エッセイ「夏野菜の宴」
夏になるとね、庭の隅にある小さな畑で季節の野菜を収穫するんだよ。トマト、ピーマン、ナスなんかをね。それをまとめて料理して、縁側でビールを片手に食べるのが本当に好きなんです。まあ、アスパラガスだけはスーパーで買ってこないといけないんだけどね、ついでに魚屋にも寄って、あらかじめお願いしておいたものと一緒に持ち帰る。この時間からもう楽しくて仕方ない。
金属(かね)で出来た角形七輪にね、まずは少しの木炭で火を起こしたら、そこに主役の備長炭を入れて火を移す。角形七輪といっても、そんな大袈裟なものじゃないよ。焼き鳥屋にあるそれをもっと小さくしたようなものだ。備長炭というものは、確かに高価なんだけどね、火持ちが抜群に良くて、遠赤外線の働きっぷりが素晴らしいから、一度に使う量は少なくていいんです。道具の良さを知ると、かえって経済的でもあるんだよ。
火が落ち着いたら、まずはアスパラガスからいこうか。生のままオリーブオイルをサッと薄く絡めて、コンロの遠火の場所で転がしながらじっくりと育てるんだ。オイルの膜が中の水分を閉じ込めてくれるから、驚くほど瑞々しく焼き上がる。火から下ろした直後に塩をパラッと振れば、熱に弱いアスパラガスな香りがフワッと立ち上ってね、最高の一皿になる。
一緒に並べるピーマンもね、縦半分に切ってオリーブオイルを軽く塗ったら皮目からじっくり焼く。内側のくぼみに旨味のジュースが溜まってきたら、ひっくり返してさっと炙る程度で十分。これを器にどんと盛り付けて、レモンをきゅっと絞り、粗い岩塩を振る。オイルのコクと野菜の甘味に、程よい酸味と芯のある塩気が弾けて、もうこれだけでビールが進んでしまいますよ。
箸休めには、冷たい豆腐がいいんだ。小さめの角切りにしたトマトにあらかじめ塩を振ってね、五分ほど置いて旨味を凝縮させておくんだ。それを大葉と一緒に濃厚な汲み豆腐の上に載せて、少しのごま油をたらし、仕上げに黒コショウをパラっと撒く。カプレーゼ風の和風仕立てだね。大豆の強いコクとトマトの酸味、ごま油のパンチが一体になって、すするたびに口の中が潤って夏を感じるね。
ナスなんかはね、採れたての鮮度の良いものは香りがやたら立つからね、縦半分に切ったものをさらに五ミリ幅の縦切りにして、氷水ですっきりと冷やす。それにね、もろ味噌を付けて食べるだけで、ナス特有の青くささが夏を運んできてくれる。さっぱりなのに濃厚で、歯ごたえもいいんだ。これもいい箸休めですよ。
それで、ここからが私の本当の楽しみなんだけどね、魚屋で手配しておいた穴子を焼くんだよ。穴子というのは食卓に並ぶ機会が少ないということもあるけれど、何より足が早くてね、予約しないと手に入らないわけ。新聞紙に包まれた穴子は、頭を落として腹を捌いてあるから、あとはブツ切りにするだけだ。これをあらかじめ、醤油と酒だけのタレに漬け込んでおくんだよ。
タレに漬けることで、穴子の身の余分な水分が抜けて、旨味がぎゅっと凝縮される。それを備長炭の直火で一気に焼き上げるんだ。あの何とも言えない香ばしい匂いが立ち上る瞬間は、まさに炭火焼きの醍醐味だね。お店のように蒸していないから、少しばかり身は固くなるんだけどね。だけど、備長炭の強い熱で表面を網の上で焼き固めてあるから、噛み締めるたびに穴子自身の程よい脂がじわじわと滲み出てきて、醤油だけの単調な味にならないんだ。この弾力と野趣あふれる旨味こそが、直火で焼く穴子の正解なんです。
こんなことを少しずつやっているとね、あっという間に空が赤から薄紫に色を変える。そうなると残りのご馳走を食卓に並べてね、今度はビールから冷酒に相棒を変えて、こっそりと宴を続けるんです。蝉の声の余韻に浸りながらね。
了
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