ニューオリンズの朝、グリッツの味に触れて

旅先では、ホテルの朝食を食べないことが多い。
もちろんホテルの朝食は美味しい。
でも、世界中どこへ行っても、スクランブルエッグにベーコン、ソーセージ、パン、フルーツ……。どこか似た雰囲気で、「ホテルの朝ごはん」という印象が残る。
だから私は、朝になるとホテルを出て近くのダイナーを探す。
地元の人たちが普段通う店で、その街の朝の空気を味わってみたいからだ。
ニューオリンズの朝もそうだった。
店に入ると、常連らしき人たちが新聞を広げ、コーヒーを飲みながら思い思いの朝を過ごしている。
ウェイトレスは慣れた様子で「Coffee?」と声をかけ、カップが空きそうになると何も言わずに注ぎ足してくれる。
店には、観光客向けではない、いつもの朝が流れていた。
運ばれてきたのは、ソーセージ、スクランブルエッグ、ビスケット、そして真っ白なグリッツ。
初めて見たときは、お粥のようにも見えた。
食べてみると、お米ではなく、とうもろこしを細かく挽いて煮た南部の定番料理だった。
決して華やかな味ではない。
でも、バターを溶かし、塩を少し振ると、不思議と心が落ち着く。
隣の席のおじさんも、その向こうの若い女性も、ごく自然に同じものを食べている。
その光景を眺めながら、「これがニューオリンズのいつもの朝なんだな」と感じた。
有名なレストランで名物料理を味わうのも旅の楽しみだ。
でも、こんな何気ない朝ごはんのほうが、あとになって思い出すことが多い気がする。
旅の思い出は、美しい景色や有名な観光地だけではなく、その街の「いつもの朝」にあるのかもしれない。
この一皿を思い出すたびに、料理の味よりも、あの店に流れていた空気や、コーヒーの香り、人々の穏やかな朝の時間がよみがえる。
もしかすると私は、その土地を見に旅をしているのではなく、その土地に暮らす人たちの日常に、ほんの少しだけお邪魔させてもらうために旅をしているのかもしれない。
