短編小説 : 濡虎
「あなたの書いた小説、とても良かった」
女教師。僕は彼女をそう呼んでいる。女教師はぴっちぴちのぱっつんぱっつんのタイトミニスカートで脚を包装していた。「陰部は脚に属する」そう言ったのは安部公房だったっけ。彼女は砂の女を気取っているのか。
「ここ、『唇は露出した内臓』というところ、これはあなたが? それとも引用かしら?」
「引用です。どこからかは忘れてしまいました」
くそ。知ってて聞いてるのかどうかわからない。会話ゲームの主導権を握られてる。「ゲームの達人は人生の達人だ」と言ったのは誰だっけ。たしか、ダニエル・J・ダービーだ。奴は結局はったりに、脅しに負けた。女教師のゲームに乗ってはダメなんだ。この会話をゲーム盤ごとひっくり返して、無茶苦茶にしてしまうにはどうしたらいい?
「じゃあ、唇について深めていきましょう」
僕は唇を引っ込めた。脅しの代わりのキスをしてやろうと思った矢先だ。強引に舌を突っ込んで会話を終わらせてやろうとしたのに。くそ。なんなんだ、そのバリモアカラーの白シャツはなんなんだ。どこで買ったんだよそんなの。上までボタンを閉めてガードが硬いかと思いきや透けてんだぞブラが。なぜベージュを選ばない? きっと白だ。今どき中学生だって選ばないぞ、わざとなのかわざとだろうわざとに違いないそう言ってくれ。くそ。落ち着け、冷静になれ。「クールになれ」と言ったのは前原圭一だ。彼は言葉とは裏腹にホットに思考した。だから負けたんだ。真のクールとは禅だ。煩悩を捨てることだ。僕はそれを知っている。思考を止めろ、真にクールになれ。
「唇は、いつも半分だけ濡れているの」
僕の思考は止まった。
山月記の虎が、女教師の唇を全て濡らしたのだ。
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