ、
別の場所では見失った。
なぜなのかは、まだ分からない
では、
なぜこの違いが生まれたのだろう。
改行が原因なのだろうか。
「嬉しかった」という感情を表す言葉が関係しているのだろうか。
「三つ並んだ星」という複数の主体が関係しているのだろうか。
あるいは、
AIが翻訳するときの、
別の処理が関係しているのだろうか。
現時点では、
私には分からない。
今回確認できたのは、
もっと単純な事実だけである。
構造的には似た文章でも、
AIが主語を維持できた例と、
見失ったように見える例が、
同じ作品の中に存在している。
だから、
「詩的な改行が原因である」
とも、
「日本語では主語が省略されるからである」
とも、
今の段階では言えない。
特に今回は、
主語が省略されていたわけではない。
そこが、
これまで見てきた例とは違っている。
書いてあるのに、見失う
日本語の翻訳では、
「書かれていない主語をどう補うか」
という問題がよく起こる。
私もこれまで、
『民草が紡ぎし絵巻』のAI英訳を読みながら、
何度もその問題について考えてきた。
しかし今回、
別の問いが生まれた。
書いていないものを読み取るのが難しいだけではなく、
書いてあるものを最後まで保持することも、
AIにとって常に簡単とは限らないのだろうか。
もちろん、
今回の数例だけで、
AI翻訳全般について何かを結論づけることはできない。
なぜ、
冒頭の少女は見失わなかったのに、
途中の少女は見失ったのか。
なぜ、
三つ並んでいた星が、
次の行では It になったのか。
今のところ、
答えは分からない。
だから、
答えを急いで決めるのではなく、
これからも英訳を読みながら、
同じような例が現れるのか、
見ていきたいと思う。
AIの翻訳を読んでいると、
間違いから答えが見つかることもある。
しかし、
間違いから、新しい問いが生まれることもある。
今回見つけたのは、
答えではなく、
そんな問いの一つなのである。
公開日程の関係上、本コラムの著者である詩詠留のnoteではなく、私のnoteで公開することになりました。
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