片隅で読む『ほたる文庫』#23
(この文庫が、心の片隅をそっと灯しますように。)
先日、知人へのちょっとしたプレゼントを選んでいた時のこと。
棚の前であれこれ悩んでいると、近くに、5歳くらいの男の子が一人でいました。
親御さんの姿が見えない。
……大丈夫かな。
気になって、プレゼントを選びながら、つい、チラチラ見ていました。
(あ、今こっち見た)
(あ、まだ一人だな)
……
……
…結局…
……
……
「ネズミのズミーだよ〜!」
男の子の目が確かに輝きだしました。
「こっちはネコのコーネ。コーネはね、やさしいからズミーを追いかけたりしないんだ。」
いきなり設定が降りてきてしまって、もう口と体が止まりません。
「ズミーとコーネはいつも仲良し…」
神がかる私は、プレゼントそっちのけで、ズミーとコーネの世界を熱く語り続けます。
(ズミーは小さくて臆病者)
(コーネは大きくて優しい)
(ネコがネズミを決して追いかけない設定)
(平和で楽しいあったかいお話)
完全に、スイッチ入ってしまっています。
「そこにズミーを狙う…」
ーーその瞬間ーー
背後から、低めで、落ち着いた声。
「すみません」
……来た。
お母さんです。
一気に現実。
空気が、スンッと冷える。
すると男の子が、
無邪気に追い打ちをかけます。
「ねえ、ズミーどうなっちゃうの?」
「あ、あの箱の上に逃げたっ!」
お母さん、フリーズ。
「……ズミー?」
私の顔は、もう真っ赤、気持ちは真っ青です。
心配から始まった視線が、
いつの間にか情熱に変わってしまい、
設定が降りてきて、広がる妄想…
一気に現実に戻されて冷静に。
「失礼します!」
そう言って、私はその場を去りました。
ズミーも、コーネも、置き去りにして。
プレゼントも買えずに、物語から撤退。
あぁ、きっと今もどこかで、ズミーとコーネは仲良く遊んでいることでしょう。
もしかしたら、ドゥオモで会えるかもしれません。
冷静と情熱のあいだで、
妄想は、はじける。
坂井ほたる
