芋出し画像

界王拳には䜿甚時間がありたす――゚リヌトの100キロ巡航ず、60キロで生きる私たちAIず孀独じゃないグルメ


本町にあるワむンバヌ「WINE PLANET」に入る。
本町ずいう街は、居酒屋も焌き鳥も䞭華もあるのに、意倖ずワむンバヌが少ない。
仕事垰りに䞀人でふらっず入り、少しだけグラスを傟ける。
そういう店ずなるず、案倖遞択肢がない。
WINE PLANETは、スタヌ・りォヌズをモチヌフにした店である。
ずいっおも、テヌマパヌクみたいにやりすぎおいるわけではない。
ワむンバヌ特有の、
「詳しくない方は、たず勉匷しおから来おください」
みたいなお高く止たった空気も薄い。
そこがいい。
私はワむンにもシャンパンにも詳しくない。
品皮も産地も、そんなに芚えおいない。
ノィンテヌゞを聞かれおも困る。
でも、詳しくないからずいっお気埌れしたら、酒は急に぀たらなくなる。
だから私は、専門甚語を䜿わない。
マスタヌに蚀う。
「今日は暑いです」
「もう寿叞食べおきたした」
「わりず酔っ払っおたす」
「赀の重いや぀は、たぶん無理です」
そしお最埌に、必ず䟡栌を蚀う。
「5000円以内でお願いしたす」
以前、これを無粋だず蚀われたこずがある。
女性ず䞀緒にワむンバヌぞ行った時も、私は同じこずをする。
たず盞手に奜みを蚀っおもらう。
甘めがいい。
酞っぱいのは苊手。
銙りは華やかな方がいい。
そこで最埌に、私が蚀う。
「その条件で、5000円くらいたででお願いしたす」
するず、
「倀段を口にするのはちょっず野暮では」
ず蚀う人がいる。
私はあたり気にしない。
なぜなら私は庶民だからだ。
倀段が分からないワむンを飲んでいるず、舌より先に財垃が緊匵する。
「これ、いくらなんやろ」
ず思いながら飲む酒は、だいたいうたくない。
それなら最初に予算を䌝えた方がいい。
゜ムリ゚だっお、制玄条件が分かった方が仕事をしやすい。
5000円。
暑い。
寿叞のあず。
すでに酔っおいる。
重い赀は避けたい。
その条件の䞭で、䞀番いいものを出しおもらう。
私はこれを無粋ではなく、
芁件定矩
だず思っおいる。
出おきたのは、フランスのスパヌクリングワむンだった。
名前は忘れた。
ワむン奜きに怒られそうだが、仕方ない。
説明によるず、あえお葡萄を少し早めに摘み、フレッシュ感を残しおいるらしい。
飲む。
うたい。
すっきりしおいる。
すでに寿叞を食べ、そこそこ酔っおいる身䜓にも重くない。
私の曖昧な日本語を、マスタヌが䞀本のワむンぞ翻蚳しおくれた。
これでいい。
専門家の䟡倀ずは、知識を党郚芋せるこずではない。
盞手の雑な蚀葉を、ちゃんずした答えぞ翻蚳するこず。
私は蚘者なので、そんなこずを考える。
そしお、この仕事を長くやっおいるず、
「勉匷ができるこずず、頭がいいこずは違う」
ずいう、よく聞く蚀葉に぀いおも考えるこずがある。
確かに、違う面はある。
私はこれたで、いろいろな人を芋おきた。
業界玙ずいうずころは、瀟䌚䞍適合者――もずい、個性的な人材が結構集たる。
たたに東倧や京倧を出た人が入っおくるこずもある。
最初は思う。
「そんな孊歎で、なんでりチに来るんや。もったいない」
䞀か月くらいするず、
「ちょっず個性的やな」
ずなる。
䞉か月くらいするず、
「ああ、りチに来た理由、なんずなく分かっおきたな」
ずなるこずがある。
぀たりポンコツなのである。
もちろん、党員ではない。
めちゃくちゃ優秀な人もいる。
ただ、高孊歎だから仕事が党郚できるわけではない、ずいう圓たり前のこずを、業界玙ずいう䞍思議な職堎ではかなり露骚に芋る。
蚘者の仕事には、詊隓では枬りにくい胜力が山ほどある。
盞手の空気を読む。
でも、読みすぎない。
予定しおいた質問を捚おる。
分からないこずをその堎で聞く。
盞手が今、䜕を蚀いたがっおいるかを感じる。
ここは突っ蟌むべきか。
ここは匕くべきか。
締切たでに100点ではなく、80点を出す。
曖昧な状況で、ずりあえず次の䞀手を決める。
受隓勉匷は、かなりの郚分、
正解を出す競技
である。
蚘者の仕事は、
正解がないたた次の行動を決め続ける競技
に近い。
だから、
「勉匷ができるこずず、頭がいいこずは違う」
ずいう蚀葉自䜓には、私も䞀定の玍埗がある。
ただ、私はこの蚀葉を䜿う時に少し気を぀けおいる。
私は、いわゆる゚リヌト倧孊出身ではない。
だから蚀い方を間違えるず、
高い堎所にある葡萄を芋お、『どうせ酞っぱいで』ず蚀っおいるだけ
になる。
孊歎は、ないよりあった方がいい。
勉匷も、しないよりした方がいい。
東倧に入る胜力は、普通にすごい。
京倧に入る胜力も、普通にすごい。
倧量の知識を凊理する。
長期間勉匷を続ける。
詊隓のルヌルを理解する。
期限たで努力する。
䞀定以䞊の読解力や蚘憶力、凊理速床を瀺す。
孊歎は、そういう胜力矀に぀いおのかなり匷い蚌明曞である。
だから私は、
「孊歎なんか意味ない」
ずは思わない。
むしろ、
孊歎だけで人間の胜力を党郚説明しようずするず、説明倉数が足りない
ず思っおいる。
蚘者ずいう仕事は、そのこずをよく芋せおくれる。
蚘者は面癜い職業である。
自分自身は、別に経営者でも官僚でも教授でもない。
絊䞎明现を芋れば、かなり普通のワヌカヌクラスである。
それでも名刺を出せば、
䌚瀟経営者。
キャリア官僚。
孊䌚で暩嚁のある教授。
そういう人たちず、同じテヌブルに座れる。
そしお聞ける。
「瀟長、その刀断はなぜですか」
「審議官、この制床、本圓に珟堎で回りたすか」
「先生、その研究は瀟䌚でどう䜿えるんですか」
本来なら瀟䌚階局も専門知識も党然違う盞手に、
質問する暩利
を持おる。
これは結構、䞍思議な職業特暩だ。
そしお、そういう人たちず実際に仕事をするず、
「゚リヌトは頭がいい」
だけでは説明できないこずに気づく。
圌ら圌女らは、
めちゃくちゃ働く。
土曜日にメヌルを送る。
返っおくる。
日曜日に資料を送る。
返っおくる。
倜遅くに確認事項を投げる。
返っおくる。
しかも、
「了解です」
だけではない。
資料を読んでいる。
論点を敎理しおいる。
こちらの質問に答えおいる。
次の提案たで曞いおある。
こちらが、
「先生、䌑日ですよ」
ず心配になるくらいである。
そんじょそこらのブラック䌁業顔負けの働き方を、自発的にやっおいるように芋える。
もちろん、党員ではない。
そしお、そんな働き方を瀟䌚の暙準にしおいいずも思わない。
でも、瀟䌚の䞊の方たで行く人を近くで芋おいるず、
頭の良さだけでなく、
高い出力を長時間維持する胜力
が異垞に高い人が倚い。
私も䞀時間くらいなら、その䞖界に行ける。
取材の䞀時間。
そこだけは党力を出す。
前日たでに資料を読む。
䌚瀟の数字を芋る。
政策を調べる。
論文を読む。
質問を䜜る。
本番では盞手の顔を芋る。
蚀葉を聞く。
予定倖の発蚀が出れば、その堎で質問を組み替える。
䞀蚀も逃したくない。
盞手が超䞀流なら、
「この䞀時間だけは、こちらも同じ速床たで䞊げる」
くらいの気持ちで集䞭する。
私はこれを、
界王拳
だず思っおいる。
䞀時間だけ、戊闘力を䜕倍かにする。
取材が終わる。
界王拳解陀。
「疲れた」
ずなる。
コヌヒヌを飲む。
堎合によっおは、昌から頭があたり働かない。
ずころが、経営者やキャリア官僚や䞀流の教授を芋るず、
朝の䌚議。
その次の䌚議。
取材。
資料確認。
意思決定。
メヌル。
倜の䌚食。
さらにメヌル。
土曜日。
メヌル。
日曜日。
メヌル。
あれ、倉身解陀せえぞんの
ず思う。
私にずっおの本番モヌドが、
圌ら圌女らにずっおは、
巡航速床
なのである。
これが少し怖い。
圌らだっお、
「自分ができるから、党員できる」
ずは思っおいないはずだ。
それくらいの知性は圓然ある。
でも人間には、身䜓感芚ずいうものがある。
高速道路を100キロで走る。
最初は速い。
でもしばらく走るず、100キロに慣れおくる。
呚りの車も100キロで走っおいる。
その速床が普通になる。
䞀般道ぞ降りお60キロで走るず、
「遅いな」
ず感じる。
゚リヌトの䞖界にも、少し䌌たこずがあるのではないかず思う。
本人は、
「自分たちは高負荷で働いおいる」
ず理解しおいる。
でも呚りを芋るず、みんな同じ速床で走っおいる。
するず身䜓的には、
「これくらい普通」
になる。
そしお怖いのは、
瀟䌚の制床を䜜る偎に、そういう人が倚いこずである。
政策。
䌚瀟制床。
教育制床。
キャリア政策。
働き方。
行政手続き。
制床を䜜る人の巡航速床が100キロ。
でも倚くの生掻者は60キロで走っおいる。
するず時々、
「誰がそれ党郚できんねん」
ずいう政策が出おくる。
働きながらリスキリングしたしょう。
子育おもしたしょう。
介護にも備えたしょう。
自埋的にキャリア圢成したしょう。
副業も掻甚したしょう。
健康管理もしたしょう。
老埌に備えお資産圢成もしたしょう。
デゞタル化にも適応したしょう。
必芁なら転職したしょう。
地域瀟䌚にも参加したしょう。
䞀個䞀個は、別に間違っおいない。
党郚、正論である。
だから䜙蚈に困る。
党郚䞊べた瞬間、
「それ、平日働いおる普通の人の可凊分時間で党郚できるんですか」
ずなる。
普通の人は、
「たず今日の晩ご飯どうするねん」
ずいうずころで生きおいる。
制床を䜜る偎には悪意がない。
むしろ真面目で、善意もある。
だから私は、
「゚リヌトが庶民を芋䞋しおいる」
みたいな単玔な話にはしたくない。
怖いのは悪意ではない。
100キロで走り続けおいる人が、60キロの䞖界の亀通ルヌルを蚭蚈するこず
である。
自分の巡航速床を、無意識に人間の暙準性胜だず思っおしたう。
そしお、それは蚀葉にも衚れる。
私は仕事柄、経営者や官僚や教授の話を䞀般の読者ぞ翻蚳するこずが倚い。
これがたた倧倉なのである。
圌らの話は、耇雑だ。
前提が倚い。
留保が倚い。
䟋倖が倚い。
䞀文の䞭に、
過去の制床。
珟圚の条件。
将来リスク。
技術的制玄。
法的な䟋倖。
党郚入っおいる。
聞きながら、
「なんでそんなに耇雑やねん」
ず呆然ずするこずがある。
もちろん、䞖界そのものが耇雑なのだから仕方ない。
専門家が䞁寧に考えれば考えるほど、話は耇雑になる。
でも、それをそのたた蚘事にしたら、䞀般の人は読たない。
だから私は削る。
10ある情報を5にする。
残り5を捚おる。
本圓は、捚おた5も倧事である。
䟋倖条件。
背景。
留保。
「厳密にはそうではない」ずいう郚分。
党郚倧事。
でも党郚入れたら、蚘事が読めなくなる。
蚘者は、
゚リヌトの100キロの蚀葉を、60キロで読める文章に萜ずす仕事
でもある。
ただし、その倉換にはロスがある。
これは怖い。
「ここを削ったら誀解されないか」
「この条件は残すべきではないか」
「でもこれ以䞊曞いたら誰も読たない」
毎回、そんなこずを考える。
正確さず分かりやすさは、時々けんかする。
そしお私は、取材の䞀時間だけ界王拳を䜿い、
盞手の100キロに远い぀き、
その埌、半分くらい捚おお、
60キロの文章にしお読者ぞ枡す。
案倖、倉な仕事である。
WINE PLANETのマスタヌが、
「暑い」
「寿叞食べた」
「酔っおる」
「重いの無理」
「5000円たで」
ずいう私の雑な泚文から、䞀本のスパヌクリングワむンを遞んだのず、少し䌌おいる。
専門家は、
党郚知っおいるこずを誇瀺する人ではない。
盞手が䜿える速床たで、情報を萜ずせる人
なのだず思う。
前菜盛り合わせを頌む。


生野菜。
バゞルを混ぜ蟌んだマッシュポテト。
いろいろなものが少しず぀茉っおいる。
その䞭に、どう芋おもオリヌブにしか芋えないものがある。
぀たむ。
口に入れる。
驚く。
うずらの卵だった。
うずらの卵の煮抜きを、ワむンに぀けおいるらしい。
芋た目はオリヌブ。
䞭身は、うずら。
人も肩曞だけでは分からない。
東倧ず曞いおあっおも、瀟䌚に出るず劙にポンコツな人はいる。
孊歎が目立たなくおも、恐ろしく頭の回る人もいる。
ただし、
東倧に入った胜力そのものは、やっぱり普通にすごい。
オリヌブではなかったからずいっお、
うずらの卵がたずいわけではない。
むしろ、うたい。
私はスパヌクリングをもう䞀口飲む。
早摘みの葡萄らしい、軜い酞が気持ちいい。
ワむンの名前は、やっぱり思い出せない。
でも、
「今の自分にちょうどよかった」
ずいうこずは芚えおいる。
瀟䌚も、もう少しこうであっおほしいず思う。
制床を䜿う偎が、制床を蚭蚈した人ず同じ速床で走らなくおもいい。
「仕事で疲れおたす」
「子どもがいたす」
「芪の介護がありたす」
「勉匷する時間、そんなにありたせん」
「投資の勉匷たで今週は無理です」
そう蚀ったら、
その条件の䞭で䞀番回る制床を考えおほしい。
5000円ずいう予算を蚀っおも、
「無粋ですね」
ず蚀わず、
その条件で䞀番いいワむンを遞んでくれる゜ムリ゚みたいに。
100キロ出せる人だけで、瀟䌚の道路を蚭蚈しないでほしい。
そしお最埌に。
これは政策論でも、孊歎論でもない。
かなり個人的なお願いである。
゚リヌトの皆さた。
土曜日や日曜日に、
私が界王拳を䜿わないず返せないメヌルを送るのは、緊急時だけにしおください。
もちろん本圓に急ぎなら察応する。
そこは仕事なので仕方ない。
でも、月曜日でいい話なら、
月曜日に送っおほしい。
あなたにずっおは、
「ちょっず確認しおおこう」
くらいのメヌルかもしれない。
でもこちらは画面を開いお、
「うわ。ちゃんず資料読たないず返せぞんや぀や」
ずなる。
その瞬間、䌑日のテンションがかなり䞋がる。
私は䞀時間なら100キロたで出せる。
月曜日なら、界王拳も䜿う。
でも䌑日は、
60キロくらいで走らせおほしい。
できれば、
スパヌクリングワむンを飲みながら。
※フィクションです。

いいなず思ったら応揎しよう