”coffee break”ぬかるみの神様:札束と唾液で濡れるカウンターの掟
ひれ伏すフリして財布を暴く、それが夜の聖餐式。
ぬかるみの神様
札束と唾液で濡れるカウンターの掟

安物のコロンと加齢臭が混ざり合った生温かい吐息が、私の首筋にまとわりつく。深夜二時のカウンター越し、脂ぎった手で私の指を撫で回しながら、その男――昼間はどこぞの偉い役員様らしい――は、蕩けた濁った目で「ねえ、もっとサービスしてよ」と甘えた声を垂れ流していた。
「お客様、そんなに焦らさないでくださいまし」
私はわざと濡れたように瞳を潤ませ、男の耳元に唇を寄せて囁く。吐息を吹きかけると、男の喉仏が卑猥に跳ね上がった。馬鹿め。背筋に走るおぞましい悪寒を押し殺し、顔にはとびきり上等な淫靡の笑みを貼り付ける。
世間の無垢な連中はよく青臭い正義感を振りかざす。「客と店は対等だ」「なぜそこまでへりくだるのか」と。ちゃんちゃら可笑しくて、胃の腑のあたりが引き攣れる。
対等なわけがないだろう。こっちは最初から相手を人間として扱ってすらいないのだ。
客を「お客様」と呼び、床に頭を擦り付ける勢いで持ち上げるのは、相手を崇めているからじゃない。豚を最高値で出荷するために、せっせと甘い餌を食わせて太らせているだけだ。プライドなんていう何の足しにもならない紙屑を撫でて肥大化させ、全能感という名の快楽に溺れさせてやれば、男たちは自ら下半身を緩め、財布の紐をほどき、湯水のように金を吐き出す。
「お客様は神様」? ああ、そうさ。ただし、生贄を捧げられる側じゃなく、私たちの手のひらの上で転がされ、身ぐるみ剥がされる哀れな偶像としての神様だけどね。
私の膝に伸びてきた男の湿った手を優しく握り返し、胸の谷間にそっと誘導してやる。男の理性がぷつりと切れる音がした。すかさず、店で一番高いボトルのメニューを開いて見せる。
「ねえ神様……今夜は、私をもっと酔わせてくださる?」
喉を鳴らしてカードを差し出す男を見下ろしながら、私は舌先で唇を舐めた。ひれ伏して差し上げるわよ、あなたの骨の髄までしゃぶり尽くすその瞬間まで。
〈了〉
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