【詩】蝉時雨の夏
開かない扉しか
蝉は知らない
一度きりの夏を
ただ粛粛と時雨降らせる
あの扉はかつて開いた
彼らの絶唱が
土に埋まり 時を纏うころ
目覚めを待って
微睡むころ
営々と扉を開き、また扉を閉ざし
ひとびとは
遥か昔の焼きものや
美というものの似姿の間を
静かに巡り
賞賛を漏らし
ため息を届け
うつくしきものに
いのちを与え続けた
変わりない呼吸のように
この春に
突然その呼吸は絶えてしまった
もう二度扉は開かない
蝉は知らない
いつものように閉ざされている夏に
粛粛と時雨を降らす
聴いているのか
黴の匂いに包まれた
美しいものたちよ
光もささぬ 静寂のなかで
密かに息を継いでいるのか
蝉の声だけを まなざしのように
その身に浴びて
