本当にかなわなかったもの

僕には2歳年上の兄がいる。
子どもの頃の僕は、何かにつけて兄を目標にしていた。
鉄棒も、かけっこも、勉強も、兄に負けたくない一心で頑張っていた。
その中でも、僕は絵を描くことだけは自信があった。
兄も絵が上手かった。
やがて兄は芸術大学を受験し、見事に合格した。
そのとき兄の作品を見て、僕は圧倒的な実力の差を感じた。
「この人にはかなわない。」
そう思い、初めて大きな挫折を味わった。
大人になってから、兄と同じ似顔絵コンクールに応募したことがある。
テーマは有名人の似顔絵。
僕は当時もっとも活躍していた貴乃花を描き、大賞をいただいて景品もいただいた。
一方、兄は植木等の似顔絵を描いたが、入賞しなかった。
でも、兄の作品は桁違いに上手かった。
きっと絵の技術や似ているかどうかではなく、その時代を象徴する人物を描いたことが評価されたのだと思う。
だから、大賞をいただいても、心の底から喜ぶことはできなかった。
そんな僕とは対照的に、兄は自分のことのように心から僕の大賞を喜んでくれた。
その姿が、今でも忘れられない。
ふと思う。
もし、受賞したのが兄だったら、僕はあれほど素直に喜べただろうか。
あの日、僕が本当にかなわなかったのは、絵の上手さではなかった。
人の幸せを心から喜べる、その人間としての大きさだった。
