八月の海で、また明日
八月下旬。
僕は家族と一緒に小さな島へ来ていた。
海沿いにある祖父母の家に泊まるためだ。
夏休みも終わりかけていて、観光客は少なかった。
海はまだ青くて、空も夏のままだったけれど、朝夕の風だけは少し涼しくなっていた。
僕は朝から暇だった。
両親は買い物に出かけ、姉は宿題をしている。
仕方なく、僕は一人で海へ向かった。
港の端で釣りをしていると、少し離れたところに同じくらいの年齢の男の子がいた。
麦わら帽子をかぶって、古そうな釣り竿を持っている。
僕がちらちら見ていると、向こうもこっちを見た。
「釣れてる?」
「まあまあだな」
そう言って、男の子は小さな魚を見せた。
「お前は?」
僕はまだ一匹も釣れていなかった。
「これからだから」
「ふーん」
なんとなく、その言い方が気に入らなかった。
「じゃあ、どっちが大きいの釣れるか勝負しようぜ」
男の子が言った。
「いいよ」
名前も知らない。
どこから来たのかも知らない。
それでも、僕たちは釣り竿を並べた。
しばらくすると、僕の竿が大きくしなった。
「きた!」
必死にリールを巻く。
海面から上がってきたのは、そこそこ大きな魚だった。
「どうだ!」
「……やるじゃん」
男の子は悔しそうに言った。
その顔を見て、僕は少し嬉しくなった。
するとしばらくして今度は、男の子の竿が大きく動いた。
「きた!」
僕より大きな魚だった。
「ふふん、勝ったな」
男の子は得意そうに笑った。
結局、それ以上のサイズの魚は釣れなかった。
「明日、もう一回やろうぜ」
男の子が言った。
僕は少し迷ってから答えた。
「いいよ。でも明日の夕方帰るから、朝になるけど」
「帰るのか」
「うん。明日が最後の日。だから明日は絶対勝つ」
「いや、明日も俺が勝つから」
僕たちは笑った。
僕は釣り竿を片づけて、
「じゃあ、また明日」
と男の子に声をかけた。
「おう、また明日」
道を歩きながら、名前聞いてなかったなと思った。
次の日。
僕は朝早く起きた。
両親に一声かけて、僕は急いで海へ向かった。
港には、まだ男の子はいなかった。
僕は昨日と同じ場所に座り、釣り竿を出した。
しばらく待っていると、後ろから声がした。
「早いじゃん」
振り返る。
昨日の男の子だった。
「今日は絶対負けないから」
「どうかな」
僕たちは昨日と同じように釣りを始めた。
その日は、昨日よりたくさん魚が釣れた。
でも、大きな魚は意外と少なかった。
「これは大きさ微妙だな」
「引き分けかな。さすがに帰らないと」
男の子がそう言って、海を見た。
「そうだ、名前教えて欲しい」
僕は聞いた。
「ダイキ」
「ダイキか。僕はシュウヘイ」
「じゃあダイキ。また来た時、勝負しない?」
「いつ来るんだよ」
「来年」
「来年?」
僕は海を見ながら言った。
「うん。ここ僕の田舎だから。夏に毎年遊びに来てるんだ。きっと来年も来ると思う。」
「じゃあ、来年までに俺鍛えておくわ」
「僕も練習する」
僕たちは拳を突き出して、約束した。
その日の夕方、僕は島を離れた。
船の中から港を見ると、男の子が手を振っていた。
僕も手を振り返した。
僕たちはきっと、また来年、ここで勝負する。
「次は絶対、負けないからなー!!」
八月の海に、僕の大きな声が響いた。
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